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第18話 “婚約者”と松茸料理

 ゲームも早々に切り上げ、由弦と愛理沙は近くのスーパーへと向かった。

 そして必要な食材をいくつか、購入。

 マンションへと戻ろうとした……


 その帰り道。


「うん? ……雨か」


 ぽつりと、冷たい物が皮膚に触れて、由弦は思わず空を見上げた。

 どんよりと、薄暗い雲が空を覆っている。


「少し急ごうか」

「そうですね」


 由弦と愛理沙は少し早足でマンションへと向かう。

 幸いにも本格的に降り始める前に帰ることができたが……


「こりゃあ、しばらく止みそうにないな」


 由弦はベランダの窓から外を眺めながら言った。

 二人が部屋へと駆けこんでから、五分後にはすでに土砂降りになっていた。


「電車、止まったり遅れたりしなければ良いのですが……」

「少し、意識した方が良いかもな」


 もっとも、最悪、タクシーを呼べば良いのだが。

 由弦がお金を出してあげればいい。

 愛理沙は申し訳ないというかもしれないが、しかし家に招いた以上、彼女を無事に帰すのが由弦の使命だ。

 

「じゃあ、由弦さんはいつも通り、大人しく待っていてください」

「……俺も少しは母親の手伝いとか、したことあるし。できること、あるかもしれないぞ?」


 試しにそう言ってみると、愛理沙は首を左右に振った。


「お気持ちは大変、嬉しいです。でも、私には私のやり方があるので。それに……」

「それに?」

「もし、由弦さんの料理の腕が上がるようなことがあったら、私、困ってしまいますよ。立場が無くなります」


 冗談半分、という様子で愛理沙は言った。

 由弦の料理の腕が云々というのは冗談だが……

 自分の仕事を取られると立場がなくなる、という言葉は本音のようだ。


「分かった。では、大人しく待っているとしよう」

 

 無理に手伝っても愛理沙の邪魔になるだけなので、由弦はここで引き下がることにした。

 いつも通り、皿洗いだけ手伝えば良い。


 それから時間が過ぎ去り…… 


 時刻は十八時。

 松茸を贅沢に使用した料理が完成した。


 献立は以下の通り。


 松茸ご飯。

 松茸のお吸い物。

 松茸と海老の天ぷら。

 松茸のホイル焼き

 松茸の茶碗蒸し。

 松茸の一本焼き。

 松茸の土瓶蒸し。

 松茸とほうれん草の炒め物。

 

 となっている。


 松茸をメインに添えつつ、彩や栄養バランスも考えられたメニューだ。


「今日は……本当に豪華だな」

「何か、すみません。調子に乗って、作り過ぎてしまいました」


 愛理沙は頬を掻きながら言った。

 松茸という高級食材を前にして、少し張り切り過ぎてしまったらしい。


「まあ、余った分は明日にでも消費するよ。せっかく、君の作ってくれた料理だ」

「そう言って頂けると、嬉しいです」


 二人で手を合わせる。

 由弦はまず、お吸い物へと手を伸ばした。


 ほんのりと鰹出汁と松茸の良い香りがする。


「普段の味噌汁も美味しいけど、こういうのも良いね。繊細で上品な味がする」

「ありがとうございます」


 由弦が料理を褒めると、愛理沙は淡々とした声でそう返答した。

 しかしその瞳はとろんと蕩け、口元はへにゃりと少しだらしなく緩んでいる。

 そして肌は僅かに赤らんでいた。

 分かりやすいほど、照れている。


 それから松茸ご飯へと箸を伸ばす。

 松茸がメインだが、しめじや舞茸などの他の茸も入っている。  

 口に含むと、松茸の強い香りがした。


 それから次に天ぷらに手を付ける。

 取り敢えず、試しに松茸の天ぷらに塩を振りかけて、口に運んだ。


「……こう言ってはなんですが、由弦さん」


 由弦と同様に松茸を食べた愛理沙は、苦笑を浮かべながら言った。


「松茸、味は美味しくはないですね」

「まあ……香りがメインだね」


 そういうわけで、次は香りを楽しめる料理へと、移行する。

 土瓶蒸しだ。


 おちょこがあった方が雰囲気は出るが、生憎、由弦の家におちょこはない。

 なので、湯飲みへと出汁を注ぐ。


「ん……これは良いな」


 海老の出汁と、松茸の風味がよく合っている。

 カボス汁を少し絞ってから飲むと、少し味が変わって、これまた美味しい。


 今度は蓋を開けた。

 中には海老、松茸、人参などの具が入っている。

 これを菜箸で皿へと取り出してから、口に運ぶ。


「これはまた、美味しいな。お吸い物とは、松茸の食感も違うし」

「そうですね。……実は土瓶蒸し、作ってからお吸い物と被っちゃったなと思って失敗したと思ったのですが、全然違いますね」


 勿論、お吸い物は鰹出汁。

 土瓶蒸しは海老出汁と、使用している出汁が違うので味が異なるのはある意味当然かもしれないが。


 味が濃い物が続いたので、今度は松茸の一本焼きを食べることにした。

 これは大きな松茸を、網で焼いた、非常に贅沢な一品だ。


「ん……」

「……茸ですね」

「まあ、茸だな」


 味の感想は、“茸”だった。

 由弦も愛理沙も、顔を見合わせて苦笑いをするしかない。


 次にホイル焼きに挑戦してみる。


「一本焼きよりは、こっちの方が美味しいな」

「そうですね。やっぱり、お酒とかで味付けをした方が、美味しいですね」


 次に松茸とほうれん草の炒め物。

 “緑が欲しい”という理由で愛理沙が作った料理だ。


「バターと松茸、結構合うんだね」

「そうですね。……でも、少しバター風味が強すぎた気がします。反省点ですね」


 最後は茶碗蒸し。

 スプーンで冷ましてから口に運ぶ。


「これは……美味いな」


 海老と鰹出汁の濃厚な味。

 そして松茸の上品な香りが口いっぱいに広がる。


 舌触りも非常に良い。


「この中では、一番好きかもしれない」

「そう言って頂けると、幸いです。……得意なんです、茶碗蒸し」


 愛理沙も自信があったらしい。

 嬉しそうにほほ笑んだ。



 それから二人は日持ちしなさそうな物、冷めたら不味くなりそうなものは優先的に胃袋に収めた。

 そしてお吸い物などの、再度温めれば食べられそうな物は、ラップを掛けて冷蔵庫に保存する。


 最後に二人掛かりで洗い物を済ませてしまう。


 そして……由弦は窓から、外を見た。

 雨風はさらに強くなっていて、とても帰れそうな様子にない。


「困ったな。……タクシーでも、呼ぶか? 余裕が無いなら俺が立て替えるけど」

「さすがにそれは申し訳ないというか、由弦さんだって、お金に余裕があるわけじゃ……」


 その時。

 窓の外が一瞬、光った。


 続いて、空が割れるような音が響き渡る。


 そして……


「っきゃぁ!!」

「うわっ!」


 愛理沙に押し倒された由弦は悲鳴を上げた。


かみなり様「ふぅ……良い仕事したぜ」


というわけで、次回は働き者のかみなり様が良い仕事をしてくれます

良いぞ、もっとやれ! と言う方は

ブックマーク登録、評価(目次下の☆☆☆☆☆を★★★★★に)をしていただけると、かみなり様がムードを盛り上げてくれます


ついでにカクヨムの方もよろしくお願いします。



それと皆さまの応援のおかげで、年間一位(ジャンル別)となりました

ありがとうございます。


丁度、連載開始から2ヶ月で年間一位です。まあ、ジャンル別ではありますが、そこそこ良い調子と言えるのではないでしょうか。


これからも応援をよろしくお願いいたします

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― 新着の感想 ―
[良い点] 松茸の感想がリアルでグッド
[一言] イイぞもっとやれ!
[一言] ナイスかみなり様!
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