第29話 エピローグ1・独り言
「いるんだろう信二」
何度も訪れた半円形劇場で俺の声は思ったよりよく響いた。
春らしい強い風が吹いた。
俺の想像ではこのセリフを言えばあのすました顔の信二が出てきてくれると思った。
だけど誰も現れなかったし、何も起きなかった。
「いないんかい」
カッコつけて言ったのですごく恥ずかしい。
が誰も見てなかったし、まあいいか。
これから俺は長い長い独り言を言おうと思う。
すごく長くなる。
それにうまく考えがまとまっていないからとりとめのない話になるかもしれない。
でも誰も居ないんだから別にいいよな。
「結論からいったほうが良いか」
俺は長い独り言を始めた。
「まず犯人は信二。目的は俺と彩に脱出ゲームをクリアさせること。そして俺がメモリアランドで彩と交わした約束を思い出させること。でどうだろうか」
俺は観客席に腰を下ろす。
「まず最初のジェットコースターは陸と佐藤を脱落させるのが目的だった。なぜならあの二人が長くいればいるほどボロが出てしまう可能性があったからな」
ジェットコースターは今思い出しても気分の悪い一番最低なアトラクションだった。
「理由は二人の荷物がなくなっていたことだ。おれはあの後コースターに乗った。二人の荷物はどこにもなかった。途中で落ちた可能性もあるんだけど、ジェットコースターってそう簡単に荷物は落ちないようにできてんだ。それに佐藤が持ってたのは肩掛けのカバンだ」
俺のカバンは足元に入れていたんだけど落ちなかったし。
ただ暗かったし、これは確実とはいえない。
「多分だけど何か二人の持ち物に見られてはまずいものとかがあったのかもしれないな。手帳とか携帯とか。俺たちはそれを探そうともしなかったわけだけど。隠したことに意味がある。あの二人が何かを持っていて、カバンを隠さないといけなかった何かが」
完全に今のところ無理やりな予想ではある。
「もしかすると最初に二人がコースターに乗ったのは『そうなるように段取りされていた』かもしれないってことだ。例えば実はあの演出はパークの特別なイベントだとか二人に予め知らせておいたとか」
最初、ジェットコースターで二人が死ぬまでは、俺もまだ心の何処かでイベントかも知れないと思っていた。
「俺たちはあのふざけた脱出ゲームが失敗すれば死ぬってことはジェットコースターが終わった後に初めて気づくことになる、だから陸と佐藤はそれを知らなかったわけだ。イベントの一環だと思ったとしてもおかしくない。唯一最初の一番手だけが前もって仕込みができるんだ」
続ける。
「そしてあの二人があんなことになったことで、次に俺が乗ることになったわけだけどそこは多分誰でも良かったのかもしれない。そもそもあの謎だ。下に向かって手を上げろ。別に佐藤たちがやったことだって間違いとは言い切れないんじゃないか。もし最初の時点で誰かが正解を引いていても別の方を正解にしてしまえばいいだけだった。目的は陸と佐藤を脱落させ、さらには二番手がクリアするという経験を俺たちにさせることだったんだ。その証拠にそれ以降謎掛けのようなアトラクションはなくなっている」
俺はてっきり謎解きが続くかと思っていたんだけどな。
「それにジェットコースターだけが人数の制限がなかった。二人が参加しても不自然ではなかった。それ以降は黒いきぐるみが席を埋めていたし、ティーカップは二人で参加することも考えられたけどあの状況ではそれもありえない。もし、都合が悪くなりそうだった場合は信二が介入して誘導するつもりだったんだろう。それ以降は一人か二人とこちらの参加人数を制限するものばかりだったしな」
これはあくまで信二が犯人だとしたら成立する話だ。
「次にティーカップだ。あれだけ難易度が異常だった。めぐみじゃないとクリアができなかった。普通なら全滅確定のクソゲーだ。ということはめぐみがいる前提で用意されたアトラクションだったんだ。めぐみに挑んでもらわないといけないがいくらめぐみでも最初からあの難易度では失敗もするだろうということでミスが許される設計だった。あとはめぐみが参加してくれるかどうかということ。そこで順平くんとめぐみが幼なじみということを利用した。順平くんが殺されればめぐみは必ず挑戦すると言い出すだろうと。なら犯人は二人の関係を知っていた人物。どうやったかは知らないけどそれができたのは信二のグループになるわけだ。そして順平くんが先に行くように仕向けたんだ」
あのときのめぐみはかっこよかったな。まるでめぐみのリサイタルのようだった。
この最低の脱出ゲームは二度とごめんだけどめぐみが演奏している姿はいつか見てみたいものだ。
「逆に言えばあそこでめぐみがアトラクションをクリアすることは想定通りだった。また二番手でクリアするパターンをもう一度経験させたわけだ。二連続で一番手が死に、二番手がクリアするという経験をしたことによってこの先俺たちは一番手を決めることに悩むことになる」
俺たちが疑心暗鬼に陥るように仕向けたのは間違いないし、狙い通りだったのだと思う。
「三つ目のアトラクションのメリーゴーラウンド。あれだけが最初の挑戦でクリアできたアトラクションでそれをやったのが信二だ。目的は一番手でもクリアできるということを見せることだ。だからあれは俺が謎を解かなくてもクリアできたんだ。照明の具合によって色の調整ができるんだから、気づけばそれで良し。気づかなければ運で突破したとかそれでごまかしたのかもしれない。あとはもしかすると、ここでおれが一番手をやる予定だったのかもしれない」
そういえば俺の腕の傷はどうなってるんだろう。
絆創膏を剥いでみた。しっかり俺の歯型が残ってた。紫色になってる。あ、こういうのは元に戻ったりしないんだね。
これ、病院に行ったほうが良さそうだな。
だけどまずは謎解きが先だ。
「さっき俺は一番目のアトラクションは誰が二番手でクリアしても良かったと言った。あの状況で動けたのは我ながらすごいことだと思う。でも、もう一度同じ事が起きたときに俺は同じことができるとは思えない。そんな自信はない。俺はそんな大層なやつじゃない。だとすれば、あそこで俺が動かなかった場合は信二が動いたのかもしれない」
これもあくまで信二犯人説に基づいている。
「そうなると、俺がアトラクションに参加しなかったことになりこの後の展開が変わってしまう。だから、メリーゴーラウンドはその調整のためのアトラクションだったんじゃないか」
いや、もしかしたらそっちが本来の計画だったのか。
「本当は俺があそこでクリアする予定だったんじゃないか」
俺は問いかけてみるけど返事はない。
でも続ける。
「俺がジェットコースターで二番手をやったことによって、あのメリーゴーラウンドでは信二が一番手をやらざるを得なかった。少々やりすぎだったもんな。あんなあからさまに一番手クリアをやってのけてしまえば疑いの目がかかってしまう。俺はあの時、まだ半信半疑どころかほんの数%だったけど信二に対して疑問を持ち始めたんだ」
そう考えると、最初に俺がジェットコースターに乗っていなかったら、信二の計画どおりに全て進んでいたら、俺はいくつかの疑問ももてないまま終わっていたかもしれない。
「4つ目のアトラクションのゴーカート。女子が選ばれにくい車のアトラクション。車の免許を持つ中村を落とすのが目的のアトラクション。ゴーカートには『まともな』トリックがない。ということは逆に言えば誰を勝たせ、誰を負けさせることも可能だった。ここで、邪魔者である中村を脱落させようとしたんだろうし、もしほかのやつが挑戦した場合はそいつを勝たせればいい」
この予想はかなり無茶があるかな。
免許があるってだけで本当に中村がやるといいだすかはかなり賭けな部分がある。
「5つ目のアトラクションのミラーハウス。ここで順番決めで信二がやたら邪魔してきたことと最後になって急に入ることにしたあれは計画通りなのか、それともアクシデントなのかわからないが、おそらくミラーハウスに俺と彩を二人で入らせ、昔のことを思い出すきっかけにさせようとした。と俺は考えている」
だからミラーハウスが最後のアトラクションだったんだ。
これで俺の妄想は終わり。
穴だらけだってのは自分でもわかってる。
断片的な情報を無理やり繋いだだけだ。
自分を納得させるために。
俺は立ち上がる。
「俺と彩の約束。観覧車でしたあの約束を思い出させようとしたんだ」
俺はめいいっぱいカッコつけて大きな声で言った。
「そうなんだろ。今度こそ出てこいよ信二。いや、メモリアランド」




