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55話:ヤるなら早くしろ。出なければ帰れ

「どうした? ほれほれ、子作りじゃ、子作り。はようせんか」


 黄泉の国の烙印を渡す交換条件として、俺とダイルナにセックスをしろと強要してきた黄泉の国の支配者……冥王。

彼女は少しも悪びれる様子もなく、無邪気な子供のように手を叩きながら催促を続けている。


「……何の冗談ですか?」


「我は冗談など口にせん。本気で、お前達の子作りが見たいのじゃ」


 冗談だったら、どれだけ良かった事か。

 冥王様の顔を見る限り、どうやら本気で言っているようだ。


「ふむ。随分と嫌そうじゃな……いや、心を読めば分かる。ネトレ、お前はダイルナとのセックスを拒んでおるな」


「っ!」


 冥王様の言葉を聞き、ダイルナがショックを受けたように俺の顔を見てくる。

 恐らくはわざとなのだろうが、変な言い回しをしやがって……!


「心を読めるのなら、その理由も分かるでしょう?」


「ああ、分かるとも。そこのダイルナとの約束を守ろうとしているのであろう?」


 俺とダイルナとの約束。

 かつて、ダイルナは俺に言った。この恋を大事にしたい。

 だから、体の関係を結ぶのは……俺が彼女の事を好きになってくれた時だと。


「ネトレ君……! 私、嬉しいわぁ……!」


 俺の真意を知って、ダイルナが両手を合わせて嬉しそうに微笑む。

 そう。彼女の気持ちをないがしろにして、抱くなんて事は――


「ふむ……分からん」


「「え?」」


「ダイルナ。なぜ貴様は嘘を吐くのじゃ?」


 豪華な椅子に座り、うんざりとした様子で頬杖を突いている冥王様。

 彼女はダイルナを冷たい瞳で見下ろしながら、言葉を続ける。


「嘘を申すな。お前、ネトレに抱かれたがっているじゃろう?」


「それは、そうですけどぉ。でも……彼が私を愛してくれるまでは……」



「嘘を申すなと言うておるっ!」



「「!?」」


 冥王様が咆哮のような大声と共に足を振り上げ、それを床へと振り下ろす。

 すると踏み砕かれた床から大きな亀裂が走り、さらにはその衝撃によって部屋中の壁がひび割れ、天井からは崩れた破片がパラパラと降り注ぐ。

 その、あまりにも圧倒的な迫力と衝撃に――俺とダイルナは指一本すら動かせず、立ち尽くす他に無かった。


「我に嘘は通じぬ。それなのに我に本心を隠そうとする者を見るとイライラするのじゃ」


「うっ……あっ……」


「次にもう一度、我に嘘を申してみよ。その時は、貴様の首を跳ね飛ばしてやろうぞ」


 ニッコリと笑みを浮かべてこそいるが、冥王様は本気だ。

 彼女の機嫌をほんのちょっとでも損ねれば、俺もダイルナも……一瞬で殺される。


「冥王様。ダイルナが、嘘を吐いているというのは……?」


「おお、すまんな。心を読めぬお前には分からぬ話じゃった。ならば、我が真実を教えてやるとしよう」


「やめてください……! 冥王様……それだけは……!」


 ダイルナは震えながら、迷王様に懇願する。

 しかし、冥王様は聞く耳を持っていないようだ。


「この女、表向きは理性という仮面で取り繕うとしているが……その大きな胸の奥では、ネトレに犯される事だけをずっと考えておる」


「いやぁ……! 聞かないでぇ、ネトレくん……!」


「何度も何度も、ネトレが他の女達と子作りする光景を思い返し、自らを慰め、それでも満たされない疼きに苦しみながら……お前の前では平静を装っておる」


「ダイルナが……?」


 ダイルナを見る。彼女はその場でへたり込み、涙を流しながら俯いている。

 その反応こそが、冥王様の言葉が正しい事の何よりの証明であった。


「我も驚いたわ。ここに招き、貴様達の心を読んで見れば……片方の女の頭の中には、セックス、セックス、セックス、セックス」


「あ……うあぁ……ぁぁぁぁ……!」


「ネトレの逞しいチ○コ、チ○ポ、ペ○ス、○茎、マ○、とにかく私のアソコに突っ込んでほしい。私の胸を好きなだけ、激しく弄んで欲しい」


「言わないでぇ……知られたくないのぉ……ネトレ君には、ネトレ君にだけは……!」


「とんだ変態よな。我も数千年近く生きておるが、こんなにも外面と内面にギャップがある女は初めてじゃ」


「だってぇ……! だってぇ、ネトレ君が好きなのぉ……! 好きだからぁ、こんな私の本性を見せたくなかったのぉ……! 私を好きになってほしかったのよぉ……!」


 泣きじゃくりながら、ダイルナは堰を切ったように口を開く。

 もはや冥王様の前で、隠し通すのは無理だと悟ったのだろう。


「本当に人間というのは愚かじゃのぅ。そうして一歩後ろに下がって、なんの得があるというのじゃ? たかだか100年足らずの人生……もっと謳歌せんか」


 玉座から立ち上がり、冥王様はこちらに歩み寄りながら言葉を続ける。


「我はこれまで、無限にも近い数の死を目の当たりにしてきた。そして、その大半が自分の想いを胸に秘めたまま死んでいった者達じゃ」


 そして冥王様は……ダイルナの肩に手を置いて、彼女に優しく語りかける。


「ダイルナよ。ただでさえお前は、もんのすごーく、出遅れておるのじゃ。それはもう、義理の娘に出番を食われ、あまつさえ復讐相手だった僧侶にさえも、先んじられるほどに」


「うぐっ!?」


「……何の話だ?」


 シアンとヘダの話……っぽいが。


「それに、お前も知っていよう。ネトレの周りにおる女共は変態じゃ。それはもう、色欲の悪魔も裸で逃げ出す程の性欲バイオレンスモンスターじゃ」


「……はい」


「ネトレはそんなモンスター達の性欲を、一身で受け止める男なのじゃぞ? 今さらお前1人が増えたところで、動じるような男ではあるまい」


「え? いや……流石にこれ以上激しくなるのは、ちょっと……」


「そうよねぇ。ネトレ君なら、私の衝動にだって……」


「うむ!」


 いやいや、うむ! じゃないでしょ!?

 勝手に決めないで欲しいんだけど!?


「ありがとうございます冥王様。私が間違っていましたぁ。ただでさえ周回遅れしているのに、格好つけている場合じゃないわよねぇ」


「そうじゃ。なりふり構わず、ネトレの子種を絞り取れ。最初に身ごもれば、大逆転満塁オメデタホームランもありえるのじゃからな!」


「ああ、冥王様! 流石は黄泉の国の絶対支配者……!」


「もしもーし? 俺の声、聞こえてますかー?」


 ダメだ。もはや俺抜きで、彼女達は盛り上がっている。


「そういうわけじゃ。ダイルナよ……子作り、ヤれるな?」


「ハッ!? もしかして、烙印の交換条件に子作りを指定したのは……?」


「フゥハハハハ! 情けない欲情する乙女を放っておけなくてのぅ! 我なりに、背中を押してやったというわけじゃ!」


「もはや言葉になりませんわぁ! 冥王様ぁっ!」


「こ、こら! よさぬか。我を抱きしめるなどと、不敬じゃぞ!」


 感極まって、冥王様に抱きつくダイルナ。照れる冥王様。

 そして、その傍らで棒立ちの俺。


「ヤるなら早くしろ。出なければ帰れ!」


「……ヤります。私にヤらせてくださぁい!」


「よう言った! それでこそ乙女じゃ!」


「……」


「さぁ、ネトレ、ダイルナよ! 我の目の前で子作りしてみせい! わくわくっ!」


「ネトレ君、ヤるわよぉ!」


「はぁ……やっぱりこういう事になるのか」


 というわけで、これから俺はダイルナを抱く事になりました。

 まぁ、少々思っていた流れとは違うが……何にしても、ダイルナがいずれ抱く相手であった事に変わりはない。


「ネトレ君……激しく、私を犯してくれるかしらぁ? 私を縛る理性の鎖から、本能を解き放ってほしいの!」


「ええ。冥王様の目の前ですからね。それはもう……手加減無しで」


「……どきどき。よ、ようやく生で性行為が見れるのじゃな……ごくり」


 というわけで、黄泉の国まで来て……俺はダイルナを抱きます。

 アイ、ガティ、シアン。ヘダ。

 現世から俺を応援しておいてくれ、みんな!

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