表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/57

53話:先帝の無念を晴らす!


【サンルーナ王城 謁見の間】


「……ふぅ、ようやく。ようやく私が、この玉座に座る日が来たのだ」


 邪魔者の排除に成功し、空となった玉座に腰掛けるのは――先程、皇帝に兵を差し向けた張本人であるザーク・ビスト・クラウディウスだ。


「しかし、まだ終わりではない。私が完璧な皇帝となる為には……障害が多すぎる。そこで、貴殿達の力を借りたい」


 そう、ザークが呼びかけた先にいるのは――少し前、サンルーナへと入国したばかりの4人の男女。

 エクリプス王国騎士団に所属する、隊長と副隊長達であった。


「……おいおい、俺達はお尋ね者の始末に来ただけだぜ? アンタのクーデターになんか、興味ねぇよ」


「だが、私が皇帝になれば……あのゾフマの時とは違い、エクリプスと友好関係を築く事が可能となる。そちらにもメリットのある話ではないか?」


 面倒そうに答える細身の男に、諭すように語りかけるザーク。


「それに、私が殺めて欲しい者達は……貴殿らの狙いであるニセ勇者と、裏切り者の騎士と行動を共にしておる。2人殺すのも、4人殺すのも同じであろう?」


「そういう事であれば、お受けしても良いでしょう。しかし、我々に殺して欲しい人物とは一体……誰の事なのですか?」


「1人目は、あのゾフマの息が掛かっていた大手ギルド……フロンティアのギルドマスターであるダイルナという女だ」


「へぇ、女か。美人だったら、俺が切り刻んでやらねぇとなぁ」


「お前は黙っていろ。ザーク殿、もう一人は?」


「それは、我が娘……いいや、もはや我が娘ではない。サンルーナ前皇帝の姪である、サノア・ネクス・クラウディウス。この女を、処分して貰いたい」


「「「「!!」」」」


【フロンティア本部】


「シアンスカさん! 大変ですっ!」


「どうしたのですか?」


 ネトレとダイルナが黄泉の国へと向かう儀式を行っている最中。

 2人の警護に付いているアイとシアンスカの元に、フロンティアのメンバーである冒険家の1人が飛び込んできた。


「じ、実は……王城で、クーデターが起きたみたいで!」


「「クーデター!?」」


「はい、貴族のザークが……私兵や、複数のギルドの冒険者を使って、城を包囲したらしくて……それで、それでぇ……」


「……まさか?」


「ゾフマ陛下が……殺害されたという、知らせも……!」


「あの……陛下が? 死んだ?」


 ゾフマの訃報を聞き、シアンはその場に崩れ落ちる。

 それを慌ててアイが抱きとめるが、シアンの顔には生気が無く……まるで死人のように青ざめていた。


「……あの変態。私に何も言わずに死ぬなんて、本当に……馬鹿ですね」


 シアンスカがゾフマと初めて会ったのは3年前。

 ダイルナが自分の義理の娘だと紹介した際に、ゾフマは目をハートにしながら、シアンスカに求婚してきた。

 サキュバスの力など関係なく、この幼い容姿に惹かれたという男に。

 シアンスカは拒否こそすれど、不思議な嬉しさを覚えたものだ。

 そしてそれから懲りずに毎回、会う度にゾフマはシアンスカに求婚してきた。

 それを受ける事は勿論、彼に対して恋心を抱く筈など無かったが……だとしても。

 シアンスカはゾフマの事が嫌いではなかった。

 口では暴言を吐きつつも、第二の父親のようだと……彼の事を慕っていた。


「私とネトレさんの娘に、求婚するとかほざいていたくせに……」


「先生……」


「笑えないですよ、本当に」


 シアンスカの周りに、空間を歪める程の膨大な魔力が立ち込める。

 怒り。殺意。様々な負の感情が彼女の中で渦巻き、それが魔力という形で吐き出され続けているのだ。


「……ダメだよ。私達の役目は、ネトレさんを守る事だから」


「分かっていますよ、アイさん。私は……このフロンティアで、ネトレさんとダイルナさんを守り抜きます。ですが……」


「……うん。そうだね」


「もしも連中が、この場所へ来るようなら――」


「大暴れ、しちゃおっか」


 この日、ザークの配下の中で……フロンティア襲撃を命じられた者達は幸運だろう。

 なぜならば、こんなにも美しい少女達の手によって――

 苦しむ暇すら与えられず、あの世へと送られる事になるのだから。


【黄泉の国へと続く道】


 黄泉の国を目指し、迫りくる亡者の群れを蹴散らして進む俺とダイルナ


「はぁっ、はぁっ……! キリがないな!」


「まさか、これほどの数だなんてぇ……!」


 しかしどれだけ倒しても、亡者の数が減る事はない。

 このままだといずれは追いつかれ、亡者の群れに飲み込まれてしまうだろう。


「……しょうがないわぁ。ネトレ君、ここは私が囮に……」


「ダメです! そんなの、絶対に認めません!」


「でもぉ、そうでもしないとぉ……!」


 片方を囮にすれば、もう片方は生き延びられる。

 それは理解しているが、だからと言ってそんな方法は選びたくない。


「俺は諦めない、最後まで……!」


「ネトレ君……」


「俺を待ってくれている女達の為にも、こんな場所でくたばっていられるかよ!」


 俺は剣を振るい続ける。

 たとえ、勝算が0に近いとしても……関係ない。

 やるか、やらないか。俺にとってはただの2択でしかないんだ。


「うぉぉぉぉぉぉっ!」


 亡者を切る。コイツらは大した戦闘力は持たない。

 体力さえ、気力さえ続けば倒して進んでいける。

 だから、心を折るな。命を燃やしてでも、戦うんだ!


「ハハハハハッ! それでこそ、余が認めし勇者よな!」


「……え?」


 亡者を数体、倒したところで……他の亡者達の動きが止まる。

 よく見れば、亡者達は俺やダイルナではなく、全く別の方向を見ているようだ。

 その方向を見ると、白く輝く――淡い光の球が浮かんでいた。 


「ネトレよ。ここは余に任せて、先へ進むがいい。貴様がこんな場所で死んでは……余の可愛い姪や、シアンたんが悲しむからな」


 光の球が形を変えていき、やがて人となる。

 その声、その言葉、そして、その姿は……まさしく。


「どうして、貴方が……こんな場所に?」


「ネトレ君っ! 急いでっ! 早くっ! 今の内よっ!」


 動揺する俺の手を無理矢理引いて、ダイルナが駆け出す。

 彼女の顔を見ると、その両頬には大粒の涙が伝っていた。


 ああ、そうか。

 やっぱり、そうなんだな。


「……ありがとうございます、陛下」


 俺は一度だけ頭を下げて、そのまま駆け出していく。

 何がどうなって、こんな状況になったのかは分からない。

 それでも、俺のやる事は変わらない。

 黄泉の国の烙印を手に入れ、現実世界へと戻り……封魔剣の封印を解く。


「俺……必ず、やり遂げますから」


 そして、それが終われば――真っ先に陛下の仇を取ってやる。

 誰が相手であろうと、絶対にな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ