47話:占い師は見ていた&修行に励む乙女達
【クラウディウス邸 サノアが目覚める前】
「うへぇ……これはすっごいびっしょり、出しちゃったわねぇ」
気を失いって失禁した少女を……渋々といった様子で助け起こすダイルナ。
俺も手伝おうかと思ったが、男の俺が出る幕は無いだろう。
「ネトレさん、止血を」
「ああ、ありがとうシアン」
俺の足の怪我を見て、シアンが真っ先に手当を施してくれる。
いててて……フロンティアに戻ったら、すぐにヘダに治してもらわねぇと。
「ところで、そろそろ説明してくれるか? どうしてその子は……俺を攻撃してきたんだ?」
お見合い感覚で来てみたら、いきなりレイピアでお出迎えだからな。
何かちゃんとした意味がある事だと思いたいが……
「実は……」
「それはあーしの方から説明しちゃうっすよー」
俺の質問に答えようとしたシアンの言葉を遮ったのは、部屋のクローゼットから飛び出してきた1人の少女だった。
「ずぅーっと見てたっすけど、お兄さん強いっすねぇー! あーしもびっくりしすぎて、お嬢みたいにおもらし寸前だった、みたいなー?」
ウェーブがかったピンク色の髪をツインテールにし、褐色の肌が特徴的な彼女は、右手に大きな水晶玉を持ちながら……俺の前まで駆け寄ってくる。
この子は一体……?
「あらぁ、エイテちゃんじゃなぁい。そんな場所に隠れていたのぉ?」
「うっす、ダイルナさん。相変わらずのモンスターおっぱいっすね。今度、揉ませて欲しいっす!」
「ごめんねぇ。もう私の胸は売約済みなのぉ……うふふふっ」
「あちゃー、マジっすか!? くぅーっ! 残念っすよー!」
「……相変わらずですね」
「シアンっちこそ、今日もクールビューティーでぷりちーな感じ? つーか、前に会った時よりちょっぴり大人っぽくなってなーい?」
「無論です。私はもう、大人の階段を登ったんです」
「……え? マジぽん? シアンっちに先越されるとか……マジ凹みなんすけど」
エイテと呼ばれた少女は、顔見知りであるダイルナやシアンと仲良く話している。
やけにテンションの高い少女だが、正体は一体……?
「あっ、申し遅れったっすね。あーしはサノアお嬢様に仕える占い師のエイテ・ブライトリアっす」
「俺はネトレ・チャラオだ」
「じゃあ、ネトレっちと呼ぶっすね。今後ともよろしくーっす」
自己紹介を終えて、俺の手をニギニギと掴んでくるエイテ。
なんというか、掴みどころのない女の子だな。
「ダイルナさん、シアンっち。説明はあーしに任せて、おもらしお嬢の事をよろしくお願いするっすよー」
「ええ、分かったわぁ」
「では、ネトレさん。また後で」
エイテに促され、サノアを連れて部屋を出ていくダイルナとシアン。
こうしてこの部屋に残されたのは、俺とエイテだけである。
「さて、そろそろ説明して貰えるか? さっきの……サノアの行動の意味を」
「その前に、ネトレっちはお嬢に課せられた役目を知っているっすか?」
「ああ。封魔剣の封印を解く力……の事だよな」
「それもあるっすけど、1番大事なのは……お嬢の結婚相手が、この国の次期皇帝になるって事っすよ」
エイテの言葉に俺は頷いて返す。
これはすでに、ゾフマ陛下から聞いていた話だからな。
「その地位を狙って、お嬢に婚姻を迫る人間は多い。だからお嬢は、ああした手荒な真似をしてでも……相手の人間性を確かめようとしていたんすよ」
「あんな奇襲で、そんなものが分かるのか?」
「テストしているのは主に2つ、まず1つが、お嬢の攻撃を難なく躱せるレベルの相手であるかどうか。これはまぁ、封魔剣を扱えるに相応しいかの確認すね」
なるほど。確かにあの程度の攻撃を防げないようでは、国宝を手にする資格は無い。
「そして2つ目。毒の存在を知らされた後の反応っすね。大抵が怒り狂うか、泣きながら助けを求めるか……なんすけど」
「それで何が分かるんだ?」
「人としての器っすかね。正解はあーしにも分からないっすけど、これくらいでキレたり、泣き喚くような奴は……皇帝にはなれないんじゃないっすかね?」
まぁ、言われてみれば……そうかもしれないな。
皇帝たるもの、感情的になって冷静さを失うようじゃダメだ。
問題に直面した時、いかに冷静な判断を下せるかどうか。それが大事なのだろう。
「その点、ネトレっちは良かったんじゃないんすか? まさか、足を切って出血解毒までするとは思わなかったすけど……ぷくくくくっ!」
口元に手を当てて、楽しそうに笑うエイテ。
そりゃまぁ、あんなムキになったのは……今にして思えば恥ずかしいが。
「あっ、違うっす! 馬鹿にしてるんじゃなくて、本当に感心しているんすよ? むしろ、あそこまで本気になってくれた事が……あーしも、お嬢も嬉しくて」
「嬉しい?」
「これまで、お嬢に婚姻を申込みに来た男達はみんな……半端な覚悟だったっすから。命を掛けて、お嬢のテストに応えようとする人間なんて、1人もいなかったっす」
そう言いながら、エイテはトテトテと廊下の方まで歩いていく。
そして、後ろ手を組み……にひひっと笑いながら、俺の方へと振り返ると。
「ちゃーんと、あーし達を幸せにしてくれる人だって、信じているっすからね?」
そんな言葉を残して、彼女は走り去っていった。
【サンルーナ外れの森】
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「くっ……! やるね、ガティ!」
「フッ、お前もな!」
ネトレがクラウディウス家の屋敷で、占い師のエイテと話している頃。
別行動を取っているアイとガティは、サンルーナの外れにある森で戦っていた。
「喰らえっ!」
「甘いっ!」
自分の体を自由自在に変形させ、ガティを攻撃するアイだが……それらは全て難なく防がれてしまう。
「きゃぅっ!?」
逆に、ガティの返しの一撃をまともに受けて吹っ飛ぶアイ。
その好機を逃す事なく、ガティは一瞬で距離を詰めて……その剣先をアイの首筋に押し当てる。
「……私の勝ち、だな」
「むむむぅっ……!」
勝利宣言をするガティに対し、アイは不服そうに頬を膨らませる。
「ずるいよー! 私は暗殺用スライムだもん! 正面からの戦いじゃ、勝ち目が無いよ!」
「分かっている。しかし、いざという時に……そんな事は言い訳にはならん」
剣を鞘に納めながら、ガティはアイに手を伸ばして助け起こす。
「ヒイロとの交戦時……我々は何も出来なかった。もっと、今よりも強くならねばならん」
「うん。ネトレが強くなろうとしているみたいに、私達も……」
そう。彼女達がこうして戦っていた理由は、ズバリ修行である。
以前、ヒイロの威嚇によって体が硬直し、ネトレとヒイロの戦いを見ている事しか出来なかった自分達を変えようと必死なのだ。
「……凄い。お二人とも、すでにとてもお強いのに」
そんな二人の修行を傍目から見ていたのはヘダ。
いざという時の回復要員として同行していたのだが、二人の戦いを見て……そのレベルの高さに驚いているらしい。
「私も……もっと強くならないと」
かつて、勇者パーティの中では、ほとんど出番の無かったヘダ。
しかしこれからは違う。
ネトレの女の1人として。ネトレの忠実な手駒として、彼の役に立つ必要がある。
そうでなければ、愛して貰えない。
今もなお、自らの大事な部分を封じる貞操帯を外し、そこに彼の精を注ぎ込んで貰えないのだから。
「さて、もう一戦行くか。ヘダ、次はお前の力でアイを強化してくれ」
「はい! 頑張りますっ!」
「一緒にガティをやっつけちゃおう!」
修行に励む3人の美少女達。
彼女達の健気で純粋な想いが報われる日も、そう遠くないだろう。
「次に私達が勝ったら、今夜ネトレと添い寝するのは私達だからね!」
「な、何を馬鹿な!? ネトレと添い寝をするのは私だ!」
「え~? 本当に添い寝だけで済ませるの~?」
「ぐっ……!? そういうお前達こそ、何か企んでいるだろう!?」
「そそそ、そんな事はありません! 今日もお尻の穴をイジって貰おうなどと、そのような卑しい事は……!」
「メス犬の分際で舐めるなぁっ! ネトレのお気に入りのケツは、この私のデカケツなんだぁぁぁぁぁぁっ!」
「うにゃああああ! ガティ、火力がすっごい事になってるよー!」
訂正。健気で純粋な想いではなく。
愛情と欲望に塗れた想いであった。




