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45話:金髪金眼お嬢様の黄金水

【クラウディウス邸 正門前】


「ここが……クラウディウス家の屋敷か」


 陛下との謁見を終えて、陛下の姪であるサノアに会う為に……彼女の暮らす屋敷へとやってきた俺達。


「ええ。サンルーナで最も大きな力を持つ貴族なのよぉ」


「その割には、随分と嫌われているみたいだけど」


 ここに来るまでの間、サノアの評判について簡単に説明を受けた。

 これまでに多くの男との婚姻を解消したり、他の貴族と揉めたりして、国民からは悪役のような令嬢……略して悪役令嬢と呼ばれているのだとか。


「それには深い理由があるのぉ。サノア様も、好きで嫌われているわけじゃないんだからぁ」

 

「ネトレさん。サノア様は素直じゃないので、多少高慢に接してくると思いますが……決して平常心を忘れずに」


「ああ、分かってる。機嫌を損ねないように頑張るよ」


 下手に嫌われてしまえば、婚姻はおろか……魔封剣の封印を解いて貰えなくなる可能性がある。

 どんな理不尽な相手だろうと、怒らないようにしないと。


「お待ちしておりました。フロンティアの方々ですね?」


 そんな事を考えていると、使用人と思わしき初老の男性が門前に現れる。


「代表のダイルナよぉ。既に陛下からの連絡が届いている筈よねぇ?」


「勿論でございます。それでは、中へどうぞ」


 門が開かれ、俺達は使用人に案内される形で屋敷内へと入っていく。

 その途中、バカでかい噴水や金ピカの像、高そうな絵画、キラキラと眩い派手なシャンデリアなど……金持ちオーラ全開の内装が目に止まる。


「すっげぇなぁ……」


「ふふっ、いずれこれらもぜーんぶ、ネトレ君のモノになるのかしらねぇ」


「……なんだか、クラクラしてきたよ」


「この程度で怖気づいて貰っては困ります。ネトレさんにはいずれ、この世界の支配者になって貰うんですから」


 ふんすっと、鼻息荒く、とんでもない事を口にするシアン。

 俺への忠誠心がマックスな彼女らしい言葉ではあるのだが。


「ほう……」


 ただ、俺達を案内している使用人にとっては……異常なビッグマウスにしか聞こえないだろう。

 彼は怪訝そうに俺の顔を見ながら、廊下の奥の一室へと案内を続ける。


「到着致しました。こちらに、お嬢様がいらっしゃいます」


「ありがとぉ。じゃあ、後は私達だけで話すからぁ」


「はい。それでは……ご武運を」


 ペコリと頭を下げて、廊下を戻っていく使用人。

 ん? 今、ご武運って言ったか……?


「ネトレ君。アナタならきっとぉ、サノア様を満足させられる筈よぉ」


「……満足?」


「この部屋を開ければ分かりますよ。さぁ、どうぞ」


 そう言って、ダイルナとシアンが扉の両脇へと下がる。

 これはつまり、俺1人で中へ入れという事か?


「分かったよ。さて、何が出てくるのやら……」


 やたら仰々しい前フリのお陰で、多少身構えながら両開きの扉を開ける。

 そうして、わずかに開いた扉の隙間から……突然、銀色の閃光が飛び出してきた。


「っ!?」


 俺は間一髪、それをしゃがみ込む事で回避する。

 その僅かな瞬間に見えたのは……細長いレイピアのようなものの切っ先が、部屋の中から飛び出しているという事だ。


「チィッ!」

 

 俺はしゃがんだ体勢のまま、目の前の扉を蹴破る。

 この奥に、俺を攻撃しようとした者がいる事は明白だ。

 手加減の必要は無いだろう。


「まぁっ! 随分と荒々しい殿方ですのね!」


「なっ……!?」


 蹴破られた扉の奥にいたのは、レイピアを片手に持ちながら……ニコニコと微笑むドレス姿の少女だった。

 綺麗な黄金の髪と、金色に輝く瞳。少し幼さを残す顔立ちであるものの、その美貌は疑う余地もなく……超が付く程の美少女である。


「では、これなら……どうかしら!?」


「!」


 その姿をじっくり観察する暇も無く、少女は再びレイピアを構えて……俺に鋭い突きを放ってくる。

 かなりの速さだ。それに、狙いもいい。

 俺の今の体勢で、最も避けにくい両足のどちらかを的確に突き刺そうとする動きだ。

 

「でも……未熟だな」


 右や左に避けても、確実に足は貫かれる。

 だったら、俺の取るべき行動は1つしかない。


「なっ!? 前進して……!?」


 俺はレイピアの攻撃を避ける事無く、少女に向かって前進する。

 その瞬間、俺の右足太ももにレイピアが突き刺さったが……お構いなしだ。


「ほら、捕まえた」


「あぐっ!?」


 俺はレイピアが刺さったまま、少女の腕を掴んで無理やり引き寄せると……彼女の背後へと回り込んで羽交い締めにする。

 こうして身動きの取れなくなった少女は、苦しげな表情でレイピアを手放す。


「レイピアは軽いし、非力な女の子にも扱いやすい武器だ。でも、一撃で仕留めなければ……こうして逆にピンチを招く」


「むぐぐぐっ……!」


「狙うなら、頭や心臓にするといい。でも、逆に言えばそこさえ守っていれば……対処は簡単になるんだけどさ」


 俺に首を押さえられ、宙に浮いている少女はジタバタと両足を動かす。

 しかし、少女の力では男の俺の拘束を解く事は不可能だ。


「……ほら、大丈夫か?」


「げほっ、げほげほげほっ……!」


 俺が離してやると、床の上に倒れ込んでいく少女。

 彼女は激しく咳き込みながら、涙で潤む瞳で……俺をキッと見上げてくる。


「アナタ……!」


「なんのテストか知らないが、これに懲りたら……」


 恐らく、この少女がサノアで……なんらかの理由で俺を試そうとしていたに違いない。

 だとしたら、もうちょっと加減するべきだったか。

 そんな風に思った……直後であった。


「あ……れ……?」


 ぐらりと、視界が大きく歪み、足に力が入らなくなる。

 そうして膝から崩れ落ちた俺の前には……いつしか、歪な笑みを浮かべている少女の顔があった。


「素晴らしい対処方法でしたわ。迷いなく自分の身を犠牲にする判断力、そしてそれを一瞬で実行出来る制圧力」


「まさ、か……!?」


「ですが、それくらいはこちらも承知の上ですの。レイピアに殺傷能力が無いのなら、こうして毒を塗ってあげればいい」


 ドレスの胸元から、液体の入った小瓶を取り出す少女。


「まさか、こんな場所で毒を使われるとは思いませんでしたの? だとしたら、随分と平和ボケした方ですのね」


 ああ、彼女の言う通りだ。

 俺は自分の技術を過信して、甘い想定で行動してしまった。

 どんな時でも、常に最悪の状況を考えて動く。

 勇者を目指していた時に教わった心構えを、俺はないがしろにしていたようだ。


「……少々ガッカリですわ。ワタクシ、アナタにお会い出来るのをずっと心待ちにしていたのに、所詮はこの程度。あの子の占いも、アテには……」


「ありが……とう……」


「えっ?」


「お前のお陰で……自分の甘さを、再認識できた……よっ!」


 俺は腰のベルトに差していたナイフを取り出すと、躊躇いなく右足へと突き刺す。

 それによって吹き出した血が、ビシャッと……少女の顔半分を濡らした。


「これで……少しは毒が抜けるだろ」


「あぇっ? なっ、なぁっ……!?」

 

 血に濡れて動揺したのか、少女は怯みながら後ずさっていく。

 俺はボロボロの右足の痛みを堪えながら立ち上がると、ナイフを構えて……少女へと訊ねる。


「さっきは悪かった。今度は期待を裏切らない。本気でお前を殺しに行くよ」


 一歩、二歩、三歩。血の滴る右足を引きずりながら、俺は少女との距離を詰める。


「わ、ワタクシ……そんな、つもりじゃ……!」


「第二ラウンド……始めてもいいか?」


「ひゃあああああっ!?」


 俺がナイフを振り上げた瞬間、悲鳴を上げて白目を剥き……背後の壁にもたれかかったまま、その場にヘナヘナと座り込んでいく。

 さらに、気絶した事で色々と緩んでしまったのか……


「ぁっ……ぅっ……」


 じんわりと、彼女のドレスのスカート部分がにじみ始めたかと思うと。

 半透明の黄色い液体が……床に広がり、シミを作り始めた。


「あちゃあ……」


 まさか失禁までさせてしまうとは。

 俺とした事が、少々大人げない真似をしてしまった。


「ネトレさん、終わったみたいですね」


「うわっ……!? これはまた、とんでもない状況ねぇ」


 後ろの方から、シアンとダイルナの二人がやってくる。

 とにかく、色々と聞きたい事はあるが……まずはそれよりも先に。


「とりあえず、この子を風呂場まで連れて行ってあげてくれ」


 この少女が起きた時、要らぬ恥をかかないようにしてあげるべきだろう。

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