42話:ギルド陥落。そして――
それはなんと、衝撃的な光景だっただろうか。
「あっ……」
わずかに開かれたドアの隙間から、室内を覗くのは……この施設、ギルド・フロンティア本部の長であるダイルナ・フラミスト。
ほんの数分前まで、自らの想い人を死なせかけた後悔から、自暴自棄になっていた彼女だが……今は別の意味で、大きな衝撃を受けている。
「すごい……! あんなに、激しく……!」
扉の奥。部屋の中では……四人の裸の美女達を、その肉棒で屈服させている少年の姿があった。
口、胸、尻、足、髪。体のありとあらゆる部分を使って、女達は男を喜ばせようと奉仕を行い……少年もまた、己の持てる技術の全てを用いて女達を愛する。
「はぁっ……はぁっ……!」
そんな爛れた光景を覗き見しながら、ダイルナは鼻息を荒くはしても……その場から一歩も動けずにいた。
自分の想い人が、自分ではない女達と快感を貪り合っている。
あんなにも逞しく、大きなアレは……これまで99人の男と関係を持ってきたダイルナでも、初めて見るサイズ。
アレを自分のアソコに入れて貰えたのなら、人生で初めてイケるかもしれない。
「あぁ……ずるい。ずるいずるいずるいずるいわぁっ……!」
右手の指が勝手に動き、火照る体を鎮めようとして股間に伸びる。
だが、そんな事をしても虚しいだけ。
彼女が本当に欲しいモノは、この扉を一枚隔てた先にあるのだから。
「私だってぇ……! 本当ならぁ、私だって愛して貰えていたかもしれないのにぃ……!」
悔しさと嫉妬で、ダイルナの頭は爆発寸前であった。
もし、自分があのような愚かな勘違いをしなければ。
自分が呪いを掛けた相手が、自分の想い人だと気付いていれば……ギルドでの留守番などせず、一緒に彼の呪いを解く戦いに参加していたはずだ。
そうしたら今頃、自分だって彼に愛して貰えていたかもしれない。
「うっ、うぅっ……ぐすっ……やだぁ……! 私も愛してぇ……ネトレくぅん……!」
消え入るように泣き言を漏らすダイルナ。
しかし、四人の女声の艶めかしい嬌声によって、彼女の声はかき消されるだけ。
「あっ、あっ……だめっ、だめぇ……! 私の人生初めての快感が、こんな……こんな、惨めな状況なんてぇ……いやぁぁぁぁぁっ!」
止まらない指。頭では分かっていても、彼女は自慰を止められない。
そして、遂にその時は来る。
愛する人に抱かれるわけでもなく、こんな出歯亀のような状況の中で……ダイルナは、産まれて初めての絶頂を迎える。
「ああああああああああああっ!」
ダイルナの叫びと、部屋の中の少女達の嬌声が綺麗に重なる。
最高の幸福感の中で果てるアイ達に対し、敗北感に包まれながら果てるダイルナ。
それはまさに、天と地の差。
ダイルナの脳は今完全に……寝取られによって破壊されたのであった。
【フロンティア本部・広間】
「ふぅ……アイツら、どんどん手強くなっていくな」
実に……長い戦いだった。
ベッド上での連戦を終えた俺は、アイ達がぐったりとダウンしたのを見測って、部屋からコッソリと逃げ出していた。
そうでもしないと、目を覚ましたアイツらはすぐにエッチを再開しようとするからな。
「ヘダを少し虐めすぎたような気もするが……これでアイツも、俺達に気兼ねしなくなるだろ」
贖罪を果たしたという意識になってくれれば、俺としてもありがたい。
一時は恨みもしたが、今こうして俺の女になった以上……どんな事をしてでも、幸せにしてやらねぇと。
「……おっ?」
ギルドの廊下を歩いていると、その奥にダイルナが立っていた。
彼女は妙に清々しい顔で、窓から夜の外を眺めている。
「ダイルナ……?」
「あらぁ、ネトレ君。お楽しみの時間は、もう終わったのぉ?」
「ええ、まぁ。隙を見て逃げ出してきたところですよ」
「うふふ、あれだけの人数を相手にしていたらぁ、大変だものねぇ」
ダイルナは口に手を当てながら、クスクスと笑う。
俺はそんな彼女の隣に並び、彼女が先程まで見つめていた夜空へと視線を移す。
「綺麗な空ですね」
「ええ、本当に。君と一緒に見ていると、特にそう思えるわぁ」
そう言って、チラリと俺を横目に見てくるダイルナ。
かなり照れているらしく、その表情には余裕が無いように見える。
「……告白ですか?」
「うん、告白よぉ。って、いまさらじゃなぁい?」
「そうですね。それで……どうします?」
俺はダイルナの腰に手を回し、自分の元へと抱き寄せる。
そして、彼女と唇が重なるほどに距離を詰めていく。
「アナタが望むのなら、いつでもお相手しますよ?」
「……魅力的な提案ねぇ。でも……遠慮しておくわぁ」
ばるんっと、彼女の巨大な胸の弾力によって……俺とダイルナの距離が離れる。
まさか、断られるとは思わなかったので、俺は少し面食らってしまった。
「まだ、呪いの事を気にしているんですか?」
「いいえ。本音では、今すぐ抱かれたいと思っているのぉ。でもぉ……私、この恋だけは、本気で挑戦したいのよぉ」
「本気?」
「だってぇ、ネトレ君……私の事、なんとも思ってないでしょぉ? あくまでも用があるのは、ギルドマスターの称号だけぇ」
「……」
それはそうだ。ほんの少し話した程度の相手でしかないダイルナに、特別な想い……ましてや、恋心など抱くはずもない。
「それじゃダメなのぉ。アナタに抱かれる時は……お互いに愛し合って、体だけじゃなくてぇ、心までドロドロに溶け合うくらいに1つになりたいのぉ」
「それはまた……難しい話ですね」
「ええ。だからこれからの私は、色々と頑張らなくちゃダメよねぇ」
今まで数多くの男と体を重ねてきたダイルナが、俺という男と結ばれる為に……そこまで言ってくれるなんてな。
こういうのに弱いんだよなぁ、俺って。
「ネトレ君の為なら、私はなんだってしちゃう。フロンティアもアナタにあげるわぁ。あっ、でもマスターの座は退かない方がいいのかしらぁ?」
「そうですね。俺の命令でアナタがメンバーに指示を出せばいい。その方が、余計な混乱も招かずに済むでしょう」
「了解よぉ。これからギルド・フロンティアは……ネトレ君のモノ。ギルドメンバー総勢500人。ネトレ君の命令で動く……兵隊のようなものだと思ってちょうだい」
あっさりと、ギルドの所有権を俺に明け渡すダイルナ。
これで当初の目標の1つは達成できた事になるな。
「ねぇ、ネトレ君。ここからは……私のお節介なんだけどぉ。アナタに、とても耳寄りなお話があるのぉ」
「なんです?」
「正直に言うけどぉ、ネトレ君はあまりにも弱すぎるわぁ。今のままだと、エクリプス王国やヒイロへの復讐は……夢のまた夢よぉ?」
耳寄りどころか、実に耳が痛い話だ。
今回、運良くヒイロを退ける事は出来たものの……もう二度と、あんな手は通じないだろう。次に遭遇すれば、まず間違いなく負ける。
「分かっていますよ、そんな事は」
「ああん、そんな怖い顔しないでぇ。ちゃんと、解決策があるんだからぁ」
解決策、だって? それは一体……?
「ネトレ君。ヒイロがエクリプスの秘宝である聖剣を使っているように……アナタも、サンルーナの秘宝を使って強くなればいいのよぉ!」
「サンルーナの、秘宝……?」
「ええ。そもそも、ヒイロがこの国にやってきた理由が……その秘宝を手にする為なのぉ。きっと、自分に並ぶ者が誕生するのを避けたかったのねぇ」
「じゃあ、もしその秘宝を手に入れれば?」
「アナタは強くなれる。その牙は、勇者ヒイロにも届き得るかもしれないわぁ」
そんな、そんな夢のような話があるのか?
だが、もしもそれが本当なら――
「サンルーナに眠る秘宝。その名も――封魔剣パンドラ」
「封魔剣……パンドラ」
「ええ。その禁断の秘宝を――どんな手を使ってでも、貴方様に献上致しますわぁ」
そう言って、俺の前で跪くダイルナ。
面白い。ギルドという兵隊を手に入れた次は……俺自身の強化。
そしてそれが終われば――この国を手に入れ、やがてはエクリプスへと攻め込む。
「早速ですが、貴方の事が好きになりそうですよ」
「ふふっ……ありがたき幸せ、なんてねぇ」
俺とダイルナは笑い合う。俺は復讐を、ダイルナは愛を手にする為に。
深く絡み合う欲望の熱。
空に浮かぶ赤い満月は……そんな俺達を静かに照らしていた。




