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39話:合言葉を言ってみよう!

「はぁっ、はぁっ……はぁっ……!」


「ネトレ!? 大丈夫っ!?」


「しっかりしろ、ネトレ!」


「ネトレ様!」


 ヒイロがいなくなった事で、自由に動けるようになった3人が俺の元へと駆け寄ってくる。全員が目尻に涙を溜めて、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。


「おう、お前らのお陰で……勝てたぞ」


「やったね! さっすがは私のネトレー♪」


「いだだだだだだっ!?」


 むぎゅぅーっと俺の体を抱きしめるアイ。

 しかし、体のあちこちに火傷を負っている状態で、これはキツイ。


「す、すぐに治療しますね!」


 慌てて、ヘダが俺に回復の祈りを捧げる。

 それにより、俺の体の火傷は綺麗さっぱり消え去っていく。


「しかし、本当にヒイロを倒してしまうとは……見事だったぞ」


 プロメテウスを拾い上げながら、驚嘆の声を漏らすガティ。

 しかし、俺はそんな彼女の称賛の言葉を否定する。


「いや、あれくらいで倒せるような相手じゃない。今の一撃も、大したダメージにはなっていない筈だ」


「ええっ!? そうなのぉっ!? こっわぁー……」


「すぐに戻ってくるだろうから、逃げなきゃいけないんだが……」


 勇者への恐怖に震えるアイを優しく抱きしめながら、俺はもう一度空を一瞥する。

 するとようやく、ずっと求めていたものを視認する事が出来た。


「……間に合ったか、シアン」


 そこに描かれているのは巨大な魔法陣。

 これまでずっと人知れず、シアンが準備を続けていたものだ。


「遅くなってすみません」


 そして空の魔法陣を視認するのと同時に、空からシアンが降りてきた。

 その額には大粒の汗が浮かび、髪の毛も汗でぐっしょりと湿っている。

それだけ、重労働の作業だったのだろう。


「途中、何度も地上に降りそうになりましたよ。私のネトレさんを……よくも!」


「まぁまぁ、そう言うなって。ヒイロから逃げ切る為には仕方なかったんだ」


 怒りの表情で、ヒイロがぶっ飛んだ先の森を睨みつけるシアン。

 俺は彼女の怒りを宥めるべく、彼女の帽子の上からよしよしと頭を撫でてやる。


「そういうわけで、急いで発動して貰ってもいいか?」


「はい。後はネトレさんが合言葉を言えば、発動出来るようになっています」


「合言葉? なんでわざわざ……しかも俺じゃなきゃダメなのか?」


「はい。あの魔法陣に届くくらいの大声で叫んでください」


 コクコクと頷くシアン。疑問は尽きないが、モタモタしているとヒイロが戻ってきてしまいそうだし……大人しく従うか。


「呪文は……【シアンたん、だいしゅき! 今夜イチャラブえっちしよ!】です」


「「「「は?」」」」


「さぁ、早く! 高らかに叫んでくださいっ!」


「……」


 お目々をキラキラさせながら、上目遣いに俺を見つめてくるシアン。

 後ろの方では、鬼のように凄まじい形相の美少女達がギリギリと歯を鳴らしているんだけど……


「しょうがない。えっと……【シアンたん、だいしゅき! 今夜イチャラブえっちしよ!】」


「んふふふっ……くはぁー♪」


 嬉しそうに両手でガッツポーズをするシアン。

 と、それと同時に……上空の魔法陣が眩い光を放ち始める。


「これは……!?」


 空からの光に包まれて、俺達の体が透き通っていく。

 その事にヘダは驚いているようだが、何も問題はない。


「これは転移魔法だよ。ここから一気に、サンルーナまでワープだ」


「転移魔法!? そんな超高等魔法を……」


「ぶいっ! でも、流石に5人分はキツかった……」


「ああ、お疲れ様だ」


 ぐったりとするシアンを支えながら、俺達は転移魔法によって空間を跳躍する。

 これでもう、この場に残ったのは、騒ぎを聞きつけ、何事かと集まってきた野次馬の村人達と……


「ふむ……完全にしてやられたね、ルラン」


 ネトレの予想通り、ほとんど無傷の姿のまま……森から戻ってきたヒイロ。


「分かっているさ。君の願い通り、彼はいずれ殺してみせるとも。ただ、その前に……この役立たず共を、どうにかしないとね」


「「……」」


 そして、未だに氷漬けになったまま動けないでいる……グアラとゾーアだった。


【サンルーナ フロンティア本部】


「……アナタ達ぃ、ドアってものを知ってるぅ?」


 ギルド・フロンティアの本部へと戻ってきた俺達を、真っ先に出迎えてくれたダイルナが……呆れたように訊ねてくる。

 それも無理はない。なぜなら、シアンの転移魔法によってワープしてきた俺達は、団子状態で絡み合いながら……酒場のテーブルの上に出現したのだから。


「あんっ……ネトレ、そこは触っちゃ、いや……」


「いや、そこを触っているのは私だ。それより、ネトレ……私のお尻に顔を埋めたりして、そんなに私のケツが恋しいのか?」


「むぐぐぐぐぐっ!?」


「あの、ガティ様のお尻に顔を埋めているのは……シアン様のようですけれど」


「なに!? じゃあネトレはどこだ!?」


「わ、私の……その、修道服のスカートの中に……んぁっ!?」


 やけに顔にムニムニとした感触があると思ったら、これはヘダの尻か。

 ガティのお尻ならもう少し引き締まっていて、弾力があるからな。


「……無事に戻ってきたという事は、ネトレ君の呪いは無事に解けたのねぇ」


「ええ。それに、ネトレさんがしっかりと……ダイルナさんの分も、あの勇者に一泡吹かせてくれましたよ」


「ふふっ、それを聞いて安心したわぁ。そして……今回は私のせいで迷惑を掛けた事を、改めてお詫び申し上げるわぁ」


 謝罪の言葉を口にするダイルナ、

 しかしすぐに、ある事に気がついたようで……


「ところで、そこにいるのは……勇者一行の僧侶さんよねぇ?」


「はい。ヘダと申します。以前お会いした時は大変失礼な態度を取ってしまい、申し訳ございませんでした……んっ」


 ペコリと頭を下げようとヘダが動く度に、スカートの中の俺にお尻がぐいぐいと押し付けられる。しかもなんか、ヘダも感じているような声を漏らしているし。


「それはもういいんだけどぉ。ここにいるという事は……彼女もネトレ君に堕とされたのぉ?」


「正確に言えば、私の指使いですね。ふふっ……いずれ、ネトレさんを交えて、愉しみたいものですね」


「あうっ……!」


 シアンの言葉で照れているのか、ヘダのお尻が熱を帯びていく。

 というかいい加減、この中から出たいんだが……


「ハーレム拡大で、ネトレ君も大変ねぇ」


「ダイルナも入ればいいのに! ネトレは世界最高の男だよ!」


「ふふっ、ありがたい申し出なんだけどぉ、ごめんなさぁい。私は……やっぱり、あの時の彼を忘れる事は出来ないのぉ」


 そう言って、やんわりとアイの誘いを拒否するダイルナ。

 これはやはり、ダイルナを堕とすのはやめた方がいいのかもしれないな。


「んしょっと……まぁいいじゃないか。今回は新たにヘダを手に入れたんだ」


 俺はようやく、くんずほぐれつの団子状態から脱出し……ヘダのスカートの中から顔を出す事に成功した。

 はぁー。空気が美味しい。


「て、手に入れた……って、そんな、人をモノみたいに」


「「「モノでしょ?」」」


「えっ?」


 恥ずかしがるヘダの言葉を、バッサリと切り捨てるのはアイ達3人だ。


「まだ自覚が足りないの? 本当なら、アナタなんて殺されてもおかしくないのに」


「ひっ!?」


「ネトレの所有物にして貰えるだけ、ありがたいと思え」


「全く、この豚にはまだまだ教育が足りないようですねぇ」


「……うぅっ、申し訳ありません」


 しょんぼりと項垂れるヘダ。

 まぁ、彼女の関する処遇に関しては、この後じっくり決めるとして。


「ダイルナ。少し、聞きたい事が……」


 俺はダイルナへと顔を向けて、話を聞こうとする。

 しかし、その言葉は途中で……遮られる事となった。


「嘘、でしょ……?」


「はい?」


 俺の顔を見つめながら、呆然とした様子で口を開けているダイルナ。

 そして彼女は、その虚ろな瞳のまま――ボソリと、消え入るように声を漏らす。


「ああ、やっと会えたわ……私の愛しい人」


「「「「「え?」」」」」


 これは一体、どういう事なんだ?

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