27話:Re:誤解から始めるショタ生活
「ただいま戻りました」
「あっ、シアンスカさん。お帰りなさい」
「あのA級クエストから半日で戻ってくるなんて、流石ですね!」
フロンティアの本部へと戻ったシアンスカを出迎えるギルドメンバー達。
シアンスカの実力を疑う者などいないが、それでも入団希望者と出かけた彼女の身を心配する者は多かった。
それだけ、シアンスカがギルドメンバーに慕われているという証拠でもあるのだが。
「そう言えば、ダイルナさんがシアンスカさんに会いたがってましたよ」
「そうですか。今は自分の部屋に?」
「ええ。いつもならこの時間、男を連れ込むか、酒を飲むかのどちらかですけど」
「今日はずっと、別人みたいに大人しくて……ちょっぴり、不気味です」
事情を知らないギルドメンバー達が不安そうに呟く。
シアンスカは内心で苦笑しつつも、彼女達を置いてダイルナの部屋へと向かった。
「……失礼します。入りますよ?」
ダイルナの自室のドアをノックしてから、シアンスカは扉を開いて中へと入る。
すると、入室して間もなく……とてつもなく巨大で、柔らかな肉の塊が……シアンスカの頭を丸ごと飲み込んでしまう。
「シアンちゃーんっ! 無事だったのねぇーっ!」
「むがぁっ」
その肉の塊とは勿論、ダイルナの豊満な爆乳である。
シアンスカの入室と共に抱きついた為、彼女の顔をおっぱいに埋めてしまったのだ。
「ぷはっ!? 苦しいですよ」
「あら、ごめんなさいねぇ。つい勢いで抱きついちゃったわぁ」
「いえ、いいんですが……ふぅ」
ダイルナのおっぱいサンドから脱出し、一息を吐くシアンスカ。
サキュバスの儀式を終えた彼女の体は今後、成長する可能性を秘めてはいるものの……確実にダイルナの爆乳には及ばない事は理解している。
普通の女性なら、多少なりとも嫉妬心を懐きそうなものだが……シアンスカの場合は違っていた。
「(恐らくは人類最大クラスの爆乳。なんとしても、ネトレさんのモノにしないと)」
この世の価値在るモノは全て、大好きなあの人に捧げたい。
本来なら夜のライバルであるアイやガティにセックスのテクを授けたのも、全てはネトレがより幸せになる為の行動。
シアンスカの本質は、大好きな相手にトコトン尽くす系の女であった。
「心配しすぎですよ。私はこう見えて、アナタより歳上なんですから」
「だってぇ、アナタが誰かとクエストに出るなんて初めてだしぃ……」
左右の人差し指を突き合わせながら、モジモジと体を揺らすダイルナ。
それに合わせて、彼女の胸も……どたぷん。ばるーん。
「それで気になって調べたら、一緒に行ったのは……あれ?」
何かを言いかけていたダイルナだが、話している途中で何かに気付き……言葉を止める。
そして、とある一点へと視線を集中させたまま……動かなくなってしまう。
「……あっ」
その視線の先がどこに向いているのか。それに気付いた瞬間、シオンスカは動揺した。
今まで、ダイルナの前では……自分の秘密を隠す必要が無かった。
だからさっきのようにダイルナが過剰なスキンシップをしてきて、帽子が取れるような事があっても気にせずにいたのだが。
今の彼女にとっては、それは致命的なミスへと繋がる。
「シアンちゃん……? どうして、角が……無くなっているのぉ?」
「それは……!」
「儀式を終えたって事よねぇ? 相手は……まさか!?」
よくよく考えなくても、理由はたった一つしかない。
だからこそダイルナは、自分が可愛がっている眼の前の少女(歳上)が、110年も守り続けてきた純潔を誰かに捧げたのだと気付く。
そして、今朝までは存在していた角が、クエストから帰ってきた途端に消えている。
そうなれば、彼女の処女を奪った相手は必然的に――
「そうです。でも、聞いてください。これにはちゃんと……」
「どういうつもりなのぉ!? あんな男に抱かれるなんてぇ!」
「え?」
シアンスカとしては観念して、正直に打ち明けようと考えていたのだが。
なぜかダイルナはすごい剣幕で怒鳴り立ててくる。
「許せないわぁ……! 私を馬鹿にするだけじゃなく、シアンちゃんにまで手を出すなんてぇ……!」
「ちょ、ちょっと待ってください! どういう事ですか!?」
「誤魔化さないで! アナタが今日、勇者と一緒にクエストに出た事は知っているの!」
「なっ……!!」
「アナタ達が出かけるのを見ていた子が教えてくれたのよぉ。だから私、あんなクズ共と出かけたアナタの事を……ずっと心配していたのにぃ」
ポロポロと涙を溢しながら、ダイルナは捲し立てるように叫ぶ。
シアンスカがネトレ達とクエストに出る前、まだ勇者一行だと思っていた彼らと話していた内容を……運悪く、聞いてしまった者がいたのだ。
「違います。私が愛を誓った相手は、ダイルナさんの知っている勇者じゃなくて――」
「もう、許せないわぁ。あの男……いつか呪い殺してやろうと思っていたけどぉ。私の大事なシアンちゃんを傷付けた罪、償わせてやるわぁ!」
「ぐっ!?」
シアンスカの弁明も、我を忘れたダイルナには届かない。
そしてダイルナは怒りのまま、自らの両腕を交差させながら――呪術を発動させる。
「大地の精霊よ、天空の神々よ、冥府の悪霊よ。我の言葉に耳を貸し、我の導きによって、我の怨敵を呪い給え!」
「いけないっ! それだけは――!」
呪術を発動したダイルナを止めるべく、魔法を発動しようとするシアンスカ。
だが、仮にも自分を引き取って育ててくれた相手を前に……魔法を放つのが躊躇われてしまう。
その、ほんの一瞬の隙が全ての明暗を分けた。
「我が子の処女を散らした男に、然るべき天罰を!」
ダイルナの体から放たれた膨大な呪力が、漆黒のモヤとなり……天井をすり抜けて空へと上っていく。
そして、その呪力の塊の行き着く先は――
【サンルーナ ネトレ達が宿泊する宿屋の一室】
「…………しぬ、これ、もう……死ぬ」
「んぁ……先生の教えてくれた通りにしたら、すっごぉい」
「ああ、いつも以上にネトレが気持ち良くなっていたのが分かる。それに……んっ、ずずるっ……あれだけ出しても、これだけ濃いのを出せるとは」
「あーん、ガティ! 私の分まで飲んじゃだめぇ!」
「これは私が出して貰った分だ!」
「あっ、口の端に垂れてる……えいっ!」
「こらっ、やめっ……んっ、ちゅ」
「れろ……んちゅぅ……じゅるるっ……んへへへっ、ガティのベロ、ネトレの味がする」
「それはお前も同じだ……全く。女同士でベロチューなど……んむぅっ」
「全部寄越せー! あむっ、ちゅるるるっ!」
女二人がくんずほぐれつしている中、それを横目に……しなびれかかっているネトレは、ベッドの上でぐったりと寝転がっていた。
「アイツら……10回ずつとか言っておいて、11回もしやがって」
二人の過剰分はポイントマイナスにしておくぞと、固く決心するネトレ。
と、ちょうどその時であった。
「んっ?」
空から突如として、黒いモヤのようなものがネトレへと降り注ぐ。
言わずもがな、このモヤはダイルナの放った呪力である。
「なんだこれっ!? ぐあああああああっ!?」
「え? ネトレ!?」
「どうしたんだ!?」
アイとガティもすぐに異変に気付くが、もはやネトレは呪力に包み込まれている。
そして、その呪力はネトレの体へと溶け込むように消えていく。
それと同時に――ネトレの体に、大きな異変が起きてしまう。
「はぁっ、はぁっ……! これは……!?」
全身を焼き焦がされるような苦しみから開放されたネトレは、変化の起きた自分の体を見て驚愕する。
「う、嘘……でしょ? ネトレが、ネトレが……!」
「ネトレの体が……!」
あまりの衝撃に、アイとガティも目を点にしてわなわなと震えるばかり。
それも無理はない。なぜなら、ネトレは今や――
「なんだよ、これ?」
クリクリとした丸く大きな瞳。女の子のような中性的な声。
高い身長や筋肉質の体はすっかり縮んでしまい、雄々しかった股間のベヒーモスさえも子犬レベルに。
「俺……子供の頃に、戻ってる?」
「「か、かかかかかわっ、かわいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」」
そう、今のネトレは――10歳にも満たない子供の姿へと若返っていた




