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21話:努力の剣才

「「「「クケケケケケーッ!」」」


 俺の力量を感じ取ったのか、今度は4体がかりでミイラ兵士BCDEが、左右前後から攻撃を放ってくる。


「そらよっと!」


「ケェッ!?」


そこで俺は先ほど倒したミイラ兵士Aの胴体を蹴り上げて、目の前のミイラ兵士Bにぶつけて怯ませた。


「はぁっ!」


「ぐげぇーっ!?」


 怯んだミイラ兵士Bの心臓に剣を突き立て、そのまま前進する。

 それによって残る3体の攻撃を回避。

 今度は倒したミイラ兵Bの槍を奪い取り、それを攻撃直後の隙だらけのミイラ兵士Cの頭部に向けて投げ付ける。


「ぐぺぱぁっ!?」


 粉砕されるミイラCの頭部。これで残るは2体。

 

「「クケケケケケッ!」」


 ここまで来れば、残りは消化試合だ。

 長剣を振り回しながら突っ込んでくるミイラ兵士Dの刃を受け流し、足払いして転ばせる。そして倒れたミイラ兵士Dの首を撥ねてトドメを刺す。


「ケ、ケケケ……?」


 キョロキョロと、周囲を見渡すミイラ兵士E。

 この短時間の間に仲間が全滅した事実が、まだ実感出来ないのだろう。


「ケケケケェ……」


 ミイラ兵士Eは武器を放り捨てると、その場に膝を突いて土下座のような体勢を取る。

 どうやら、見逃してほしいと懇願しているようだ。


「……とっとと行け」


「ケ?」


 ミイラのくせに死ぬのが怖いのかよ、と想いつつも……俺は剣を鞘に納め、ミイラ兵士Eを見逃す事にした。


「ケ、ケケケ? ケケェ!」


「あ? なんて言ってんだ?」


 しかしなぜかミイラ兵士Eは逃げ出さずに、俺に向かって何やら騒いでいる。

 分からん。何を言ってるんだコイツ?


「えっとね。どうしてアタシを殺さないんだい? だって」


 そんな俺の疑問に答えたのはアイだった。

 どうやら同じ魔族同士、会話が出来るらしい。


「特に理由は無い。俺の邪魔をするなら殺すだけだし、そうでないなら殺す必要は無い」


「ケケケ? ケケ、ケケケケケ……」


「人間は意味なく魔族を殺すんだと思ってたけど、違うんだね。だって」


「人によるだろ。人間に殺すべきクズがいるように、魔族にだって、とても素直で可愛い……良い子がいるって、俺は知っている」


 無論これはアイの事なのだが、それは本人も気付いていたようで。


「ネトレ……しゅき。だいしゅき。えっち、えっちしよ……今すぐえっちしたい」


「落ち着けアイ! 気を静めろっ!」


「ぬぅぅぅっ!」


 俺に褒められたのがよほど嬉しかったのだろう。

 眼をグルグルさせ、涎を垂らして俺に向かってきたアイだが、寸前のところでガティに羽交い締めにされて、動きを止める。


「ケケケ、ケケケケー! ケッケッケケケ!」


「?」


 ミイラ兵士Eは俺の答えに満足したのか、ペコリと頭を下げてから立ち去っていく。

 最後に何を言い残したのかは、分からなかったが。


「……このご恩は必ず返すよ。覚えておいて! だそうですよ」


「へ?」


「今のミイラ兵士が最後に残していった言葉です」


 淡々とミイラ兵士Eの言葉を翻訳してのけるシアンスカ。

 凄いな。この子は魔物の言葉が分かるのか……?


「見事な剣術でした。あのミイラ兵士達は少なくとも、一体辺り戦闘レベル30はくだらないはずですが……」


「師匠が良いんだ。才能の無い俺を根気強く指導してくれた、優しくて強くて、聡明な――最高の女性だよ」


「ネ、ネトレ……! うぉん……しゅき……だいしゅきぃ……いっぱいえっちしよ……」


「こらぁーっ! 正気に戻ってぇー!」


 今度はガティが正気を失い、アイによって往復ビンタを食らっている。

 やれやれ。聡明な、というのは撤回しておくべきかもな。


「それに、魔族に対する考え方も……普通とは少し違うみたいですね」


「そうか? 俺からすれば、魔族を全て倒すべき、なんて考えの方がおかしいと思うが」


 勇者のフリをするなら、魔族は全て皆殺し、とでも言うべきなのだろうが。

 アイを愛する俺は、死んでもそんな言葉を口にしたくない。

 だから、シアンスカに疑われるのも覚悟で、持論を言葉にしたのだが。

 

「……ふふっ、そうですね。私も、アナタの考えに賛成です」


 予想外にも、俺の返答は好感触だったらしく。

 シアンスカは初めて、俺達の前でハッキリとした笑顔を浮かべる。


「おっ……可愛いな」


「え?」


「いや、シアンスカの笑った顔。俺の想像よりも、すげぇ可愛かったからさ」


「……先を急ぎますよ」


 俺としては下心なしで、本心から褒めたつもりだ。

 しかしシアンスカはプイッと顔を背け、ツカツカと俺達を置いて先へ進んでしまう。


「何あれ? ネトレに褒めて貰ったのに、感じわるーい!」


「全くだ。私なら、そのままバックから突っ込んで貰い、妊娠するまで種付けして貰うところだが……」


「いや、今のは俺が悪いだろ。あのくらいの年頃の女の子は複雑なんだろうし」


 デリカシーの無い自分の発言を反省しつつ、俺はシアンスカの後を追う。

 てっきり、機嫌を損ねてしまったと思いこんでいた俺は……気付けなかったが。

 その時、俺達の前を早足で歩くシアンスカは――


「あの人に褒められると……心臓の鼓動が早くなる。この感情は……何?」


 自分の中に芽生えた未知なる感情に困惑し、戸惑っていた。


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