19話:即席パーティと即オチの予感
「おや、アナタ達は?」
「やぁ、また会えたな」
フロンティアに加入するべく、その本部を訪れた俺達の前に現れたのはシアンスカ。
相変わらずの、小さくて可愛らしい外見。
前はじっくりと観察する余裕が無かったが、こうして見ると……ウェーブがかった黒髪、鏡面のように光る銀眼が実に魅力的だ。
「ウチのギルドに入れて欲しいと聞きましたが、本気ですか?」
「ああ。雑用でもなんでもするから、入れてくれないか?」
「ん? なんでも……?」
俺が頭を下げると、シアンスカはピクリと反応する。
それから顎に手を当て、うーんとうなり始めた。
「……分からない事があります。アナタ達は、勇者一行ではないのですか?」
「え?」
「アナタが勇者証を持っているところを見ました。隠しても無駄です」
「「「あっ」」」
しまった、というリアクションを一斉に取る俺達3人。
「そそ、それはだな! 色々と、理由があって……! あわわわっ!」
特にガティは嘘が苦手な性格の為か、冷や汗ダラダラで怪しさ満点だ。
無理も無い。勇者のフリをしていたなんて事がバレれば、シアンスカの信用を損ねるだけではなく……下手をすれば、俺達を捕らえようしてくる可能性もある。
「んー……バレちゃったら、しょうがないか」
「え?」
しかし、逆に落ち着いていたのはアイである。
彼女は表情を崩す事なく、平静を装ってシアンスカに説明を始めた。
「実はそこのガティが、エクリプス王国から至急された旅の資金を全部……ギャンブルで溶かしちゃったの」
「んなぁっ!?」
「理由が理由だけに、もう一度資金をくださいって頼むわけにもいかないし……仕方ないから、自分達で稼ごうって話になってね」
「あ、ああ。それで折角なら……君がいるギルドがいいかなって」
「そうですか」
アイの言い訳はとても見事だった。
ギルドで働きたい理由かつ、さっきからガティが動揺している原因までカバーしている。
「……ギルドマスターの言っていた通り、お仲間に問題がある……と」
「ん? 今、なんて……?」
「いえ、なんでもありません。それよりも、アナタ達の事情は分かりました」
アイの説明で納得してくれたのか、わずかに口角を上げるシアンスカ。
「……ナイスだ、アイ。10ポイント」
「っしゃー! いぇーいっ!」
「ずるいぞっ! 私の名誉を犠牲にしたんだから、私にもポイントを寄越すべきだ!」
喜ぶアイに対し、ギャンブル狂扱いされただけのガティが不満げにむくれている。
元はといえば、ガティが怪しまれるような反応をしたのがいけないんだけどな。
「半分でいい! ポイントをくれっ! アイ!」
「いーやーだーもーん!」
「……話を続けても?」
「ああ。後ろの二人は気にしないでくれ」
取っ組み合うアイとガティをスルーし、俺はシアンスカと話す。
これでギルドに入れてくれるなら、話は早いのだが。
「どうかな? 俺達をギルドに入れてもらえないか?」
「……申し訳ありません。実は複雑な事情がありまして、アナタ達をギルドに入れるわけにはいかないんです」
「複雑な事情だって?」
「ええ。ギルドマスターが加入メンバーに制限を掛けてしまいまして」
参った。フロンティアに参加出来ないんじゃ、ダイルナの秘密に近付く事が出来ない。
これはどうするべきだろうか……
「ですが、私はアナタ達に借りがあります。なので、こんなのはいかがでしょう?」
俺が考え込んでいると、シアンスカが一つの提案をしてきた。
「実は私、少々厄介な依頼を抱えていまして。アナタ達に手伝って貰いたいんです」
「手伝い?」
「それなりの報酬はお支払いしますし、その働き次第では……アナタ達の加入をギルドマスターへ掛け合います」
これはなんとも、ありがたい提案だ。ようするに、シアンスカの依頼を手伝って認められれば、フロンティアに入れるという事だからな。
「助かるよ。君がいいのなら、俺達に手伝わせてくれ」
「分かりました。しかし、私の受けた依頼はA級の難関クエストですよ?」
「ああ。そこの辺りは少しも心配していないさ」
俺はともかく、後ろの二人の強さは凄まじいからな。
それにシアンスカも加わるとなれば、まさにオーガに金棒だろう。
「必ず、君に認めて貰えるだけの活躍をしてみせるよ」
「(……話せば話すほど、ギルドマスターが嫌う理由が分かりませんね)」
俺の顔をじぃっと見つめてくるシアンスカ。
まだ疑われている、のだろうか?
「では、準備が整い次第……出発しましょうか」
こうして俺達は、シアンスカと共にA級クエストに挑む事になった。
なんとしても実力を示し、シアンスカに認められよう。
【ギルド・フロンティア】
「ねぇ、ちょっといい?」
「はい。なんですか、ダイルナさん」
ギルド内部を歩き回り、周囲をキョロキョロと見て回っていたダイルナが、近くを通りかかったギルドメンバーの一人に声を掛ける。
「シアンちゃんを見なかったぁ? どこにもいないのよねぇ」
「ああ、シアンスカさんなら、入団希望の人達と出かけましたよ」
「……入団希望?」
「はい。なんでも、一緒にA級クエストに向かわれるとか」
「ええっ!? 嘘でしょう!?」
「え? 何かマズイんですか?」
「マズイ、というかぁ……気を付けて欲しい事があるというかぁ……」
焦った様子で、親指の爪を噛むダイルナ。
一方、真意が分からないギルドメンバーの女性はキョトンとするばかりだ。
「そう言えば、シアンスカさんは今まで誰とも組んだ事が無いですね」
「……」
そう。シアンスカは誰とも組まない。
その理由を知るのは、世界でもダイルナただ一人。
だからこそ彼女は、愛するシアンスカの身を案じていた。
「同行者さん……お願いだから、あの子の帽子は取らないでねぇ」
しかし、そんな彼女の心配も虚しく。
一方その頃、A級クエストへと挑んでいたネトレ一行は――
【とあるダンジョン】
「ああ……見られて、しまいましたか」
「シアンスカ、お前……まさか?」
「もう……方法は一つしかありません。ネトレさん。死にたくないのなら――」
「な、何を……!?」
「今すぐ、私とセックスしてください」
とんでもない窮地に陥っていた。




