18:爆乳ギルドマスターは赤ちゃんの夢を見るか
「ネトレ! フロンティアにはぜぇったいに近付いちゃダメっ!」
ある程度、フロンティアに関する情報収集を終えて。
足早に宿屋へと戻った俺を出迎えたのは、涙目のアイだった。
「うぇぇんっ……! ねとれぇ……!」
「おっと、どうしたんだ?」
両手を広げて飛びついて来たアイを受け止めつつ、俺はその理由を訊ねる。
すると、泣きじゃくるアイに代わり、後ろに控えていたガティが口を開く。
「ネトレ、お前も街で聞いたのだろう? フロンティアのギルドマスターの噂を」
「……ああ、そういう事か」
確かにガティの言うように、俺は街で衝撃的な噂を耳にした。
その内容が真実ならば、アイがこうして不安になるのも無理はない。
「フロンティアのギルドマスター、ダイルナ・フラミストは――」
「そうっ! すっっっっっごいっ! 巨乳なんだってっ!」
「……は?」
思わずズッコケそうになるのを必死に堪え、俺はアイの顔を見る。
涙に濡れてはいるものの、表情は真剣そのもの。
ふざけているようには見えない。
「うっ、うぅぅぅぅっ……私のおっぱいより、ずっと大きいんだよ? ネトレが私よりも、フロンティアのギルドマスターを好きになっちゃうっ!」
「……いかに私のデカ尻をこよなく愛するお前といえども、アイを上回る巨乳が相手となればタダでは済まないだろう」
「自分を抱いた男を必ず死なせるという噂の方じゃねぇのかよ」
「「……へっ?」」
俺のツッコミを受けて、間抜けな反応を見せる二人。
ああ。真面目に対応しようとした俺がバカだったよ。
「そ、そんな顔をするな。ちゃんとした情報を仕入れてきたんだ」
「ごめんなさぁいっ! ここからは真面目にやるから怒らないでっ!」
俺が落胆した表情を見せたので、二人とも途端に慌てふためく。
俺に嫌われないようにと必死なのだろう。
「怒ってないよ。お前達に期待しているのは、もっと違う能力だし」
「でも……」
「それに、お前達は俺の傍にいてくれるだけで、十分に役目を果たしてくれてるよ」
とびっきり爽やかになるように意識した笑顔を浮かべ、俺は渾身のカッコつけボイスで二人に囁きかける。
すると二人はボッと顔を瞬時に真紅に染めて、だらしなく表情を緩めていく。
「「うぇへへへへへっ……」」
「情報収集なら俺がしておいた。それを共有するから、頭に叩き込んでおいてくれ」
締まりの無い顔の二人を放って、俺は説明を始める。
話す内容は勿論、フロンティアに関する情報だ。
「フロンティアの本部は、ここから十数分の場所。所属する冒険者の数は男が0人で、女が数百人近いらしい」
「なに? 女ではなく、男が0人……なのか?」
「ああ。それにはちゃんとした理由があるんだ」
普通のギルドなら、男女比は男の方に激しく寄るもの。
しかし、そうではない理由が……フロンティアには存在する。
「さっきも言ったように、フロンティアのギルドマスター……ダイルナとセックスした男は、例外なく死んでしまうらしい」
「すごぉーい! 天国にイッちゃうくらい気持ちいいエッチをするのかな?」
「それは分からないが……噂によるとダイルナは相手が望めば誰とでもヤるらしい」
「誰とでも? しかし、ダイルナとヤれば死ぬのだろう?」
「だから、ギルドに所属していた男のほとんどが死んだんだ。生き残った一部の男達も、ダイルナに怯えてギルドを去ったらしい」
「死ぬと分かってるなら、エッチしなきゃいいのに!」
「それでも抱きたいと思えるほど、ダイルナが良い女なのかもな」
自分の命と引き換えに、最高の女を抱く。
俺は御免こうむるが、男として……その気持ちが分からないでもない。
「まぁ、何にせよ。誰とでもヤってくれるなら、話は早い」
「……ネトレとのエッチは病みつきになるし、好きにならない女はいないと思う」
「だが、その女とヤればお前の命も危険に晒されるぞ?」
「そこが問題なんだ。だからここはひとまず、フロンティアに入って……ダイルナの死のセックスの秘密を探ろうと思うんだ」
そうしてその秘密を解き明かした後、俺の寝取りの力でダイルナを虜にする。
これでサンルーナでも有数の巨大ギルドを乗っ取る事ができる。
「そういうわけだから、今から3人で手続きに行こう」
「うぅー……ネトレが他の女とするのは嫌だけど、しょうがないよね」
「私達3人で冒険者パーティか。ふふっ、少し……気持ちが昂ぶってきたぞ」
「当面は冒険者として過ごすからな。みんなでダンジョンとか行ってみるか」
「楽しそうっ! ネトレの為に、財宝をいぃーっぱい! 手に入れてあげるっ!」
「魔物の相手なら、私に任せろ」
こうして俺達は、冒険者のフリをしてギルド【フロンティア】へと向かう。
だが、俺らが知らないところで――少々、面倒な事態が起きようとしていた。
【ギルド・フロンティア】
「……はい? 今、なんておっしゃいました?」
ギルド・フロンティアの副マスターであるシアンスカ。
普段、滅多に感情を顔に出さない彼女であるが……今回ばかりは、あまりの驚きぶりに、口を大きく開けて呆然としている。
「ええ。私は本気よぉ、シアンちゃん」
シアンスカの目の前には、何やら固い決意を秘めた様子のダイルナが立っている。
彼女は右手で握り拳を作りながら、力強い声色で話し始める。
「こんな気持ちは初めてなのぉ。ずきゅんどきゅんと、私の胸は高鳴ったのよぉ!」
「は、はぁ……?」
「だからねぇ、私……決めたわぁ。あの人に相応しい、綺麗な体になる為に――」
パチンとダイルナが右手の指を鳴らすと、彼女とシアンスカの前に眩い輝きを放つ扉が出現する。
ダイルナはその扉に手をかけると、晴れやかな笑顔を浮かべながら宣言する。
「もう一度っ! 赤ちゃんからやり直してくるわぁっ!」
「……やめてください、バカ」
ダイルナが扉を開くよりも先に、シアンスカが杖で放った魔法によって扉が粉々に破壊されてしまう。
「転生門を開こうとするなんて、正気ですか? 一度転生すれば、二度と戻れないんですよ?」
「だってぇ……! だってだってだってぇっ! こんな私じゃあ、彼に嫌われちゃうに決まってるものぉ!」
その場に崩れ落ち、よよよと涙を流して悔しがるダイルナ。
そんな義母の醜態を見下ろしながら、シアンスカは指で眉間の辺りを押さえる。
「……わざわざ転生せずとも、これから変わればいいのでは?」
「そう……かしらぁ? 私、変われるかしらぁ?」
「一度死ぬ気だったんですし、必死になればどうとでもなりますよ」
「それもそうねぇ! それじゃあ私、これからはあの人の理想になれるように頑張るわぁっ!」
すっかり機嫌を直し、ニコニコと微笑むダイルナ。
「もう二度と、軽はずみに男の人と寝たりしないわぁ。というかぁ、もうウチのギルドに男は一人も入れないようにしましょうねぇ」
「まぁ、幸いにも……今のフロンティアには男は一人もいませんが。これからの加入希望者もですか?」
「当たり前じゃなぁいっ! 私の傍に男がいたらぁ、また変な噂が広がっちゃう!」
「噂というか、ただの事実ですけどね」
「とーにーかーく! フロンティアは女性だけのギルドにするのぉ!」
「分かりました。では、そのようにします」
「お願いねぇ。それじゃあ私は、あの人の理想になる為の作戦を考えておくわぁ」
「……失礼します」
ウキウキのダイルナを置いて、部屋を後にするシアンスカ。
義母が外から帰ってくるなり、運命の人に出会ったと言い出した時には、どうしていいものかと困惑もしたが……今は多少、落ち着いている。
「まさか、ギルドマスターを惚れさせる男がいるとは」
そんなに良い男ならば、一度くらい見てみたいと思うシアンスカ。
と、ちょうどその時。一人のギルドメンバーが駆け寄ってくる。
「あっ、シアンスカさん。ちょっといいですか?」
「ん? どうかしましたか?」
「実は、ウチのギルドに入れて欲しいという三人組がいまして」
「……分かりました。では、ギルドマスターに代わって私がテストしましょう」
こうしてシアンスカは、知らず知らずの内に義母の想い人と遭遇する事となる。
さらに、この再会をきっかけとして……この平穏なギルド内において。
とてつもない寝取りの嵐が吹き荒れる事になるのだが。
それはまだ、もう少し先の話である。




