17話:おっぱいとの遭遇
「ふぅっ……久しぶりに一人きりだな」
フロンティアに関する聞き込みのため、俺達は手分けして街を散策している。
したがって、今の俺の隣にはアイもガティもいない。
ここ最近はずっと、二人が俺の両腕にしがみついていたものだから、たまにはこうして一人で羽根を伸ばすのも悪くないと思える。
「それにしても、随分と冒険者が多いな」
右を見ても、左を見ても。至るところに冒険者のような格好した人ばかり。
サンルーナには沢山のギルドが本部を置いていると聞いた事があるので、それが関係しているのだろう。
「これだけ多いと、誰に話を聞けばいいか悩んじまう」
行き交う冒険者達の中から、話しかけやすそうな人を探そう。
そう思って周囲を伺っていると、一人の女性が目に止まった。
「ふぇっくちぃっ! もうっ……あの子のせいで、風邪を引いちゃったわぁ」
可愛らしいくしゃみをしながら、フラフラと歩いている……妖艶な雰囲気の女性。
うなじの辺りで切り揃えられた銀髪に、碧色の瞳が特徴的なタレ目の美人だ。
しかし、彼女を説明する上で最も重要となるのは間違いなく……そのあまりにも大きすぎる爆乳だろう。
デカイ。俺が知る一番の巨乳はアイだが、そのアイの巨乳と一線を画する程の大きさ。
大の男の頭一つよりも大きな乳房が二つ。どたぷん。どたぷんと揺れている。
「早くお薬貰って帰らないとねぇ」
しかも彼女の服装は、今にもずり落ちそうなほどに肩をはだけさせた黒衣のローブ。
ほんのちょっとでも引っ張れば、あの爆乳はポロリとこぼれ落ちるに違いない。
「……」
そんな彼女の姿に見惚れて、俺はその場で立ち尽くしていた。
そうして彼女が俺の前を通り過ぎようとした――ちょうどその瞬間。
「やっと見つけたぜ! アバズレぇっ!」
「!」
俺と爆乳の女性の間に、筋骨隆々の男が割って入ってくる。
そして男は目の前の女性に、背負っていた巨大な戦斧の刃を向けた。
「あらぁ、どなただったかしらぁ?」
「昨日、てめぇに殺された男の弟だ! よくも、大切な兄貴を殺してくれやがったな!」
「お兄さん……? ああ、あの人の弟さんなのねぇ」
戦斧の刃が目と鼻の先に突き付けられても、女性は慌てるどころか、やけに落ち着き払った態度を取る始末だ。
「じゃあ、アナタにも期待できそうにないわねぇ」
そう呟いて、女性は大男の股間へと視線を移す。
「ふざけてんじゃねぇっ! てめぇは今ここで、俺がぶっ殺してやるっ!」
それを見た大男は、顔を真っ赤にして激昂。
持っていた戦斧を高く振り上げた――ところで。
「うるせぇよ」
「ぐがぁっ!?」
俺は後ろから大男の膝裏を蹴り、体勢を崩させる。
それによって、斧を振りかぶっていた大男は前のめりになる形で転んでしまった。
「あら……?」
「ほら、さっさと逃げるぞ!」
俺はすかさず女性の手を掴み、急いでその場から走り出す。
するとすぐさま、背後から大男の怒声が聞こえてくる。
「うぉぉぉぉぉっ!? 誰がやりやがったぁっ!? 出てこいっ! ぶっ殺してやるっ!」
「誰が出ていくかよ」
あの男の実力がどの程度かは知らないが、わざわざ相手をするメリットも無い。
俺は女性を連れて、人混みの中に混ざる形で……怒り狂う大男から逃げていく。
「はぁっ、はぁっ……ま、待ってぇ……私ぃ、走るのは苦手でぇ……!」
「おっと。それじゃあ……」
「えっ? ひゃあっ!?」
女性が俺の速さに付いて来られないようだったので、俺は彼女をお姫様抱っこの形で抱えあげて、そのまま走り出した。
「こ、こんなのっ……!」
「もう少しだけ我慢してください。すぐに、あの男を撒いてみせますから」
「でもぉ……あうぅっ……」
女性は恥ずかしそうにしていたが、背に腹は代えられないと悟ったのか。
頬を少し染めながら、俺の首に両手を回してきた。
その際、あのとんでもない爆乳が俺の胸元辺りに押し付けられる形になったのだが……それはもう、ヤバい感触であった。
「……っと、この辺でいいかな」
俺は路地裏の辺りまで進むと、そこから少し顔を出し……大男が付いてきていない事を確認。そっと、爆乳の女性をその場に下ろしてやった。
「ありがとう。お陰で、無駄な力を使わずに済んだわぁ」
地面に降り立った女性は、実に気品のある仕草で俺に頭を下げてくる。
彼女が何者かは知らないが、なんとなく……地位の高い人物なのだと思った。
「気にしないでください。礼が欲しくてやったわけじゃないんで」
「……へぇ? てっきり、私の気を引きたいのかと思っちゃったけどぉ」
言いながら、女性は自分の胸を両手で寄せ上げる。
もしも俺が昨晩、アイとガティに散々搾り取られていなければ、この場でビンビンになっていたかもしれないな。
「うふふっ……いいのよぉ? さっきのお礼に、おばさんがイイことしてあげてもぉ」
誘惑するように、女性は俺にしなだれかかってくる。
だけど今の俺にとって大事なのは、おっぱいではない。
「嬉しいお誘いですけど、お断りしますよ」
「…………えっ?」
「俺は、性欲だけで女の人を抱いたりしませんので」
俺は女性を引き剥がすように肩を押し、自分の服の乱れを直す。
そして、ポカンと大きく口を開いている女性に……きちんと説明しておく。
「アナタは綺麗でスタイルもいい。その美貌目当てに、これまで多くの人が下心ありきで近付いて来たんでしょうけど……」
「……」
「案外いるんですよ、たまに。困っている人を見ると、打算無しで体が動いてしまう……俺みたいなお人好しのバカが」
「っ!」
「……というわけで、俺はそろそろ失礼します。帰り道、さっきの男に見つからないように気を付けてくださいね」
なんだか自分で言っていて恥ずかしくなってきたので、俺は話を切り上げて……足早にその場から立ち去る事にした。
「あっ……ま、待ってぇ……」
途中、後ろから女性が俺を呼び止める声が聞こえた気がしたが……俺は歩みを止める事無く雑踏の中へと入っていった。
いかんいかん。まだ俺は勇者を目指していた時の癖が残っているらしい。
どうせ俺はいずれ、この世界の全てをぶっ壊すつもりなんだ。
人助けなんて、しなくてもいいはずなのに――
【Side ダイルナ】
去っていく。
お節介にも、私を救おうとした少年が……私の元から離れていく。
「あっ、あぁ……」
最初はいつもと同じような男かと思った。
私に親切なフリをして近付き、少しでもチャンスがあると思えば、体を求めてくる欲望に忠実な男達。
だから、ほんのちょっとのいたずら心。
彼を誘惑し、その本性を曝け出してやろうと思った……それなのに。
「なによぉ、これぇ……!」
まっすぐな視線。曇り無い透き通った瞳で……彼は私の誘いを断った。
しかも、その直後に放った一言。
『案外いるんですよ、たまに。困っている人を見ると、打算無しで体が動いてしまう……俺みたいなお人好しのバカが』
照れくさそうに頬を掻きながら、そんな言葉を口にする彼を見た瞬間。
私の全身に、雷に打たれたような衝撃が駆け巡った。
「あぁ……っ、はぁんっ……!」
胸が苦しい。ドキドキと脈打つ心臓の音が、やけにうるさく聞こえる。
そして頭の中にはさっきからずっと繰り返し、あの少年の顔が浮かんでは消えていく。
「どうしたのぉ、私……? これじゃあ、まるでぇ……」
暗い路地裏で、私はうずくまる。
認めたくない。でも、認めざるを得ないのかもしれない。
「私、あの子にぃ……」
産まれて初めて、私は――
「恋しちゃったみたい……♪」
誰かを好きになってしまったのだと。
もしダメな部分などありましたら、ご指摘頂けると嬉しいです。
今後次第ですが、打ち切りを検討しております。




