第6話 「スナーク」
「外方使い……いや今の世では死人占い師……いやいやそれも古いか……」
「しかししかしだ、新しく名付けるというのもオツなもの。そうだ、これはいいぞ!」
「スナーク」
「なんだい、旧友よ」
喋り続けるかつての同胞を止める。
そうだ、こんなお喋りがいたっけか……すこし、懐かしい。
シルクのような純白のローブ、遮蔽魔術の達人。
彼の気配は絶対に読めない。
「しかし……キミも堕ちたものだよね」
「……なんだよ」
「-----。かつてはふたつ在った空の月を喰らい、ひとつにした。
そのキミが名前通り、堕ちに堕ちたわけか」
「……そんなことは知らない」
「悲しいね、そんなキミの姿を見るのは」
飄々と彼は語る。
僕は『眼』を限界まで開き、リディアへ迫るであろう攻撃に備える。
リディアに、死は視えない。
ひと月先まで覗いてみるが、やはり死は視えない。
「その子……アレか。なんちゃら家の長女か」
「……。」
「なるほどねぇ、そりゃ強い死がでるか。
こうして視ても……うん、すごいね」
「スナーク、悪いが……」
大鎌を握りしめ、かつての仲間をみやる。
彼女を知ったなら、逃がすことはできない。
しかし、彼の現能は……正直厳しい。
彼にだけは見つかりたくなかった。
「なんかさっきから視線が怖いんだけど、-----。」
「その、すまないがその名前は知らない。僕の名前はデス太郎だ。僕の大切なふたりから付けられた大事な名前なんだ」
「……あっ、そう。ずいぶん安直な、」
「―――大事な名前なんだ。愚弄はよしてほしい」
「わかった、わかったよ」
へらへらとスナークは笑い、右手首を左右に振る。
これは彼のクセだったな。
「あの……デス太、仕掛けないんですか?私も手伝います」
「リディア、その……」
「わお、やっぱ好戦的だねぇ」
なおもへらへらとスナークは笑う。
しかし彼からは闘気がまったく感じられない。
「どういうつもりなんだ?」
「どうもこうも、ボクはその子を殺す気はないよ。
『視れば』わかるだろ?」
「その……でも」
「強い死の運命だっけ?そのカラクリに気付いちゃったからさ。
その子を殺す気はない」
「……えっ?」
「それと、弱ったキミを見るのは個人的にかなーり嫌なんだよね。
だから、キミの同胞殺しも止めない」
「…………。」
スナークは、かつての僕の処刑に参加していない。
ゆえに、彼は僕から力を奪っていない。
しかし……でも……。
「そんなに疑う?結構ショックだなぁ……」
「……だって」
「じゃあさ、とっても強い『誓約』を結ぼう。
破ったらボクらでも死んじゃうようなさ」
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スナークは、リディアを殺さず僕らのことも同胞に漏らさない。
その他細々と文言やルールの穴をリディアと確かめ、絶対大丈夫という条件で約束を結んだ。
「それじゃあね。
仲間をぶっ殺して力を取り戻して、かつてのキミをまた見てみたいなぁ!」
スナークは、その言葉を最後に目の前から消える。
本当に、瞬きの間に。
「……デス太、彼はやはりチャンスがあるなら……」
「いや、それはムリだと思う」
スナークが消えた辺りを指差す。
「もう彼は、この世界にいない」
「……えっ!」
遮蔽魔術というのがある。
気配を隠したり、モノを視えなくしたり。
ふつうはとても地味な術だ。
「彼は、遮蔽術の達人だ。秘奥の域だよ」
「……なるほど」
極めれば自身の存在そのものを遮蔽できる。
彼は真実、この世界に存在しない。
「気配の達人でもある彼に不意打ちは難しいし、その初手で決められなければこの世界から逃げる」
「…………。」
「そんなヤツを殺すのは、とても難しい。
『誓約』できたのはとても幸運だね」
「……そうですか」
リディアは少し、不満そうだった。
しかしあの約束はかなり強固だ。
死神ですら、死に至らしめる。
しかし、スナークは昔からなにを考えているかわからないやつだったけど……。
より悪化しているようだ。
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あのあと僕らは死体を処理し、宿の2階へ引き上げた。
「リディア」
「なんですかデス太」
「しばらく、ああいうことは禁止だ」
「……お掃除はしていませんけど?」
素知らぬ顔……たぶん、わかってて言っている。
「街中での殺しはダメだ。いずれは問題になる」
「……。」
「それと、死霊の召喚はまずい。
アレの気配は、僕ら精霊にはすぐにわかる」
「……そうでしたか」
「レーベンホルムやネビニラルの屋敷からその気配がするなら気にもならないけど、街の地下だとマズイ。
同胞が興味を持ってやってきてもおかしくない」
「……それは……なるほど」
「だから基本的には召喚系も禁止だね」
「わかりました」
リディアはすんなりと聞き入れてくれた。
やはり素直でいい子である。
「ではデス太、冒険者ギルドに行きましょう」
「……うん?なんでそうなるの」
「デス太は違いますが、ヒトは生きていくのにお金が必要です。
お掃除ができないならば別の手段で稼がないと」
「おお、リディア。なんだかマトモなことを言っているね」
「でしょう」
にこりとほほ笑むリディア。
そうだね。
冒険者は悪くない。
彼女の才能も活かせて、各地を転々としてもよくて。
逃亡生活者にはうってつけだ。
リディアが苦手そうな罠や奇襲は全部僕が予見して防げばいいし。
「……では、さっそく行きましょう」
「うん」
颯爽と風をきるように歩きだした彼女の横を、久しぶりに明るい気分でついて行く。
冒険者、まっとうな職業でなによりだ。
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