99・それは俺が思う白い飲み物ではなかった
さすがに鹿4頭は獲りすぎで処理に困ったので干し肉にするだけでなく、今回秋播きアマムを育ててもらう農家にも振舞う事にした。
とはいっても、人数に対して量は知れているので一人当たり肉は一切れかそこらしか行き渡りはしない。
「これがあの鹿のスープ、なかなかにうめぇ」
肉が少ない事に対する批判は起きてはいなかった。それよりも鹿のスープにありつけたという事が大きな喜びらしい。
そりゃあそうか、年に数頭しか獲れないんだから、そこらの農民が口に出来るはずがない。高級なのかどうかは良く分からないが、味が良いので高級かもしれない。どちらにしてもみんな喜んでるから良しとしよう。
冷凍や冷蔵が出来ないから保存となると干し肉に加工するしかない。が、それは労力と時間を要するのでいくらでも出来るわけではないのが難点だ。
つまり、大量に肉があっても腐らせるのでさっさと消費するしかない。或いは、必要以上に獲ったり屠殺しないという事になるな。今回はついつい獲りすぎた。
結局、そんなことをしていたらずいぶん時間を使ってしまったのでクフモへ帰ることになった。アマムの栽培は春播きと秋播きに大きな違いは無いので機械の取り扱いさえ教えてしまえば農家任せで問題ない。
今回は牛や多頭立ての馬に曳かせる大型農具を持ち込むのが主目的だったので十分役目は果たしたはずだ。あとは、収穫時期にハーベスターを持ち込んで効率的な脱穀を行えばよい。おっと、ムネプイの栽培も教える必要があるんだったな。アレを栽培できれば植物油も増産できる。
そんなことを思いながらクフモへの身軽な旅を満喫した。
クフモへ帰ってくるとシヤマムの酒の仕込みを始めるという話が持ち込まれた。悪いが俺は酒はどうでも良い。勝手にやっていて欲しいもんだ。
シヤマムの酒はどうやって作るのかと思ったら、日本酒と同じだった。シヤマムにも麹が付いてくるようで、それを利用して作るのだという。
「シヤマムを蒸して、この酒種を加えて作るんです」
そう言って作業工程の説明を受けながら見ていたのだが、だからどうしたというのかと、酒好きではない俺には何の感慨もわいてこなかった。
「公はあまり酒精を好まないとお聞きしておりますが、こちらは如何ですか?」
そう言ってコップを持ってくる。いや、それ、日本酒だよね?どぶろく?濁り酒?白いからそのいずれかだろうことが予測できた。
「酒は好きではない。僕に構わず皆で飲めばよい」
そう言ったのだが、案内人が引かない。
「いえいえ、これならば公のお口に合うと思います。酒精も強くはありません」
まあ、確かに、アルコール度が低くて水の替わりに常飲するような酒も存在するが、日本酒がそのたぐいとは思わないのだが。
案内人が俺に手渡したのはブツブツが浮いた代物だった。どぶろくだろ?これ。
そう思って見つめているとさらに説明を加えてきた。
「それは酒精が弱く、病人に飲ませたり疲れた時に飲むものでして、果物ほどではありませんが、甘みもあって誰でも飲みやすいと思います」
たしかに、どぶろくはどこの家庭でも酒造が禁じられるまでは作っていたらしいし、今でも許可を受けた寺社や個人が作っているという話も聞いたことがある。だからと言って、俺に渡す事は無いだろう。
さすがに突き返すのもどうかと思って口をつけてみた。うん、これ、甘酒じゃないか。
「なるほど、これならば飲める。酒は酒として、これを分けて売ればそれなりの商売になるのではないか?」
そう言うと、案内人も喜んでいた。
「はい、その様に考えております。その醪水は本来、甘さは無いのですが、発芽したモノを蒸したものと共に湯につけておくと甘味が出来上がります。それを足してこの甘さを出しているのです」
なるほど、さすがシヤマム、甘酒すら甘くないのか。大したもんだ。しかし意外な作り方で甘味料が出来るんだな、そんなものがあるとは知らなかった。
「なるほど、そう作るのか。ならば、その甘味は他のモノにも使えるのではないか?」
そういうと、案内人はそれを待っていたらしい。
「もちろんです。失敗から生まれた甘味ですが、様々な菓子や料理に使って行く事が可能だと思います。ただ・・・・・・」
そうだな、すでに実用的な甘味料が存在するから爆発的に売れるという事は無いだろう。
「木から採取するのは限度がある。シヤマムを作ればその分だけ甘味料の増産も可能だから、対抗できない事は無いと思うぞ。甘すぎない分、料理に合うかもしれない」
これでもかと香辛料を使う宮廷料理には不向きだが、フェン料理のレパートリーに使えるかもしれない。甘さと言っても、それぞれ合う食材や調理法があるだろうから、この甘味料が安く手に入る様になれば自然と普及しそうだ。これ、前世で言うとなんになるんだ?米や麦から砂糖が作れたって話は知らないんだが。




