95・そんなものがこの世界にあるとは驚きだった
これじゃないカレーっぽいもの。と言ってもグリーンカレーってあんなにカレーカレーしてるんだろうか?
とも思いながら、次の日の朝、夕飯を思い出して首をひねってみたが、いまいちよく分からない。
朝食はよくあるパンムだったが、おかずは昨日のカレーだった。
これ、チャパティじゃないのに、まるでインドカレー状態じゃないかなどと思いながらグリーンカレーみたいな何かを朝から食べることになった。
ほかのみんなは十分に喜んでいたが、一人だけ雰囲気が違うように見られていないか少し心配だったが、誰も気が付いていないようだった。
そして、クフモの街を出発して街道を南下する。
すでに薄っすら見えている山脈が目指す先である。
もともとの辺境領というのがこの山脈によって南北に別れ、ちょうど気候も変わるところだったので、境界としての役目を果たしていたらしい。
カルヤラにおいて山というのはあまりない。境界となっている谷というのは山にある渓谷の事ではなく、平地、或いは台地にある渓谷の事を言う。いわゆる地峡という奴なのだと思うが、俺も詳しいことは分からない。
そんな珍しい山の連なりがこの辺境にあって、元はこの山脈より南がカルヤラ王国だった。山を越えて人が住みだしたのはまだこの200年程度だったと思う。
たった200年程度だが、毎日使う燃料として、或いは畑を拡げるために木を切り倒しまくった結果が、元は森であっただろう辺境北部の草原地帯だ。
それはカルヤラの大半がそうで、放牧には使えても畑には使えない土地というのは今では放置され、ただ草原が広がるばかりとなっている場所も多い。
山の民が俺たちの事を草原の民というが、木が育ちにくいステップやサバンナと言った自然環境の草原ではなく、自ら木を切り倒して作り出した草原という意味も込めているのを忘れてはいけない。
ただ、彼ら自身も鍛冶や生活のために人里周辺はほぼ禿山しかないので、あまり変わりは無いのだが。
そんなカルヤラにおいて、この山脈周辺だけは森が残されている。
この森は自然保護とか何か目的があって残されているというのではなく、森のある場所が険しいがために誰も立ち行っていないに過ぎない。
山の民が住む大山脈と比較してしまえば規模も高さもこじんまりしたものではあるが、その険しさではこちらが上かもしれない。もし、この世界にハイキング登山が流行るような時代が来れば、ここも整備された登山観光の名所になるんだろうな。まあ、現状は下手に登れば遭難間違いなしだろうが。
丸2日かけて牛に荷車を曳かせながら移動して、ようやく到着した。
この辺りでは冬でも雪が少なく、根雪になることはまれなんだという。なるほど、それならば秋播きアマムの作付けも可能だろう。
ただ、気温自体はかなり低いので、ベルナを春先に植えて、初夏に収穫して、更に夏に植えるなどと言った事は出来ないらしい。それをやるには山脈の向こうまで行く必要があるそうだ。
間近でみた山脈は険しい崖が露出しており、その稜線に木が張り付いているような、何とも凄い光景だった。きっと、あの稜線を整備すればいっぱしの登山道になるんだろうが、それは俺がやる仕事ではない。
そんな山があるにもかかわらず、この山脈北側には大きな川は無い。山に険しい崖があるのは雪による浸食であって雨によるものではないという事なんだろうな。
それを示すかのように、冬の雪の量は少なく、夏の雨もそう多く降る訳ではないという。規模が小さい割にはかなり気候に影響を与える山脈なんだろうな。
ただ、山脈が雨を遮る関係で南側ではそれなりに降るようなので、地質の関係だろうか、西方の麓から流れ出る大きな川が一つある。あれは南で降った雨が北へと流れてきた結果だろう。
そんな山脈の麓に着いた日の夕食で事件は起きた。
「何だこれは!賓客に木の根を食わせるとは何事だ!!」
クフモから随行している役人が地元の領主だか庄屋だかを怒鳴り散らした。
どうやら目の前に出された料理が気に入らないらしいが、俺はとくにどうという事は無い。強いて文句があるとすれば、カルヤラには醤油とゴマが無いのでどうしても味気ないきんぴらごぼうにしかならない事だろうか。まあ、塩気と油っ気があるから食えない訳ではない。
ただ、あのキナ同様にこれもご当地食材らしく、クフモでは食べる事は無いらしい。
なにより、ここ、カルヤラやハルティ半島には大豆が無いので味噌や醤油が作れない。
いや、仮にあったとしても気候や菌の関係であの通りに出来るかどうかも分かりはしないが。
それはともかく、うるさく叱責を続けるが邪魔で仕方ない。
「お前も食べてみればわかる。いや、確かに泥臭さはあるが、これは木の根ではなく、イモのように食べるものなんだろう?」
叱責されていた当事者にそう問いかけると、やはり、これはゴボウの様な食材だったらしい。
「はい、これはこの周辺で採れる薬用植物でして、このような歓迎の席でお出しするものです。ただ、いつ採れるかわからない貴重なものでして・・・」
そう言っている。きっと山の中で自生しているのを掘って来るんだろう。それはきっと大変な話だ。
「貴重な食材だそうだ。皆、味わって食べよう」
俺がそう言うと、役人はバツが悪そうに小さくなっていた。
「そうだ、アマムの後作にする予定のムネプイをコップ一杯ほど炒ってこれにふりかけてくれ」
そう言って持ってきたゴマっぽい種を炒ってふりかけてもらった。ゴマほど風味は無いが、それっぽくはなった。
このムネプイという植物、見た目はゴマっぽいがあの独特の風味は無く、サラッとした癖のない油なので、炒ってもゴマほどの風味は出せなかった。またひとつ「これじゃない感」なモノが出来てしまったが、こればかりは仕方がない。




