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91・ジャガイモは毒?

 ピヤパの収穫時だというのにナンションナーを離れることになった。


 初夏からつい最近までアホカス領やさらに西のゼロに居て、ようやく帰って来てシヤマムが実をつけているのにホッとしたのもつかの間、戦勝報告と論功行賞のために王都へと赴く必要が生じてしまった。

 子守があるのでヘンナは連れて行けないが、ケッコナとイアンバヌを連れていくことになった。


 そうそう、クフモ近郊で育てているシヤマムであればすでに収穫を終えているのだが、こちらでは田植えから暫く気温が低かったためだろう、

 ただ、意外だったのは、同時に植えたはずなのに、うるち種は先に実り始めてもう収穫を始めて良い状態だとクフモから来てもらった農家に言われた。もち種についてはもう少しかかるという。


 つまり、最も肝心なのは品種ごとの生育速度であって、同時に育てたからと言って、同時に生育が進むわけではないということ。これは勉強になった。


 まあ、もし、播種栽培をしていた場合、糯種に関しては出穂はしても、実がちゃんと入らずに未熟のまま枯れた可能性もあるかも知れないと農家に指摘された。農家が感心したのは苗箱育苗だった。これを使えば播種と田植えに分けて、作業を分散できる可能性があるという。

 ナンションナーでは霜が遅くまで下りるのでその対策だったが、クフモでは作業の分散に利用できるかもしれないという。

 ただ、アマムの播種時期と苗たて時期が重なることになりそうなので、収穫時期を分散できてもどこまで効果があるかは怪しいらしい。それならいっそ、秋播きアマムに挑戦した方が良いのかもしれないと話し合ったが、温暖な王都周辺ならともかく、冬の一時期とはいえ、雪に埋もれるクフモで秋播きが育つかどうかは賭けらしい。


「牛の導入で農地が増える、そこを使って試してみてはどうだ?」


 俺がそう言うと、試験をやってみようかという話になった。


 さて、のんびりそんな話をしている間に周りは王都行きの準備を進めており、コンバインの改良についてミケエムシと話をしようとしていた俺はケッコナに拉致されるように船に放り込まれてしまった。


「ウルホ、王都に行くって言ったよね?シヤマムの管理にクフモから人を呼んでる。ピヤパの収穫機ならミケエムシに任せておけば良いでしょ?まずは、今回の戦でガネオ川まで広がった土地をどうするか考えよう」


 その件は既に兄に伝えているからどうにかなるのだが、ケッコナにとっては重要な問題らしい。



 そういえば、俺は王都に屋敷は持っていない。最近の戦いでたくさんの空き家が出来たが、それらの多くは兄の下に居た騎士や兵士の中から叙爵されて貴族に取り立てられた者たちへと分け与えられて俺の取り分は無い。特に欲しいとも思ってはいなかったが。


 そこで、王都での宿泊先を探していたら、ナンションナーへいつもやってくる商人が泊めてくれるというので商人の屋敷に泊まることになった。タダという訳にはいかないので、ナンガデッキョンナーで作られた包丁や鍋を渡しておいた。量が少ないと思ったのでコークスも余分に渡したらなぜか驚いていた。

 翌日にはアホカス家から使者が来たが、あまり格式ばった屋敷へ行くのも気が引けるのでアホカス屋敷への宿泊については丁重に断っておいた。




「さて、ウルホ。今回は北方軍の直卒ご苦労だった」


 居並ぶ諸侯の中でラガーの谷を守った軍勢の指揮官と俺や義母が兄の前に並んでいる。兄は一人一人に声をかけていった。


「さて、ラガーで得た土地は王領とし、神盾兵団に優先的な開墾を行わせる。団長、この間までただの農夫だった兵団だが、これからは王領の盾として働いてもらう」


 兄がそう言うと、並んだ中の一人が跪いている。


「ハッ!望外の喜び、我ら兵団皆、陛下のおん為、王領の盾として尽くす所存です」


 そう言って涙を流している。


「つぎだが、ゼロでの戦いもガネオ川まで進攻したらしいな。流石にガネオ川近辺に王軍や近衛を配置する余裕はない。ウルホ、おまえが従える森の民を配してみてはどうだ?」


 そう聞いて来た。これも想定内だ。


「森の民と私は友好関係ではありますが、配下ではないので御しかねます。縁辺には騎士も居らず、クフモから派遣するにも遠いため、私の手に余ると存じます。ゼロの谷よりガネオ川までは数日の距離、アホカス候の所領にもほど近く、地理にも明るく、守りやすいと存じます」


 俺は兄に占領地は王領にするかアホカス家へ編入することを提案していた。王領にはしないというのだから、俺がアホカス領にする名分を示せばいいという事なんだろう。


「そうか、森の民は配下ではないか。たしかに、ウルホの領にはアウリより引き継いだ僅かな騎士しか居らんな。ならば、今回の戦で功もあったアホカスに任せるか。キエロ、おまえは異存ないか?」


 一緒に並んでいる義母に兄が問うた。


「わがアホカス、陛下よりの拝領地に依存などありましょうや」


 義母はそう言って跪いている。


「そうか、ならば、アホカスに任せる。森の民とも接している故、そのあたり、ウルホとも相談せよ」


 つまるところ、新領地での牛の飼育や牛による開墾も許可されたという事だろう。


「ところでウルホ、ウゴルが食べていた芋がある、ぺルナというそうだがお前にやる」


 そう言って召使が俺の前に持ってきたのは緑化しかけたジャガイモだった。


「陛下、このイモは食べると危険です。ゼロにおいてもウゴルの食料であったので捕獲しておりますが、山の民曰く、毒だそうです」


 そう、ホッコがウゴルの補給部隊を襲撃して食料を確保しているが、当然、その中には多くのジャガイモがあった。

 馬と共にホッコが持ってきたが、当然、日の光を遮蔽せずに持ってきたがために緑になっていた。

 それを見たイアンバヌがジャガイモを取り上げて放り投げてしまったのだ。


「ホッコ。ウルホに毒を食べさす気?それなら私にも考えがあるよ」


 すごい剣幕でそう言った。これまでにない剣幕にホッコも何が起きたのかわからなかったが、理由を聞いていきなり俺を抱きしめてきた。


「バカを言うな。俺がウルホを殺す訳が無いだろう!」


 言動はともかく、行動は迷惑だった。


 その時の話を兄にもしたが、どうやら知らなかったらしい。


「何?おい!芋を食わないように走らせろ!!」


 召使たちがどこかへと走っていった。


「危ない所だった。そうか、山の民とウゴルは争っていたから芋についても知っていたのか」


 山の民にはアピオがあるのでわざわざジャガイモを育てる必然性が無かったらしい。


 このぺルナという名のジャガイモにも毒があるし連作障害もある。それに対し、アピオは毒もないし連作障害もない。敢えて欠点を言うなら栽培期間が長く、ジャガイモのように一年に二度収穫出来ないことと、麺類にするか団子にする程度しか料理のレパートリーがない事だろう。これはジャガイモとアピオの成分の違いだからどうしようもない。アピオは加工しないとちょっと食いにくいが、アマムが製粉してパンにした方が食べやすいのと同様なので、山の民にはデメリットではなく、一歩間違うと命に係わるぺルナなるジャガイモの方が取り扱いに困る代物らしい。


「日に当てて緑化しておらず、芽とその周辺を取り除いていれば食用になるので、その点を注意して調理すれば大丈夫です。湿気を苦手とするものの、栽培期間が短く、夏と秋の二度収穫可能なので管理さえ間違わなければ、荒れ地でも育つ優れものです」


 俺がジャガイモについて説明すると、兄もどこか安心したようだった。


「ウゴルが毒をも解する特殊な連中という訳ではないという事か、それは少し安心できる話だな」


 そりゃあ、ウゴルはコアラではないからな。誰も手を付けん有毒植物を食う種族ってわけではないと思う。

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