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88・本当にあっけなかった

 俺たちが砦に入ると、ホッコの言うように綺麗どころが並んでいた。


 確かに半数ほどは女性だろう。だが、もう半分は女装ではないのか?似合い過ぎていて怖いが、さすがにそれはどうかと思う。


「ウルホ、そんな事言えないよ。普通にしていて可愛い少女のウルホに言われたくないって人ばかりだと思う」


 小声だからイアンバヌにしか聞こえなかったらしいが、そのイアンバヌからそう言われてしまった。そして、イケメンが近づいてくる。義母だ。


「公、ご無事でしたか。心配しておりました」


 そういや、このイケメンもゲームに出てくる美人騎士で通じるなと、その鎧を見て思った。いや、そもそも女なんだから美人騎士で間違いは無いんだが。


 配置へと向かう森の民をみて、ふとある事に気が付いた。あの弓って・・・


「ああ、あれはホンデノがウルホやイアンバヌの弓を作ってるのを見て、他の職人が作ったらしくて、従来の弓よりも扱いやすくて当てやすいらしいよ」


 と、ケッコナが教えてくれた。そう言うケッコナは従来の弓を持っている。ある程度馴染んだ弓ならそう大差はないらしい。ケッコナはホッコやケッコイが基準だからそうなんだろうけど、普通の森の民にとっては、やはり道具の差は大きい様だ。

 俺やイアンバヌ、クフモの弓兵に持たせたコンパウンドボウは滑車を利用して特殊な弓だが、それ以外にも、アーチェリー競技で使う弓は、旧来の弓と違う。弓自体が偏芯しているので、和弓や旧来の洋弓のような微妙な偏芯と技量で命中を得るのではなく、矢を番える部分が意図的に切り欠き状になっているので、ただまっすぐ射れば良い構造になっている。和弓よりも命中しやすいのはそれが要因ともいわれる。


 当然だが、グラスファイバーではない木製の合成弓で作るのは並大抵の技術ではないと思うが、森の弓師はこの短期間にそれを作り上げてしまったらしい。ルヤンペが鍛冶のチートならば、森の民にも木工のチートが居たってわけだ。周りがチートばかりで恐ろしい。



 そんな女装を含めた森の民と、よく見るとアホカス騎士にも女装が居る。どんだけ顔面偏差値高いんだ、この辺りの地域は・・・

 そして、その後ろに隠れるように山の民の弓兵が配置についている。こちらは女装しても無理な筋肉だるま集団なので当然ながら女装はしていない。


 そんなことを考えながら砦を登って外を見てみると、すでにウゴルの騎兵が砦を取り囲むように駆けてきているところだった。まあ、その外側を森の民が取り囲んでいるんだろうけど。


 さすがのウゴル騎兵も馬ごと砦の壁をよじ登る芸当は持っていないらしい。義経の逆落としならば平気でこなせるらしいが、さすがにこいつらもチートすぎて話にならんと思うが、狩猟矢で倒せることだけが唯一の救いだろう。


「おい、あそこに遠当てやらかしたガキが居るぞ!」


 どうやら眼も良いらしい。


「おい、ガキ!降りてこい!!」


 まだ距離があるというのによく通る声だな。


「悪い様にはしねぇよ。ちゃんと死ぬ前に男ってもんを教えてやるぞ、わっは・・・・」


 最後まで言えずに馬から落ちた。誰がやったのかは言われなくともわかる。奴の体に矢は刺さっていない。きっと、体のどこかに穴だけが開いていることだろう。

 落馬した騎兵の周り連中が辺りを見回すが発見できないらしい。


「おい!何やりやがった!!」


 怯えたように叫ぶ奴が居るが、誰もそれに答えようとはしない。そして、しびれを切らしたように突撃の号令を出す奴が現れた。


「何かわからねぇが、囲んだならこっちのもんだ、援軍来る前に褒美を頂いちまうぞ!行け!」


 騒いでいたグループとは違うグループらしいところでそう号令して、波状攻撃のように周りにも伝波して行った。


 当然、こちらも応戦を始める。


 まずは長距離射撃は俺や森の民の担当だ。矢を番えて射かけ始める。


 だが、相手は騎兵、その速度は早く、すぐさま山の民たちも射撃を始める状態となった。多くの騎兵が倒されていくが、それでも次から次へと走ってくる。壕には杭が仕込んであるから飛び込んだら最後。いくら跳躍力のあるウゴルの馬と騎兵でも、この壁が越えられない。


 攻勢は長く続かずに終わった。どうやら短絡的なグループと兵糧攻めを狙うグループが居たという事だろう。まるで動いていない騎兵もかなりの数が見渡せた。

 実際、包囲という名の通り、スッコゼロへ向かう街道にも騎兵が展開し、少し遠くではスッコゼロ方面を警戒するグループも見受けられる。


 包囲されて半日が過ぎ、そろそろ周りが暗く染まろうという時間になって、スッコゼロ方向に居たグループが砦側へと駆けてきた。そして、その向こうにはたいまつらしい灯が見える。


更に、騒ぎはゼロの谷側からも巻き起こった。


「敵だ!敵の援軍が西から来るぞ!」


 そんな声が聞こえる。常識的に考えてあり得ない。ここまで攻めて来る間にあった砦を落としたのは今叫んでいるウゴル騎兵たちではないか。意図して撤退したとはいえ、砦を攻略してきたことに違いは無い。


「バカを言うな!西から来るわけが無いだろう!そっちから来るのは味方だ!!」


 そう言い返す声も聞こえる。が、味方な訳はない。後続部隊はホッコの精鋭の一隊が叩いているハズで、ここに来れるわけはない。


「だから!味方を倒して敵が来てるんだ!!」


 必死にそう言うのが聞こえる。


 幹線街道の砦を抜いて奥深くに侵攻して要地の砦を包囲したと思ったら、なぜか、自分たちが進路も退路も塞がれているというあり得ない状況に、ウゴル騎兵の混乱が暗くなりだすとともに増していった。


 暗闇の中でたいまつを焚くのは自ら的になるに等しい。そう言うのを見付けたら砦から狙撃した。

 それ以外でも各所から怒声や悲鳴やうめき声が聞こえてくる。


 味方を模したたいまつも進撃を止めて横に展開していく。ゼロ方面では混乱と悲鳴ばかりが聞こえてくる。

 苦し紛れに砦へ攻撃を仕掛けてくる騎兵を夜通し倒して、夜が明ける頃には敵はほとんど立っていなかった。

 矢が刺さると言うか、串刺しになっている者が大半だ。明らかに森の民の精鋭に射殺されたと分かる。中には、なぜか木に打ち付けられている遺体まである。どうやったらそうなるのか理解に苦しむが、現に見えているのだからそうなんだろう。信じたくないが。

 あれ?よく見るとイアンバヌの戦矢じゃないのか?あれ。俺の戦矢らしきものが兜ごと頭を突き抜けてかんざしになっている遺体は直視するに堪えなかった。何処をどうジャンプ台にしたのか、砦の高さまで飛んできた騎兵だろう。俺も慌てて戦矢を手にして射たから覚えている。二射射てなんとか二射目が頭に命中したんだ。そのせいで馬がコントロールを失い、壁に激突、漫画のように跳ねて、騎兵の遺体を壕の向こうまで放り投げてしまった。暗くて落下までは見ていなかった。


 取り残された騎兵も次々何処からともなく飛んでくる矢に倒れて行く。


 捕虜?


 ゼロの谷周辺での所業が所業だけに生かしておく気が森の民にはない事は確かだ。義母も執拗にはい回る負傷兵を射殺している。

 略奪と殺戮の限りを尽くした末路と思えば、致し方が無い。凌遅刑みたいな残虐行為でないだけ良心的ではないだろうか。ここには21世紀地球の戦時国際法など存在しないのだから、捕虜として丁重に扱い、公平な裁判で刑罰を確定するという考えなど存在していない。


 日が昇りきる頃には、逃げ去るか、さもなければ息絶えたウゴル騎兵の屍が周辺に散乱している惨状だけが残っていた。

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