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81・王都からの使者がやって来た

 ヘンナが無事に出産してほどなくしてピッピの収穫を迎えることになった。昨年間に合わなかったコンバインの試験も兼ねて収穫を行う。


 昨年はコンバインの本格的な使用が出来ていないので、いくつかの改善を施しただけの試験機1台のみの投入だが、その効率は非常に高く、総出で刈り取る横で、畑を一枚刈り終えてしまっている。


「こいつは早いな。これだけ刈り取りが早く済むなら人手不足に悩むこともねぇ。途中で壊れなければだが」


 ミケエムシがそう指摘するように、収穫作業自体は早く行えるのだが、如何せん、まだまだ試行錯誤な部分が多いので、途中で詰まったり、ベルトが外れたりといったトラブルが時折起きてしまう。

 今はこの1台しかないので修理も迅速に行えるし、そもそもが手刈りを前提にしたスケジュールで行われているので何の問題もない。しかし、牛による耕起の様や種まきの様に簡単に終えることを前提にしたスケジュールを組めるかというと、まだまだ不安が大きい。


 牛が前世に比べて体格が良く力があるので馬力という点で不満は無い。


 ただ、大きな力を前提にした機械なので、それ相応の強度が必要になる。かといって、脱穀部を強靭に作って実を粉々に砕いては元も子もない。

 昨年の実験を経て実用的な機構には仕上がったつもりだったが、刈り取り速度の設定があまりうまく行っていない。

 網や車体を壊すような故障こそ起きてはいないが、刈り取り部から揺動棚へと送る途中に設けた脱穀・搬送ドラムに過大な力がかかってベルトが切れたり、予想以上の搬送量でドラムが追い付かずに詰まってしまったりとトラブルが起きている。


「あとは、早朝の露がある時には刈れないことに気を付ければ何とかなるだろう。ドラムやプーリーについては少し改良の余地がありそうだが」


 俺がコンバインのパネルを外して中を点検しながらミケエムシにそう伝えた。


「ああ、網が何とか耐えているが、このままじゃ機械自体も壊しかねんな、最悪、ドラムの設置位置や刈り取り速度から考慮しても良いが、まずはドラムの大きさと歯の形状、回転数あたりからだな」


 二人して今後どうするかを考えている。


 昨年は5日もかかった刈り取りだが、今年はコンバインの投入もあって3日に短縮した。


 ただ、実を乾すための台の数には限りがあるので、今のところ全量をコンバインでとはいけないところが問題だろうか。


「あとは、アレだな。これを使うと茎をそのまま畑にばらまくことになるが、長さがマチマチだから後の処理に困りそうだ。ピッピならまだ良いが、ピヤパだと問題だぞ」


 そう、最大の問題は残稈処理だ。前世のコンバインなら、チッパーやカッターによって細かく切り刻んで田畑に散布するので鋤き込めば済む。ところが、そうした装置を取り付けるのが構造的にも馬力的にも難しいこのコンバインの場合、そこも大きな問題となる。


「当面は昨年作った草刈り機で刻んで走るしかないだろう」


 昨年作った失敗作のロータリーを改造した草刈り機。薄く土を削る程度まで設置位置を落とせば、残稈処理に使えなくもない。草刈り中の失敗を見てそう思っただけなので、実はやってみないと分からないのだが。


「たしかに、アレなら使えるだろうな。刃の寿命が酷く短くなるんだがなぁ~。いっそ、夏草と畑内の処理で刃を作り替えるか」


 どうやらミケエムシには要らない手間をかけさせることになりそうだった。


「すまないが検討してみてくれ」


 結局、手押し式芝刈り機の様な機械が新たに誕生することになった。馬に曳かせるサイズにすればカルヤラにも売れそうだと考えたのはずいぶん後の事だった。



 そんなことをやっていると王都から手紙が来たという。


 ヘンナが出産した際に手紙を出していたのでその返事だろう。何だかものすごく大げさな人員でやって来たようだが。


「どうした?この人数は」


 やって来た代表にそう尋ねると


「ハッ、陛下よりの親書ゆえ、粗略に扱う訳にも行かず、このようになりました」


 という。いつもなら商人が持ってくる伝言程度なのに、一体なんだろうか。


 そう思って、豪勢な箱に入った手紙を受け取る。


 内容は予想した通りのモノだった。


「そうか、娘を王都に迎えたいと。わかった。条件通り10歳まではこちらで育て、王都の学び舎へと送り出すとしよう」


 ヘンナが生んだのは女の子だった。兄に未だ男子は居ないので、イアンバヌが予想した妃という話にはなっていないが、王都へというのは予想した通りだった。こちらとしても予想はしていたので驚くほどの事は無い。


「では、陛下にはその様にお伝えいたします」


 と言いながら、何かまだ聞きたいことがあるようだった。


「どうしたのだ?娘スオメタルを送り出すことは承諾した。まだ何かあるのか?」


 不思議そうに聞くと


「はい、ウゴルの件ですが・・・・・・」


 そういえば、ウゴルがカルヤラに攻めて来たという話は聞いているが、確か、パーヤネンが善戦しているのではなかったか。


「谷で善戦しているのは聞いている。何か足らないものがあればいつでも送る」


 そう言ってみたが、どうもそのことではないという。


「畏れながら、アホカス家より何か連絡などは来ておりませんか?」


 アホカス家、ヘンナの実家だが、特に何も聞いてはいない。ふと、村長、いや、今では縁辺宰相とかいう仰々しい役職名が付いたんだっけ。を見るが、何も知らないらしい。ケッコナを見るが、こちらも同様だった。


「特に何も来ていないようだが、何か心配事でもあるのか?」


 そういうと、王都での防衛計画について話てくれた。どうやら、守りが堅いラガードの谷を迂回してゼロの谷へとウゴルの軍勢が向かう可能性があるという。この使者はアホカス家に近い貴族らしく、兄から縁辺行きを言い渡された事で、それを契機と支援を考えていたらしい。


「そうか、ゼロの谷へ」


 そう言ってケッコナへと目を向けると、周辺地理の説明をしてくれた。


 それによると、ゼロの谷は森の民との境にほど近く、ここより北上すると森の民の領域に入るという。この辺りまでは湖と草原が点在する林だが、その北はラッピ高原となり、森が広がる地域になるそうだ。馬の行動を考えれば、より北上することは危険性が高く、ゼロの谷を抜ける可能性が高いという。

 さらに、ゼロ周辺の街であるスッコゼロはクフモからわずか10日以内の距離になる。ゼロの谷を攻め落とされたら辺境への侵攻も考えられるとの事だった。


「そう言う事か。わかった。こちらからも義父へと伺いを立てておこう。安心しろ、ゼロへウゴルが来れば、縁辺よりの援軍も送る」


 そう言うと使者は安心して下がっていった。


「ウルホ、分かってるとは思うけど、王都の罠かもしれないよ?わざわざアホカスに近い貴族を寄こすなんて、本来ならあり得ないんだから」


 ケッコナがそう忠告してくるが、ゼロの谷が攻め落とされて困るのは確実なので、支援しない訳にはいかない。


「だが、放っておけば辺境にもやって来る。それに、ヘンナの実家だ。助けない訳にはいかん」


 そう言うと、ケッコナも分かっていた様に微笑んで


「辺境にウゴルが入り込んで困るのは森の民も同じだから、反対はしない。でも、気を付けて」


 と言ってきた。もしかして、ルヤンペはこれが分かって弓を100も作ってたのか?東の方でウゴルと和平が成立して戦争が無くなったと言っていたのは、カルヤラへ攻めるためにウゴルが戦いを止めただけだったのかもしれない。困った話だ。 




 

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