77・田植えを甘く見ていて後悔した
確か、一人当たり一反の田植えが可能なんじゃなかったのか?どういうことだ?
田植え中の俺は腰が痛くて非常に困っている。一人一反は可能と踏んで、俺、イアンバヌ、ケッコナとあと数人の手すきの農家だけで田植えを始めたのだが、終わりが見えてこない。
いや、確かに農家衆は不慣れと言ってもそれなりの手際で植えている。イアンバヌはずいぶん苦労しているし、ケッコナもあまり進んではいない。それでも二人とも俺より先に居る。どうしてこうなった?
ちなみに、ヘンナはずいぶんお腹が大きくなったので作業や鍛錬はしていない。本当にごく軽い運動だけしている。
恨めしそうにみんなを見やったが、それで田植えが進むわけもなく、俺も田植えを再開した。
もう少し時期がずれていたらより大勢で田植えが出来たのかもしれないが、牛の導入で調子に乗って畑を拡大しすぎた結果、まるで人手が足りていない。
昨年作った播種機は手押し式だったが、今年のピッピの種蒔きは手押しではまるで足りないという事で、ポニーに3連にして曳かせるようにした。
ピッピは何とかそれで乗り切ったのだが、ピヤパはもっと悲惨だった。
ポニーも種蒔きだけに使う訳ではなく、アピオ畑の耕起にも必要なので、牛用に6連播種機を作って曳かせることにして何とか間に合わせた。
そして、ピヤパの芽が出た後の除草にも手押しでは無理があるのでポニー用に除草器を連結して曳かせている。牛でならもっと行けるだろうって?
ところがだ、ピヤパの条間が牛には狭すぎて歩かせることが出来なかったので、出来る限りのポニーを除草に駆り出して何とか対応している。もう、アレだ、北海道とかどこか外国の農場並には広いんだよ、今の農地。
いくら栽培が簡単とはいっても、さすがに人の手でやるには広すぎる。牛がトラクター並みの仕事ができるからって考えなしで農地を拡げちゃいかんね。
そんな中で、水田はちっぽけなもんだ。が、5,6人も居れば一日で終わると安易に考えていたら、昼を回っているのに未だに終わる気配がない。
来年は手押し式田植え機を作ろうと思う。もう嫌だ。
しかし、手押し式って苗箱に対応してたっけ?
たしか、専用の苗を必要としていた気がする。さもなければ、苗代の苗を投入するか。そんな感じではなかったろうか。そもそも、苗箱式の場合、長方形の苗を均等に引っ掻いて植え付ける必要があるので、苗置台を左右に動かさないといけないし、植え付け株毎に投入されたモノならともかく、箱状に根が張った苗は自然に落ちてはくれないので、苗置き台には送り車を付けて常に爪が苗を掴めるようにしないといけない。
当然だが、そんな複雑な動きを行う機械を人力で押して動力を得たのでは、手植えの方が労力が少ないだろう。手植えより労力を使っては本末転倒なので、田植え機をどうするかは今後の課題だな、やはり、ポニーか牛に曳かせるか?
そもそも、今年ちゃんと育ってから考えよう。霜が降りなくなったとはいえ、まだ夜は寒い。そして、ここはクフモほど夏の気温も高くはない。
稲には冷害というのがあって、夏の気温や日照次第で実が入らなかったり収量が極端に落ちたりする。下手をすると病気になるかもしれない。
クフモで栽培しているシヤマムがナンションナーで同じように栽培できるかどうか、今年はまずそれを見ないといけない。
ナンションナーで栽培が難しいならクフモで沼ではなく水田を作る様にしよう。今は農民たちの食料でしかないが、今後はそれだけではなくなる。生産性が悪いと商品としての価値が無いし、需要も満たせない。
それに、シヤマムと一口に言っても大きく二種類存在していた。粳と糯だ。当然、餅として使ったのは糯種。粳はそのまま蒸して搗いたからと言って餅にはならない。今までは粥しかなかったが、持ち帰って製粉してみたところ、麺や団子を作ることが出来た。
主要品種の糯種の場合は逆に、製粉しても麺には出来なかった。和菓子風な使い方は出来たが、それでは保存性は良くない。この分野は森の民に任せた方がよさそうだ。
そんな事もあって、ナンションナーへ持ち帰ったのは粳種だけ。
が、それを使えば麺類。つまりはビーフンやフォーといったものが出来るし、生春巻きに使うライスペーパーも出来る。ピヤパで作るパンムはクレープ程度の厚みだが、シヤマムで作ると非常に薄くなるので、生春巻きの様に使えて便利だ。
本来の生春巻きは屋台料理らしく、ちょっとした軽食として食べられるモノらしい。パンムにもそんな側面があるので、カルヤラや縁辺でも十分な需要があるだろう。主食がシヤマムの辺境では食の革命でどの様に需要が拡大するかも予測できない。
今は害獣でしかない熊も、森の民に加工を依頼すればおいしい腸詰や燻し肉になってしまう。それらを使って厚めの生地に巻けば、中華料理の腸粉も出来るだろう。夢は広がるばかりだな。
当然、熊だけでなく猪や魚を使っても良いし、麺類の出汁にも使える。いっそ、アピオとシヤマムの粉を混ぜれば新しい麺が出来ないだろうか?上手く行けば透明な麺が出来るかもしれない。そう、鍋ものに使うアレが。
結局、田植えを終えるのに三日を要してしまった。栽培がうまく行けば来年は絶対田植え機が必要だと確信した。




