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75・シヤマム栽培

 クフモにおけるシヤマム栽培は直播法で行われている。

 現代日本でも実施している方法ではあるが、やはり、メリット・デメリットは存在する。


 現在日本で一般的な苗箱育苗法では、塩水選などの準備から田植えまでの期間は約30日前後となっている。

 当然、自家育苗となれば、労働時間と苗箱を並べるために広い土地を必要とし、一定以上の土地を持つ農家でないと行う事は難しい。

 それに対して、直播であれば、種まきを行えば良いだけなので、農地以外の土地は必要無い。


 しかし、直播の場合、苗箱育苗期間である30日の多くを前倒しして田に蒔く必要がある。それは、春野菜や麦類との二毛作が出来なくなるという事も意味している。

 確かに直播法は労力こそ少ないが、田の有効利用という点では劣る面がある。だいたい、早い品種であれば、春の野菜収穫頃から苗たて作業。つまり、苗箱への種蒔きを始める。麦に合わせた品種でも、麦がまだ青いうちに始める。

 麦の収穫が5月下旬ごろであるのに対し、稲の苗作りは5月初めから中旬には開始している。

 そうなると、麦作後に直播をやると7月に田植えを行うのと同じ状況になってしまう訳で、相当に品種の限られた栽培しか出来なくなってしまう。

 普通に考えれば、大規模農家でのスライド作として、直播と田植えを併用して、春野菜や麦作と耕地を分けて行うのが適切という事になるだろう。


 そして、肥料の関係から直播栽培のコメというのは苗箱育苗に対して食味で劣るともされ、やはり、生産者としては採用は妥協を要するともいわれる。



 と、まあ、直播は古くて新しい栽培法ではあるが、何よりの欠点は、寒冷地では播種時期が極端に遅くなり、栽培適期を逃しかねないという切実な問題が存在している。

 苗箱育苗法というのは、古来日本で行われていた苗代法に対し15日前後、稲の栽培を早めることが出来る手法であり、冷害回避にも効果があるとされている。

 そのため、まだ霜が降りるような時期ではあるが、ナンションナーでは苗箱を製作して、シヤマムの種を播き、重ねた苗箱にムシロをかけて保温している。

 クフモですらまだ種蒔き時期ではない。まだ15日は早いだろう。


「ウルホ、この箱はいつまで置いておくの?」


 建物内であるため、イアンバヌがしきりに不思議がっているが、仕方がない、このまま数日様子を見る。


「水に浸してたから食べるのかと思ったんだけど」


 ケッコナにもそう言われた。

 

 直播ではないので、やり方は前世の米栽培に準じたやり方をしている。ただ、温度が違うのと品種が違うので、俺が知っている通りに出来るかどうかは分からない。


 五日後に箱を覗いてみるとようやく芽が出ていたのでフェンの乾燥棚の下へ箱を並べていく。冬場ならフェン作りをやっていたから使えるスペースではないが、すでに冬場のフェン作りを終えているからこそ出来る。ちょうど、フェンを作っていない時期で良かった。


 薄っすら黄色い芽が出たモノを並べていくと、イアンバヌが不思議そうに見ていた。


「これを食べるの?」


 いや、そうじゃないんだよ。


「これが指を伸ばしたくらいになるまで育てて、沼に植え替える」


 俺がそう説明して引き抜こうとするのを止めた。如雨露にハス口が無かったので、鍛冶に頼んで作って貰い、水かけを行う。棚の上には霜よけとしてムシロを掛けている。しばらくこれを取れないが、仕方がない。


 それから10日ほど棚の下で育てていると葉は緑色になり、すくすくと育っているが、まだまだ小さい。田植えには時間がかかりそうだった。


 その間に田の方を代掻きを行うのだが、あれ、どうやれば良いんだ?


 ポニーに曳かせたロータリーを持ち込もうとしたら止められた。


「さすがにそれは止めてくれ。多少の泥は良いが、泥水が入るとどうなるかわからん」


 山の民がそう言うので水田に入る前に引き返したんだが、考えて見ればそうだ。歯車むき出しで軸にも防水シールなどついていないから錆で使えなくなるかもしれんし、泥も詰まるか。ゴムかそれに換わる材質のモノがあればシールが作れるんだが、その様な好都合なものは発見できていない。


 水田作りであえて犂による深耕をせず、ディスクとロータリー耕に留めている。


 なぜかって?


 造成地の水田では代搔きでトラクターが埋まったり、田植え中の田植え機が埋まるのは良くある話。


 造成後すぐにはいくら鋤床を機械で作ったと言っても、実際に水を入れるとそんなものは簡単に緩くなってしまう。結果として、造成初年の水田ではトラクターや田植え機が嵌って引っ張り出すというのは良くある話だったりする。

 それを知っているので、深耕をして足を取られないようにしている。シヤマムの根はあまり深くへ伸びていなかったのでこれで大丈夫だろうとおもう。が、問題は代掻きだな。


 結局、他に手が思いつかなかったので旧来の馬鍬をポニーに曳かせることにした。


ぺチャン!


「ウルホ!」


 イアンバヌの声がする。


 水田に慣れていないのはポニーも同様だった。上手く足が抜けずに緩急の激しい動きをするポニーに引きずられて転倒してしまった。泥だらけだ。


 それでも懲りずに、ポニーの教育も兼ねて何とか代搔きを終えることが出来た。なんだかケッコナが笑いをこらえているが、気にしないことにした。


 霜が降りなくなるのはそろそろ、念のためにあと5日ほど待って田植えを行う事にしよう。

 

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