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74・とりあえず、冬の間の話もしておこう

 ヘンナの懐妊はホッコに絡まれてから数日後に知らされた。


 しかも、かなり深刻な顔でだ。


「ウルホさま、私、子ができたようにございます」


 なぜか真剣な顔でそう言ってくるのがよく分からなかった。


「それは良かった。体に気を付ける様に」


 俺は嬉しそうにそう言ったのだが、ヘンナは納得していない。


「喜んでいただけるんですか?」


 喜ばない理由がどこにあるだろうか。イマイチ分からない。


「私はアホカス家の娘です。そして、公はカルヤラ王家、しかも正室のお子ではありませんか。わが子は公と国王陛下を争わせる火種になるやもしれないのですよ?」


 俺が不思議そうにしているとそう付け加えてきた。


 そう言えばそうだ。正室子と王家に最も近い貴族の娘。その二人に子が産まれたならば、それはどうやっても王位継承権がどうのという話になるだろう。


 しかし、俺は一介の大公でしかない。しかも僅かな領地しかない縁辺を治める身だ。まあ、今では辺境北部が編入され、一般的な貴族のそれに近い領を持つには至ったが、その程度だ。宮廷に何の影響力も持ち得てはいない。

 宮廷闘争に介入する気もないし、そのことは兄も理解している事だろう。なのに、何を心配しているのだろうか?


「ヘンナ、僕に王位継承権はない。当然、ヘンナが生んだ子にも継承権が発生したりはしないと思うが、何がそこまで心配なのだ?」


 なぜか、ヘンナにため息をつかれる。本人は見えていないと思っているかもしれないが、俺には見えてしまっている。


「確かに、宮廷における王位継承権は我が子にはありません。しかし、貴族たちはそう見るでしょうか?しかも、縁辺は既に山の民や森の民すら従える状態です」


 ヘンナが何を言っているのかよく分からない。ルヤンペがナンガデッキョンナーでやっているのは俺から見れば外資系企業との合弁事業みたいなもんだし、ケッコナンから牛を導入した事に至っては、農業技術の導入以上でも以下でもない。俺が山の民や森の民を従える?


「山の民や森の民を従えている訳ではないぞ?」


 そう返すと、一瞬、呆れたような顔をされた。


「イアンバヌやケッコナを娶ったというのはそういう事ではないですか?」


 なるほど、そう見えるのかもしれない。しかし


「山の民と森の民から妻を迎えたからと言って、相手を臣下にしたわけではない。縁辺での行いについては兄の了解あっての事だ。僕が兄に従う姿勢を示していれば特に問題となる事は無いだろう」


 そう言うと、何か諦めたように肩を落としたヘンナは自室へと戻っていく。何がそうも不安なのだろう。よく分からん。


 俺はヘンナからの懐妊の知らせをすぐに兄へと知らせる手紙を出した。


 すると、無理を押して結氷直前という危険な時期に医師団が派遣されてきた。いつだったか盾を託したあの商人が載せて来たのだが、ご苦労な事だ。

 その危険な行為を労おうとちょっと多めに乾燥フェンや植物油を渡しておいた。冬場の製品ではないのでちょっと味に自信は無いが、品質自体は大きな問題はない。

 商人も喜んで受け取ってくれたのでよかった。なぜか、盾や槍先は要らないと先手を打ってきたのは何だったんだろうね。最近、どうやら東の山の民が戦争を終わらせたとかでそこそこ余ってるんだが。


 やって来た医師団をイアンバヌとケッコナがやたらと警戒していた。そして、ヘンナを医師に会わそうとせず、その間にケッコナンから薬師を呼び寄せてきた。薬師臨席なら構わないと二人は言うので、ようやくヘンナも診察に応じていた。


 なぜそこまでするのかよく分からない。兄からも医師団の派遣と俺たちの子供が無事に生まれるようにと手紙が来ているんだが。もちろん、三人にも見せた。


 医師団と薬師もはじめのうちはけん制し合う様な場面もあったが、十日もすると打ち解けたようで、森の生薬がどうとか話をする姿を見かけた。


 痺れ薬がどうとか言っていたから、麻酔か鎮痛剤の話なんだろう。この世界は医療が思った以上に進んでいるのかもしれない。



 そうそう、冬の間の変わった出来事といえば、ホンデノがやって来た。いつだったか約束した弓の話だったようで、俺とイアンバヌの弓を見て、二人の射法なども見たり聴いたりしていた。

 俺たちがフェン作りをやっている頃、彼は弓づくりをしていたようで、年が明けて少ししたころに新たな弓が完成した。

 イアンバヌの弓はほぼそのままの形で鉄で補強した歪なリムだったモノが、綺麗な積層構造になっていた。

 それに対して俺の弓はリムの長さが伸びて和弓の様に引くことが出来るように改良されている。滑車がそのままだと意味が無いんじゃないかと思ったが、すでにルヤンペが試作していたモノを使用しているらしい。


 当のルヤンペだが、ナンションナーへ帰ってから非常に慌ただしそうにしていた。まずは辺境の運河建設のために土木技術者を東からも呼び寄せ、俺から閘門式運河の仕組みを聞き、ナンションナーでミニチュアを作っていた。

 結氷前には土木技術者たちは運河の仕組みを理解し、ムホスへと旅立っていった。春までに水門や導水管の設置手前まで工事を進めて、春以降に本格的に運河の工事を始めるらしい。少なくとも一つ目の運河は来秋には完成させるというのだから仕事が早い。


 ルヤンペ本人はそんな事もしながらホンデノの弓にも関わり、ナンションナーの設備で出来る滑車作りをやっていた。


 そして、ある程度弓の形が見えた頃に何を思ったかガイニへ帰ると言い出し、雪の中を帰って行った。

 イアンバヌによると、天候を見極めれば、冬でもガイナンからガイニへ向かう事は可能だそうなので問題はないらしい。

 それもそうか。ナンガデッキョンナーでは冬もコークスを生産しガイナンへ卸している。ガイナンだけでは消費できない量を卸している訳だから、当然、ガイニへも運ばれている訳だ。ルヤンペはまあ、気まぐれなところがあるからそれで良い。


 そう思っていたら、シヤマムの種蒔きが終わったころに早くもやって来た。


「ホンデノを呼んでくれねぇか?嬢ちゃんたちのより重い材質だが、カヤーニの騎士が使う分には問題ない重量で弓の持ち手が作れた。ざっと60ほどだ。出来れば夏までに完成させてクフモへ送りたい」


 やって来るなりいきなりそんな事を言いだした。どうやら今年の熊狩りはよほど本格的なものにしたいらしいな。 

 俺は敢えて使用目的を尋ねることなくホンデノを呼ぶことに同意した。

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