73・ナンションナーにも水田を作ることにした
クフモからシヤマムの実を貰って来たのでナンションナーでも試してみようと思う。
で、だ。
そのためには等高線圃場が必要になる訳だが、当然ながら、ナンションナーはそんな圃場整備はしていない。
等高線圃場とは何ぞや?
まず、水田と畑の違いから見ていかないといけないが、畑というのは基本的に地形に大きく左右されない。
というのも、水田の様に水を張る訳ではないから、よほど急峻でもない限り、丘や平原をそのまま耕してしまえば良い事になる。
当然、石拾いや切り株の除去は必須だが、それさえ終われば少々勾配があろうが問題ない。
外国や北海道の風景というのは大体そんな感じではないだろうか?
それに対して、水田は傾斜があると水を張れないので、出来るだけ水平に圃場を均す作業が必須になる。
水稲は水の中で育つとはいえ、当然ながら水の深さが極端に違うようでは、均一な生育は望めない。一部だけマダラに生育しては刈り取りにも支障をきたすのは誰でもわかる事だろう。
そのため、傾斜がきついと棚田となる。中国大陸や日本の山間地には観光名所となる棚田も存在するが、決して狙ってやっている訳ではなく、そうしないと水張りが出来ないからああなっているに過ぎない。
平地でも気にしてみると分かるが、水田の畔は少しずつ標高が下がるにしたがって低くなっているのに気が付くだろう。
現在の水田は機械化に伴い大型重機で大面積で整備されているが、重機が無い時代にあんな大面積の水田を整備するのはかなり難しい話だった。もちろん、手作業による田植えや刈り取り、水を張るためのかんがい用水の整備状態を見ても、大規模な水田というのはなかなか実現が難しかった。
さらにだ、今では大半の水田が冬には水が無い、いわゆる乾田だが、昔は多くの水田が冬にも水をたたえた湿田や深田だった。
灌漑設備の問題による排水性の問題というのも大きいし、昔から乾田化出来ていた地域では二毛作が行われ、田の利用率も高かった。
そう言うと、湿田がすべて悪いように思われるが、有機農法という観点から、冬や初春に水を張って代掻きを行わずに田植えをしたり、秋に稲刈りしたのちの藁や籾摺り後に投入した摺り糠を冠水することで腐らせるという農法も一部で行われるところがある。
いくら灌漑設備が整備されたとはいえ、用水利用や隣接水田への影響などから、主流という訳ではないのだが。
そして、湿田や深田というのは、明治以前においては防壁としての役割も期待されていた。
今でも田植え後の水田なんかは戦車でもない限り通行できない。人が入ろうものなら足を取られてうまく進めなくなる。トラックなど戦車の牽引なしには脱出すら不可能だ。
そのため、全くの迷惑であったわけでもない。
目を海外に移すと、等高線圃場の在り方に注目している地域もあったりする。
欧州では斜面そのままの畑が一般的だが、当然ながら、そういう状態では土壌流出や肥料の流出というのが大きな問題となり、水質汚染源ともなっている。
そのため、日本では堆肥の圃場投入はエコだの有機農法だのと考えられるのに対し、欧州では水質汚染源として忌避されている。そもそも、畜産施設から出る糞尿は廃棄物で合って、堆肥利用することを法的に禁止や制限している国も多いという。
じゃあ、何を肥料にするのって?
水質汚染を引き起こさないよう、作物栽培計画で必要とされる量と種類の必須要素のみを混合して土壌注入するんだよ。
彼ら、欧州農業人にとっては、堆肥の使用などは無意味に過剰な養分を圃場に「投棄」する野蛮な行為となるらしい。
だからと言って、日本での堆肥使用が野蛮で時代遅れの蛮行かというと、そうではない。
そもそも、傾斜地をそのまま利用する畑作と畔によって田と用水や森林を区画した水田ではその捉え方が根本から違うので、直接の比較はできない。
合理的な考えから言えば、必須要素と所定使用量を超える養分を田畑に投入しても単なる無駄でしかないという部分は確かにその通りではあるが・・・
さて、そんなわけで、ナンションナーでシヤマム栽培をしようと思うなら、水田作りから始める必要がある。
日本ではごく当たり前かもしれないが、ナンションナーでは、わざわざ水の捌けた耕作地に水を満たすような行為をする意味があるのか?という疑問点が無いではない。
シヤマム自体、あくまで河畔の湿原で自生していた水草を栽培化したに過ぎない。わざわざ、水を引き込んで泥ねいを作って栽培する必要があるのかと疑念を持たれている。
実際、クフモにおいても、シヤマムはアマムの栽培に適さない湿地が利用されているので、ナンションナーに限らず、ハルティやカルヤラにおいてはそれが常識と言って良い。そもそも、餅にして食うから何とかなるんであって、アレはコメの様にそのまま主食にしてよいモノとは思えない。アマムやピヤパが食えるのであれば、絶対に欲しいとは思えない代物だ。
しかし、粉にして団子にすれば、伸ばして麺状に出来なくはなかった。つまり、フォーあるいはビーフンが作れそうなのだ。いや、作れた。ならば、乾麺化も出来るだろう。
ただ、問題が無いわけではない。ナンションナーはクフモよりも冷涼な土地なので、生育には細心の注意が必要になる。
「せっかく作ったあの均した沼じゃなくて箱に種まきしてるの?」
沼と言ってくれるな、イアンバヌ。
「播いた箱を重ねて袋をかぶせてどうするわけ?」
まあ、そこは確かに疑問があると思うよ、ケッコナ。
正しいかどうか分からないが、日本で普及している育苗法を採用してみることにした。
水田作りもほんの少しだけ、水路にほど近い、そして、排水しやすい場所、傾斜のほぼ無い場所を見繕って秋の降雪前に急造している。水漏れが起きないように、雪解け直後に水を張って確かめたから間違いは無い筈だ。
「クフモでもまだ種蒔き時期ではないはずですが、大丈夫なんでしょうか?」
少し身重そうなヘンナにも心配された。ってか、ナンションナーへ帰って程なく、ヘンナから懐妊を聞かされた時は驚いたよ。




