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70・それは俺にとって臭いものがさらに臭くなっただけだった

 ルヤンペが持ち出した樽は当然ながら酒だ。


 この世界にも酒は当然ながら存在する。山の民にもアピオの酒があって、あれはアルコール度数はあまり高くないが、甘みがあっておいしい。と言うか、俺は酒があまり好きではないので前世からほとんど飲んでいない。

山の民の酒にしても、ガイナンを訪れた時に飲んだ程度で、それ以後、飲んだことはない。一応、カルヤラでは14歳くらいから酒を飲み始めるから俺も飲んで良いんだぞ?


 とはいえ、前世の記憶と今の体。どちらもあまり酒を受け付けないらしいので、やんわり断ることが多い。


 ルヤンペ?ああ、当然、水と酒は同じ飲み物だ。ドイツのガラス工房の水分補給がビールであるように、ルヤンペの水分補給は酒だ。


 森の民にもピッピの酒がある。森の民は主に果実酒だ。ピッピの酒は・・・


 カルヤラにはアマム。麦類に似た穀物があるので、当然だが、ビールがある。ワインも存在している。

 貴族はワインが主体で、ビールはこれまた水代わりに近い。


 

 山の民の多くが酒を好んで飲むのは、山は水が貴重で、酒なら長期保存ができるからというのもある。アピオの酒は正直なところ、アルコール度数の高い甘酒と言った方が良い。だから、ガブガブ行けるんだろう。


 そんなルヤンペにワインやビールを飲ませると結構酔っているので、そう言う事だ。


 森の民の果実酒は炭酸のモノがあり、これはなかなかすごかった。が、一口飲んでホッコに渡した。日本酒ほどではないと思うが、結構きつかった。


 当然、ルヤンペに飲ませると大喜びしていた。



 が、ナンションナーではピヤパで酒を造る余裕がほとんど無く、酒と言えば木から採れるシロップの酒が一般的だ。

 これは蜂蜜酒を真似たような酒だが、度数が非常に低い。しかも、蜂蜜酒と違って独特のクセが出てしまうので、飲みやすいとも言えない。


 さすがのルヤンペもこれには参ったようだ。しかも、ガイナンから酒を取り寄せようにも外へ出すほどの余裕はないらしく、毎日水代わりにするほどには入手できない。


 山と違って水はすぐ近くの川を流れているのでいくらでもあるのだが、ここは日本ではないので、一度沸かした方が良いし、そもそも、おいしいとは言えない。多分、硬水なんだと思う。だからだろう、水を飲むという事よりも、どんな味付けをするかが熱心に考えられ、結局は保存も出来る酒で良いじゃないかという所に行き着いてしまっている。

 お茶?そんな高価なものは無い。なので、俺は水か、さもなければ何らかのスープを飲むことが多い。


 しかしだ、ナンションナーにやって来た当初のルヤンペはそれでは我慢ならなかったらしく、どうにか酒、ないしはお茶の代用品が無いかとあれこれ探していた。


 そんな時、俺は不味そうに蜜酒を飲むルヤンペを見て聞いてしまった。


「その酒は不味いだろう?」


 酒嫌いの俺にはどれも似たようなもんだが、酒が水代わりの山の民がそんなだったからつい、魔がさしたと言って良い。


「ああ、酒精が薄いのはまだ良いが、この何とも言えん口当たりがな」


 そう言って更に嫌そうな顔をする。


 酒なんて俺はどうでも良かったのだが、ついつい、口を出してしまった。


「ならば、蒸留してみたらどうだ?多少は飲みやすくなるかもしれない」


 醸造しても飲み難い酒であっても蒸留すれば素直なものになるとか言っていた気がしたのでそう言ってみた。


「酒を蒸留?酒精が飛んで水になっちまわねぇか?」


 ルヤンペから返ってきたのはそんな疑問だった。


「そんな事は無い。沸かした湯気を集めて冷やせばより酒精の強いものが出来るはずだ」


 俺がそう言うと、どうやら頭をひねっているらしい。


 カルヤラには一応、蒸留法は存在した。確かに蒸留も行われているが、それは儀式に使うために行われているもので、大々的に酒として出回っている類のものではなかった。山ではどうなのだろうか。


「そんなことが出来るのか。鍋や器を作ることは出来るが、それで大丈夫なのか?」


 なるほど、蒸留法自体がよく分かっていないようだ。



 そこで、王宮にある蒸留器を図と口頭で説明した。


「なるほど、赤鉄か。あれなら加工もし易いし熱も良く伝わる」


 話を聞いて俄然やる気になったようで、それから数日掛けて蒸留器を作っていた。なんだかウィスキーの蒸留器を小さくしたみたいな感じだが、きっとそれで合ってるんだろう。俺も儀式用の聖水なんか飲んだことないから分からない。


 モノが完成して数日、蜜酒を実際に蒸留することになった。酒として飲むなら複数回やった方が良いと教えているので、これまた数日掛けて蒸留を行っているようだった。


「おい、アレは酒精はきつくなったが飲むには向いていないぞ」


 ルヤンペがそう言ってきたのだが、元々がクセが強かったからそんなもんだろうと思っていたが、そう言えば、儀式の聖水も前年につくって次の年の吉凶を占う事を思いだしてルヤンペに伝えた。


「ルヤンペ、僕は飲まないから忘れていたが、聖水は前年に作った物を1年置いてから使っていた。樽で1年置くと飲めるのかもしれない」


 そう伝えて、蒸留酒がどうだったか思い出してみたが、ウィスキーなんかは何年も熟成させるんだったかと思い出した。焼酎や泡盛?知らん。


「保存は利くだろうが、大丈夫なのか?」


 ルヤンペがそう言ってきたが、何十年と置いておけることはワインでもわかっているので確信を持って頷いた。





 そう、それが約一年前の話。そして、何を思ったかルヤンペはクフモに蒸留酒の酒樽を持ってきた。


「そろそろ飲めるようになってるぞ。今日は祝いだからちょうど良いだろう」


 そう言って酒樽の栓を抜いて用意された杯へとそれを注いでいく。蒸留したては透明だったそれは、淡い茶色に変色していた。まるでウィスキーみたいだ。


 注いだ杯をルヤンペが嗅いだ。


「うむ、悪くなさそうだ」


 元を知っているだけに、現状がずいぶん改善されたと喜んでいるんだろう。


「さあ、ナンションナーで作られた聖水だ!縁辺公の祝いの席くらいしか飲む機会はないぞ!!」


 いや、今年もせっせと仕込んでなかったか?わざわざガイナンから杜氏呼んでたよな。


 俺はそう思ったが口にはしなかった。なにせ、聖水と聞いて皆が目の色を変えていた。何がそんなにいいのか俺にはさっぱり分からない。ただ酒臭さがきつくなっただけじゃないか。


「嬢ちゃん、ほれ」


 どうやら、俺が音頭を取らないといけないらしい。


「それでは皆、乾杯」


 俺がそう言って杯を掲げると、乾杯の声と共に杯を掲げ合っている。ぶつけたりはしない。


 俺は杯から匂う酒臭さだけでもうお腹一杯だが、口をつけない訳にはいかないので、一口だけ飲んだ。


 こんなきつい酒、俺には無理だ。サッと隣のヘンナに杯を渡して、シヤマムで作った甘酒っぽいモノを飲むことにした。


「なあ、嬢ちゃん、このシヤマムの酒も蒸留したらかなりイケるようになると思うぞ?」


 ルヤンペが聞いて来たが、適当に答えておいた。来年にはクフモにも蒸留器が設置されているかもしれんが、俺はそこまで酒に執着していないのでどっちでも良い。

 確かに、辺境で新たな産品が生み出されるのは悪い事ではない。これがカルヤラでウケればかなり利益も見込めるだろう。そう言う意味では拒否する理由もない。


 が、ヘンナが蒸留酒を飲み過ぎてその夜襲ってきたのだけは正直困った。熊退治でそれどころではなかったから色々溜まってたんだろうが、一方的に襲って気が済んだら寝てしまった。


 今後、ヘンナの酒量も調整した方が良いかもしれない。

 




 


 


 


 


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