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69・帰還したが案外平静だった

 熊を倒したことは早速街へと知らされることとなった。


 すぐさま街から騎士や山の民がやってきて熊の解体と運搬を始める。俺はそれを横目にヘンナに連れられて街へと戻ることとなった。


 この周辺の人食い熊はこれで退治したはずだが、しばらく警戒のために森の民と騎士が残ることになっている。


「公、ご無事で」


 ヘンナがそう言って俺を出迎えると、そそくさと俺を街へと連れ帰る。街は人食い熊が居なくなったことで今までのピリピリした空気はなく、お祭り騒ぎだった。

 カレー風味のキナ餅やキナ粥が振舞われており、街全体がカレーの匂いに包まれていた。まあ、カレーの匂いであって、味はカレーかと問われると少し違う気がしたのだが。


 キナ粥は刻んだキナの葉をシヤマムと煮込んだもので、七草粥みたいなものと思えばよいだろう。カレーの匂いがしている以外は。味も練り込んである餅ほどではない。

 そこで、炒めてパリパリになったキナの葉を出来るだけ粉状にしたモノをスープにしたらどうなるかと、村人たちに話していたのだが、街でそれを実行する者が現れ、グリーンカレーに見えなくもないナニカが皿に入っているモノに遭遇した。


「うん、悪くない。ピイェヘという粉を入れるとピリ辛くて良い」


 胡椒が無いので何かないかと思ったら、山椒の様な香辛料があったので、キナのスープに加えてもらった。そうすると、よりカレーに似たナニカへと進化している。


「これに蒸したシヤマムを加えてくれ」


 街の宴席でそう注文すると、餅にする前の蒸したシヤマムが運ばれてきた。


 勢い鍋に投入しようとしたからそれを止め、皿に盛りつけるように言った。


「うん、これは良い」


 カレーライスとは何か違うが、カレーライス風味を味わえるモノに仕上がっている。緑なのでちょっと違和感だが。


「ご領主、寝かせたキナを使ったスープも作っておりますよ」


 村で会った老人がそう言って緑ではなく黄色のスープを持ってきた。よりカレーらしいニオイもしている。そして


「こ、これは・・・」


 そのスープを一口掬って食べてみたが、緑のスープよりさらにカレーらしさがあった。香辛料のブレンドによるあのカレーのニオイや味とはまるで違うのだが、かなりそれに近い。キナもそれ自体が香辛料なんだと、ようやく納得した気がする。

 そこで、キナ以外にもいくつかの香草や香辛料を混ぜてみるとどうなるだろうかと老人に問うてみたが、これまでその様な使い方はしたことが無いそうだ。


「そのような使い方はしておりませんでしたな。キナは粥の香りづけが主で、他に使っておりませんし、ピイェヘは干し肉の仕込みに使います。調理後の食事に使う事はありませんでした。アレはあくまで保存が利くように肉に塗り込むモノでしたから。他には、スープにいくつかの香草を使う程度ですね。それらをすべて合わせたりは・・・」


 というので、少し試してもらう事にした。


 翌日、早くもいくつかの試作品が出来上がっていたのだが、すべてが良いとは言えなかった。ニオイがヤバくなったものや、そもそも食えそうにないもの、明らかに食わない方が良いモノまであったが、キナにいくつかの乾燥した木の実や草の実、ピイェヘを混ぜたモノならば、問題なく食えた。

 しかし、どう考えたら「熟した川魚」を混ぜるという発想になるんだ?それ、単に腐ってるだけだろ?あ、鮒寿司的なナニカか?俺は食いたくない。見た目もニオイもヤバすぎだろ。あれだ、スウェーデンのアレ。きっとそんな奴だ。


 ただ、魚の発酵物があるなら、味噌や醤油的なものはないかと思ったが、残念ながらそう言うものは無かった。内陸で塩が貴重品なのも影響していそうだ。もっと西、スッコゼロの南方、ゼロまで行けば岩塩があるそうだが、ここからではさすがに遠いんだろうな。だが、運河が出来れば流通もかなり変わるから、ムホス周辺の入り江で製塩を行うのもありかもしれない。シヤマムと何かの豆を使って醤が出来るかもしれないからな。味噌の原型的なナニカが。



 そんなことを考えながら街での暮らしを終え、お祭り騒ぎがひと段落したあたりでクフモへと戻ることとなった。

 その間、森の民が周辺を探索していたが、新たに人食い熊の様な脅威は存在しなさそうだった。そのせいか、彼らは猪や兎を獲って帰ってくることが多かったが。


 


 クフモへ帰るとそこは静かなものだった。いや、活気には溢れている。しかし、熊騒ぎでピリピリしていた地域と比べたら、いつもと変わらない活気と言って良いだろう。何かに怯えることも、脅威が消えた解放感のようなモノもない。


 が、それも街の様子についてであって、館ではまるで違った。


 先に熊退治を終えていたケッコイやルヤンペが俺を歓迎してくれたし、カヤーニも何やら誇らしげだ。


「嬢ちゃん、やったな。一人で熊3頭はさすがだぜ」


 そう言っている。


「本当、ケッコナの夫が森でも通用すると分かったからね。私も鼻が高いよ」


 ケッコイも非常にうれしそうだ。


 つか、カヤーニ、降伏した相手がこんな武勇に恵まれた領主で良かったと言うのは喜ぶところか?それで良いのだろうか?


 帰り道でヘンナに言われたのだが、今回、俺が単独で3頭も熊を倒したことで、兄も俺を認めてくれるだろうという話だ。今回の事でほぼ確実に武力侵攻は無くなったらしい。


 俺としては端っから兄が侵攻してくるとは考えていないが、そんなに危なかったんだろうか?


「ウルホさま、我らの間に子が産まれた場合、王位継承権が発生します。わが子を守るためにも、確固とした武勇は必要な事でした。これで、森の民や山の民の傀儡ではなく、こちらが率いている事を陛下もご納得していただけるでしょう」


「王位継承権?別に子に王位を継いでもらおうとは思わないぞ?」


「こちらがそうであってもです。カルヤラから見れば、我らは危険な存在ですので、出来るだけ手出しできない方策を巡らせる必要がございます」


 そんなもんかと思ったが、ヘンナがそこまで言うなら仕方が無いとあきらめた。ルヤンペやケッコイ、カヤーニもそれを気にしてるんだろうか?俺としては考え過ぎだと思うんだが。



「よ~し、こんな祝いの席だ、アレを開けてやろう!!」


 ルヤンペが何やら樽を持ち出してくる。何のためにそんなものを積み込んだのかと思ったが、あの様子だと、どこかで口実が欲しかったんだろうな。


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