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68・何とか熊を退治した

 草餅なのにカレー風味という見た目と味のギャップが楽しめる餅を食べ、今後の対策を話し合う事にした。


「ホンデノ、やはり、僕たちは警戒されているんじゃないのか?しばらくすればここの食料も尽きる。街から食糧を持ってくる必要があるが、熊はそこまで寄り付かないかもしれない」


 俺にとって一番いやな状況だ。


 このまま村に居ても熊が近寄ってこず、食料を運ぶ荷車隊が襲われるという最悪の事態が起きかねない。


「その可能性もなくはないと思う。俺たちから巧妙に隠れ続けているのも気になるんだ」


 ホンデノにとっても厄介な存在らしい。


 しかし、これと言った打開策が浮かんでこない。


「場合によってはルヤンペたちを呼び寄せる必要があるかも知れない」


 俺にとっての解決策はそれだ。


「長、それはうまく行かないんじゃないか?あの時、村人ではなく、隊長が狙われたのは、村人の周囲に山の民が居たからだ。一番端に隊長が居た」


 なるほどな。リスクを考えれば、山の民を避ける行動をとるか。そうなると、ルヤンペたちを呼ぶのは下策か。

 そうなると俺には策が無い。


「ひとつ、無いでもない。ただ、成功するかどうかは分からんし、長を危険にさらすことになる」


 ホンデノがそう言ってきた。


「策があるならやらないよりやった方が良い。どんな策だ?」


 そう言うと、少し悩んでいた。


「まず、隊長に聞いて来る」


 何を言ってるのかわからなかった。なぜ、ヘンナが関係あるんだろうか?


 そう思っていると、ホンデノはヘンナの所へと向かった。そして、何か話しかけるとヘンナが厳しい顔でこちらを見る。


 ホンデノが何か言ってはヘンナが難しい顔をしている。一体何のお話をしているんだろうか?


 それが続く間に俺は村の子供たちと餅を食べていた。


 草餅と何も入れていない餅を食べ比べると、やはり何もない餅は味気なさすぎる。カレー風味以外に何か無いのかと子供たちに聞いてみたが、この辺りにはこれと言ってないという。もちろん、子供たちの口に合わないだけで、何かあるのかもしれないが。


「長、隊長の承諾は得た」


 ホンデノが帰って来てそう言う。雰囲気を察した子供たちはその場を離れて行った。


「先に言っとくが、俺は長を男だと認識しているし、元締めみたいな気もない。それは先に伝えておく」


 一体どうしたのかよく分からない。俺は男なんだから改めて宣言しなくても居だろうし、ホッコみたいな気があっては困るぞ。


 俺はジト目でホンデノを見やっている事だろうな。


「長、そう心配しなくて良い。2、3日一緒に寝て欲しいだけだ。いや、本当に何もしない」


 何言ってんだ?本人の前でいう事ではないだろう。


「長、そう意味じゃない」


 どういう意味だと言いたかったがぐっと堪えた。


 ホンデノによると、きちんとした寝所があると、一日おきにヘンナがやって来る。どうやら、そのことで俺にもヘンナの匂いが付いてしまってる可能性が高いという。それを落とすのがまずは一つの目的だそうだ。

 それだけなら俺も少し休めるからいい。


 そしてもう一つは、ホンデノが持っている森の民特製の匂い消しを俺にも付けるためだという。そんなの香水みたいに塗れば良いんじゃないかと思ったが、そう簡単ではないのだという。


「長、ニオイを付けるだけなら簡単だ、だが、やろうとしてるのはニオイを消す事だ。そのあとで、村の子供の匂いでも付ければ良いだろうな」


 そう言っていた。それ、何をやれば良いんだ?


 いろいろ疑問だったが、それから3日に渡ってホンデノの言う通りにサウナ式の風呂を共にし、寝る時も一緒だった。本人が言う様に、変な目で俺を見て来ることはなかった。それより、俺を安心させるためだろう。自分の恋人の話をしたり、ヘンナの事を聞いて来たりしていた。


 そして4日目、風呂の前にホンデノが村の子供を呼んできて欲しいというので男の子を数人呼んできた。


「君らも一緒に風呂に入ろう」


 俺が声をかけると顔を赤くするもの、喜んでついて来るもの、様々だった。何故か、女の子が俺についてくる子供たちを睨んでいた気がするが、何故だったんだろうか?


「よ~し、居るのは男だけだ。お前たち、好きな娘は居るか?」


 風呂につくなりホンデノがそんな子供っぽい話題を男の子たちに問いかける。恥ずかしがるもの、積極的に話し出すもの、様々だった。


 なるほど、そこで冷やかされている少年と先ほど睨んでいた女の子は幼馴染だったのか。


 みんなでワイワイ言いながら風呂に入る。なぜか、男の子たちは俺をマジマジと見て、一瞬ガッカリしていた。何やら希望を打ち砕かれたような顔だ。なぜ?



 ホンデノが話題を振ってわいわい騒いだ。


 風呂の時間はあっという間に過ぎて行ったが、これでいったいどうなると云うのだろうか。


「じゃあ、またな」


 俺たちは風呂を出て男の子たちを送り出し、寝所となっている屋敷へと戻っていく。


「長、昨日までの風呂には森の民が使う特殊な香草を湯に入れてたんだ。今日は入れてない。皆でわいわい騒いで、同じ布で体を拭いたり、同じ水に浸かった。俺たち二人は今、ただの村人だ」


 ホンデノがそう言う。俺には何かよく分からなかった。


「これから村を出る。最新の情報だと確実に熊が出そうなのは東の道らしい」


 俺はホンデノに促されるまま準備を行った。この3日に渡って着物や弓すらも部屋でお香が焚かれていぶされていた。


 特にニオイも無かったが、アレもそうだという。


 ホンデノによると、森の民同士は昔から、鼻の利く狼や猪を飼いならしていたという。戦の際にはそうした動物を使って敵を探し出すことをやっていたらしい。今ではカルヤラという共通の敵が出来たことであまり争いも無くなったそうだが、やはり、それぞれの部族には考えの違いがあるのだそうだ。


「ヒョウゲは草原の民と接しているから、ケッコナンと手を結んでる。しかし、テンゴは西の部族だから、森によって草原の民と大きく隔てられているせいでまるで俺たちとは考え方が違う。今でも連中とは色々あるんだ」


 支度を終え、村の出口へと向かう間、ホンデノはそんな話をしていた。すでに森の民同士で戦争が起きる状況にはないらしい。西に行くとやはりそこにもウゴル系の遊牧民が居るらしく、テンゴ部族とウゴルは対立しているらしい。

 そのため、森の民同士で争うより、手を取り合う道を選んでいるというが、やはり違う部族だけあって、スパイ行為のようなことは行われているらしい。

 やはり、この世界でもそんな状態なんだなと俺はどこか安心し、変わらぬ現実に落胆もした。



「長、ここからはおしゃべり無しだ」


 俺とホンデノは村を出た。護衛は居ない。幾人か周辺に探索役の森の民が居るはずだが、あまり近すぎると熊が出て来ない可能性があるので、俺には見つけることは出来なかった。


 しばらくそのまま東へと進む。この辺りは周辺に畑が広がっているので見晴らしが良い。少し行くと川岸だ。そこは背丈ほどの草が茂っていて見晴らしが悪い。

 さらに進めば林に入っていく。最近、熊の痕跡が見つかっているのはここより北なのだが、そもそも、そちらに村や街道は無く、この東西の街道へ出るしか、人を襲う術はない。つまり、熊が欺瞞行動をとっているとホンデノは睨んでいた。


 ホンデノは普段と変わらない様子に見える。俺も外面上平静を装う。



 ふと、ホンデノの手が左を向いた。俺はスッと以前の様に弓をそちらへと向ける。


「もう少し、もうすこし、その辺だ」


 何事でもないようにホンデノがそう言う。まるで顔はそちらを向いていない。俺はワザとらしく周囲を見回す。


「居た。まるで狙えないが姿だけは見える」


 俺がそう言うと、打ち合わせ通りにホンデノも驚いたようにそちらを向き、見当違いに矢を放った。


 そして、二人して走り出した。正確にはホンデノが俺に合わせているんだが。


 熊を見るとゆっくり警戒しながらこちらへ近づいてきている。


 ホンデノは時折熊の方へと矢を放つが、まるで当たるような撃ち方ではない。そもそも、矢自体が森の民の矢を使っていない。村にあった狩猟用の矢だ。


 少し走って、ホンデノがまぐれの様に熊に当たる軌道へと矢を放った。


 見事に熊へと届いたが、当然、簡単に払い落とされた。更に、熊が近づいて来るので、ホンデノが矢を放つ。今度は熊の上方を飛んでいく。


 熊は上手く射線を避ける動きをし、ホンデノはそれに合わせる様にわざと矢を外していく。


「長、頼んだ」


 ホンデノの矢が付きかけた頃にそう声が掛かる。


 俺は自分の弓に戦矢を番えて熊の動きを追った。


 ホンデノは射線を避ける熊を幾度か確実に捉えて撃ちこんでいく。


 そうするうちに熊は誘われるように茂みから姿を現した。


 当然、俺はそれを逃さず熊を射る。


 熊は平然とそれを受け止めようとするが、当然だが、まるで矢の速度が違うので、受け止めることも払うことも出来ずに深々と肩に刺さった。


「グゥルゥ!!」


 なかなか矢が抜けずにイラついた熊にホンデノが放つ矢も刺さる。当然だが、まるで致命傷ではない。


 さらに苛立った熊がこちらへ突進しようとしたところへ、俺は2射目を撃ち込んだ。どうやらホンデノの連射で俺の矢が見えていなかったらしい。


「グ・・・・・・」


 熊が駆けだそうとしたところへ矢が飛んでいき、見事に喉元へと刺さった。熊は一瞬こちらをにらんだ気がした。

 そして、おもむろに立ち上がって威嚇しようとするところへ3射目を叩きこむ。


「長、アイツはもう死んでる」


 俺が4射目を射た時にホンデノがそう言った。


 4射目が刺さった熊は声も上げず、身じろぎすらしなかった。


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