64・とある国王の陰謀
「パーヤネン、ただいま戻りました」
辺境に派遣していたパーヤネンが戻ってきた。愚かな貴族共の騎士を連れてだ。
「先に報告は受けた。ウルホの願い通りに兵共は故郷へ還してやれ」
パーヤネンへ渡されたウルホの嘆願は先に王宮へと届けられており、既に決済も終わっている。
弟のやることに対して甘いと周りでは思われている事だろうが、あれだけの武力を持ちながら自在に制御できる力量には俺でさえ敵わないと思う。
たった1隻でウゴルの艦隊を引っ掻き回したかの高速船を呼び寄せ、御座船にしてしまう。かの伝説と言われる森の民の一族を完全に掌握している。山の民をわがものとして縁辺の発展に使役している。
どれをとっても常人には成し得ない事ばかりだ。
「陛下、いくら弟君の嘆願とは言え、そこまで寛容な措置を取る必要はありましょうや?」
パーヤネンを下がらせたのち、宰相が聞いて来た。
こいつにしてもそうだが、ウルホの事を外見だけで判断しているようだ。確かに女のような外見で、大した武威も無ければ、これまでの所業もある。見てくれだけの奴と見るのも無理はないのだが、俺はそう思っていない。
あの戦いの後に見たアイツはまるで別人だった。俺と対等に取引が出来るほどだ。
そして、山の民と森の民を侍らせてやって来たアイツも、宰相らの評価とは随分違う事を証明して見せた。
なるほど、戦をする気はない。しかし、乗ってきた船がアレでは威嚇どころではない。提案を拒否して待っているのはカルヤラの死だ。海運をすべて失えばさすがのわが国でもおしまいだ。
しかも、魅力的な食材をテーブルに乗せてきやがった。山の民と森の民の品々まである。
あれだけのモノを持ってきた奴に対して俺が出せる対価など無きに等しかった。本当に完敗だ。
敢えてやれることがあるとすれば、こちらの紐付きにすることだけ。忠臣アホカス家の姫を嫁がせて味方に引き込む。その程度の児戯しか残されていなかった。なんとも悲しい事だ。
「エロモよ、では、お主には何か案があったか?」
俺の問いに即答できる言葉が無いらしい。
それはそうだろう。相手は山の民や森の民を従えている。カルヤラの全兵力をもってしても敵うかどうかだ。いや、そんなことをすれば背後からウゴルにやられてお終いだな、我が国は。
「アウリの暴走を利用して残党共は処分できる。それで良いではないか」
「しかし、縁辺公にヘンナ殿を嫁がせたのでは、王位継承・・・」
「言うな。次の王位争いはどう足掻いてもウルホに分がある。そのことは我も承知よ。だが、それはカルヤラがあってこそだろう?」
俺はそう言って不敵に笑う。
今のカルヤラは表面的には平穏無事に見えるが、どうやらウゴルが東方で山の民を退け、半島を獲得したらしいとの知らせが入っている。
連中の事だ、次に狙うは肥沃で農業が盛んなカルヤラだろう。幸いに海と谷によって隔てられてはいるが、連中にとって少なくとも谷は障害とはならない。おかしな馬の乗り方が出来る連中の事だ、谷の砦を抜くのにそうそう時間はかかるまい。
「まさか、陛下はウゴルが攻めてくるとお考えで?」
「そうだが?アホカス家の領地は谷にもあったな。スッコゼロが抜かれた場合、クフモへ直接ウゴルが攻めあがる可能性もある」
俺はまたも不敵に笑った。
「ウゴルが攻めてくれば、ラガードにはパーヤネンを配する。ラガーの谷は抜けんだろう。ゼロの谷はアホカスの領域だ。抜かれればスッコゼロは目と鼻の先、クフモへも数日と言ったところか」
宰相は驚きというより呆れを顔に表しているようだ。
そうだろうな。俺は犠牲など大して気にしていない。それが血族であろうとだ。
「しかし陛下、アホカス家は王家にとって・・・」
「ウルホの縁者ぞ?」
出張らない訳にはいかんだろう。
「その場合、カルヤラ全土が公の軍勢の手に落ちる可能性すらございます!」
確かにそうだな。アホカスを口説き落とせばいつでもウルホは王位につけるだろう。
「それなら今すぐにも可能だ。オホトならば、ウルホの微笑み一つで落とせるかもしれんぞ?」
ヘンナの父は男女を問わないという噂がある。ならば、可能性が無いとは言えない。
「そ・それは・・・」
宰相も同意の様だな。
「心配するな。アイツはそこまで愚かではない」
そんな話をしてから数日、クフモからの知らせでウルホが複数の大熊を仕留めたとの知らせが入った。
「熊は全てで十数頭に上ったそうですが、少なくとも縁辺公おひとりで三頭を仕留めたとの話でございます」
なかなか痛快な話ではないか。森の民や山の民ならばともかく、カルヤラの騎士をしても一人で大熊を仕留めるのは難しい。近衛にもそれほどの技量となれば、隊長格の一握り、ヘンナならやれん事も無いかもしれんが、助勢が必要ではないだろうか。それをあの小柄でひ弱なウルホが一人でとは、面白い。
「嘘を申すな!」
宰相が怒鳴っているが、俺はそうは思わない。今や縁辺には見た事も無い機械がたくさんあるという。神盾があるんだ。神の弓があってもおかしくはなかろう。それを作らせるだけの力を持ちうるのはウルホくらいのモノだ。
対ウゴルの戦役にはぜひとも活躍してもらいたいものだな。
最近、多くの人が読んでくれているんだけど、ランキングにも載らないこの作品にどこからこれだけの人が来てくれてるんだろう?




