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6・あれって精神的な拷問だったのか

 俺は兵士たちと仲良くなり、彼らに間食を貰ったりしている。投獄生活だというのに非常にユルい。


「このジャムはおいしいな」


「そうだろ?こいつは自慢の一品だ。ちょっと遠いが、俺の郷でとれた野イチゴと蜂蜜を煮詰めて作るのさ」


 彼がどこの出身かは知らないが、ジャムはものすごくおいしい。元の世界にも負けないんじゃないだろうか。

 俺は貰ったジャムをクラッカー風の携行糧食ンビセンにのせて食べている。女っ気が無いからなのか俺は凄く人気者になってしまっている。もし、素の「僕」ならこうはなっていないだろう。なんせ、顔はともかくボンボンだから、周囲のうるさいオッサンどもと同じ状況だったと思う。


 毎日喚き散らしていた声が最近弱々しくなりだしたので聞いてみたら、手でものを食べないと頑固に食事を拒否する者が弱ってきているらしい。それとは真逆に、空腹に負けて食事をしている者については、何かに怯えているのか、オドオドするようになっているらしい。俺にはよく分からない感覚だったが、「僕」の記憶によると、そうなって当然らしい。貴族王族以外にフォークやナイフを食事で使うなと布告するような国だから、貴族のくせに手でものを食べたとなると差別の対象だ。面子や名誉を重んじる貴族なら他人に知られたくないんだろうな。


「食事中だったか、済まないな」


 その日現れたのは兄だった。


「どうしました?兄上」


 俺は何気なくそう聞き返したのだが、兄はどう答えたものか一瞬悩んでから口を開いた。


「お前は手で食う事を何とも思わないんだな。目の前に俺や貴族が居るというのに」


 何を言っているのかわからなかった。まあ、さすがに人前で一人だけ食ってるのは失礼かもしれんが、食事中に現れたのはあっちだ。


「何がでしょう?」


 そう言ってから思い出した。王族が手で食ってるのは面子や名誉の面でどうなのかと。しかし、今更どうでも良い様な気がする。なにせ、初日から兵士が食事中に見張っていたのだから、誰かに見られたところで平気なんだが。


「お前は仮にも王族だろう?それが手で食ってることに何も思わないのか?」


 俺は肩をすくめた。


「本来、手で千切って食べるべきパンを、切れないナイフで苦労して切る事に比べたら、造作もないですけどね」


 そう、あんなナイフでわざわざ王族用に焼かれた柔らかいパンを切るのは逆に苦労する。手で千切るなり食いつくなりした方がよほど食べやすいと、こちらでの数度の貴族との食事で考えていた。

 よくよく「僕」の記憶をたどると、この風習は僅か百年程度のものらしい。隣国からナイフやフォークの使い方。いわゆるテーブルマナーみたいなものが導入されたとき、時の王が何を思ったのか、テーブルマナーを権威としてしまい、ナイフやフォークを王族、貴族のモノとしたのだそうだ。余りにもバカげている。


「そうか、ならば、お前は王族でなくてもやっていけるようだな」


 そもそも「俺」は日本人だから窮屈な王族の振る舞いに嫌気がさしていた。勝ち組生活できないなら、どうなっても良かった。


「バカな負け戦に担ぎ出された後とあっては今更な話でしょう?」


 そう開き直って返事をすると、なぜだか兄は笑い出した。


「ハハハ、本当に頭を打って変わってしまったらしい」


 そう言って立ち去っていくのだから、一体何がしたかったのだろう?


 そう思って食事を再開したのち、近くから悲鳴が聞こえてきた。これは違うだの、何だのと酷く言い訳がましい声が聞こえて来たり、命乞いをするようなソレだった。食欲がなくなることこの上ない。

 次の日の朝、食事を持ってきた兵によると昨日からこの牢屋界隈は阿鼻叫喚だったそうだ。

 詳しく聞くと、昨日の兄の徘徊で食事を摂っていた者たちが急におかしくなっているそうだ。


「おい、嬢ちゃんは貴族が来たのになんともなかったのか?」


「僕は男だが?」


 しっかりそこは反論する。


「そうだったな。しっかし、手で食うなんざ、自ら貴族を辞める行為だし、それを他の貴族に見られたとあっちゃ、隣の奴みたいになるもんだがなぁ~」


 兵士は感心したようにそう言うが、


「そうは言うが、負けてここに居る時点で処刑か流刑だ、今更貴族ぶっても同じではないか?」


「そいつは違いねぇ」


 兵士もそう言って笑った。実際そうだと思う。


 それからどのくらい経ったろうか、兵士たちからこの牢屋界隈の収監貴族が牢から出されて王太子の前に引き出されたとかなんとかと聞いた。その後どうなったかは聞いていないが、きっと想像の通りだろう。

 いつしか砦攻めの喧騒も消えている。そして、とうとう俺が牢から出される番となった。


 兄の前に連れていかれた俺は、どんな処刑方法になるのかと暗澹たる気持ちだった。


「第三王子ウルホ、お前を担ぎ出した連中は尽く処刑、ないしは討ち取った。何か言うことは無いか?」


 これまでとは違い、兄は事務的にそう言うのだった。俺は無言を通した。何か言って下手に残酷な刑になるのは嫌だったからだ。


「何もないか。侯爵に唆されていたことは調べがついている。更に言えば、お前が投降した事でこれはただの反乱討伐であって、王族の争いではない。わかるな?」


 わかるな?と言われてもよく分からないのだが。


「ウルホは投降によって身の潔白を証明した。よって、このほどの問題について一切の罪は問わない」


 ん?なに、無罪?


「よって、刑に処しはしないが、国内を騒がせた責任は償う必要がある。そのため、縁辺領への転封を命じる」


 えんぺんってどこよ?


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