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59・新たな食のレパートリーが増えた

 捕虜引き渡しと移送がひと段落したころ、ようやく落ち着いて話をする機会を持てるようになった。


「カヤーニ、旧領を治めるだけのはずがかなり広大な範囲を任せてしまっているが、大丈夫か?」


 もともとカヤーニの領はクフモの街とその周辺の農村だけだった。しかし、春の騒動によって辺境北部が縁辺へと組み込まれたことによって騎士領という範囲を遥かに超え、一介の貴族領と変わらない広大な領域を統治してもらっている。


 もともと辺境北部の結節点であるクフモを領していただけあって、カヤーニには統治の才能はあったようで、貴族軍が攻めてきた以外に大きな混乱は起きていないらしい。


「はっ、現在のところ、公のご期待に沿えるよう粉骨砕身、励んでおりますが・・・」


 カヤーニの顔が曇って、云うべきかどうか悩んでいる様子だった。


「どうした?」


 俺が問うも、言いよどんでいる。


「公、貴族軍の進撃路が辺境北部の穀倉地帯だったため、多くの畑が被害を受け、現在の見積もりでは、今年のアマム収穫高は昨年の半分程度ではないかと見られております」


 そう言ってきたのはヘンナだった。


「人的被害についてはそれほど多くはありません。彼らは辺境北部を大公家に還す事を大義としており、我々への被害を念頭にアマムの穂切りは行ったものの、農民への被害は対抗したごく少数にとどまっているとのことです」


 なるほど、単に一度兵を出してクフモを落とした程度で事が終わるとは考えていなかったのか。

 結構、用意周到な話だ。そして、関与はしていないとはいえ、兄もこれは予想していたのではなかろうか?


「ねえ、ウルホ、これでも兄王を信じられる?」


 王国の動静を警戒している山の民を取りまとめるためにケッコイは未だクフモに居る。そして、辺境北部の状況を集約、分析するのも彼女たち森の民がもたらす情報を基にしている。


「信じるも何も、まだ時期的にはピッピを持ってきて播けば冬の食料には困らない」


 ケッコイはそう言う問題ではないという顔をしている。


「公、僭越ながら、わがクフモの民の多くが食しているのはアマムではございません。もちろん、ピヤパでもありません。シヤマムという湿地で育つモノです。アマムについてはその大半が年貢でしたので民の口には入る事はありません。アマムの収穫高が下がって困るのは我らのみなのです」


 カヤーニが言いにくそうにしていたのはそれが原因だったようだ。


 彼の説明によれは、アマムはあくまで大公の収入源であって、庶民の食料ではなかった。そのため、アマムが不作であろうと庶民が飢える事は無いらしい。


 そもそも、大公の収奪で、庶民がアマムを食えず、なんだかよく分からない作物を主食としているという事情があるようだ。


 そうなると、そのシヤマムというモノが気になる。


「そうか、民が飢える心配がないならそれでよい。それにだ、来る途中に燃える泥を見つけたのだが、アレを採取、加工すれば新しい燃料になるだろう。アマムの減収を補う収入源にもなろう。ところで、庶民が食すシヤマムはすぐにあるか?」


 俺がそう言うとカヤーニはホッとしている様だった。そんな重大事だったんだろうか?ただ、そのすぐ後にまた困った顔に戻った。


「公、シヤマムはアマムやピヤパの様な食味はありません。それどころか、煮ればドロドロとなり、炊けばグチャグチャになり、焼くこと適わず、粉にするのも大変な難物です。公が口にされるような食べ物ではございません」


 そう言って渋りだす。


「それで構わない。カヤーニもよく考えて見ろ、貴族がパンムやンビセンを食べるようになったのは何時の話だ?昨年までパンムやンビセンに手を出す貴族など居なかったではないか」


 俺がそう言うと、しぶしぶ納得したらしく、シヤマムの手配をしてくれるようだ。



 それからしばらくして小腹がすいた頃にそれは運ばれて来た。


「こちらがシヤマムにございます」


 そう言って出された皿には黒っぽいドロドロが注がれていた。原型が何かわからないほど煮込んだかのような状態だが、果たしてこれは何だろうか?見方によっては粥なのだが、ピッピの粥もここまでドロドロではなかった。


 スプーンで掬うとかなりとろみがあった。


 スプーンやフォークは庶民が使えない決まりがあったが、シヤマムを食べるスプーンはお椀という名目で見逃されていたらしい。確かに、それは柄杓の様なデザインで、スプーンとは程遠かったが。


 食べてみると、確かにあまり美味しくはなかった。


「これは調理前はどんな状態なんだ?」


 そう言うと、皿に入った穀粒が出てきたのだが、細長くて硬いソレは一見して長粒種のコメに思えた。


 そこで、水の量を減らして煮ればよいではないかとと言うと、それがそう簡単にはいかないという。


「水の量を減らしますと、今度はベチャベチャした状態となり、しばらく置いておけば硬くて食べることが出来なくなります。ンビセンの様にベチャベチャ状のモノを焼くと、1時間ほど放置したも同様、やはり硬くて食べられません」


 つまり、ドロドロにしないと食べられず、穀粒が硬いので製粉にも向かず、団子やパンムなどへの加工は難しいのだそうだ。


「ならば、蒸してみてはどうだ?」


 そう言うと、すでにやったそうだ。そして、蒸したものを食べるという事は可能だそうだが、如何せん、そのうち堅くなるので長時間置いておけないのだという。

 堅パンやンビセンのようにはいかないのだという。


 だが、蒸して放置するからダメなのではないかと、餅を作る要領で、蒸したシヤマムを搗いてみた。


 そうすると、やっぱり餅が出来上がり、しばらく放置すると硬くなった。


 やっぱりという顔をする面々をよそに、それを焼くと外はパリパリ、中はふんわりの焼き餅状に、ダシに入れると、雑煮に。


「これなら少なくとも冬場は保存がきく。食べたいときに焼けば良い。塩気や甘味と食べれば、よりおいしくなるだろう」


 俺の説明に皆が驚いていた。これまではンビセンの様に薄く焼いたから硬くなりすぎて食べるに適さないモノが出来上がっていたのではないかと思う。あるいは、ドロドロに溶かすことが悪かったのだろうか?


 その辺りはよく分からないが、これでまた一つ、レパートリーが増えた。これなら輸送の手間もかからない。フェン一食分とモチ3個を同価格としても良いのではないかと思う。多分、除湿さえすれば夏場もそれなりに保存できるんではないだろうか?と、期待している。 

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