58・利用されたのは確かだが、やっぱり兄は兄だった
それから2日、俺はクフモでカルヤラの先遣隊を待っていた。
先遣隊の人数から山の戦士が居れば十分だろうという事で増員はしていない。森の民には貴族軍の尋問を行ってもらい、兵と士官クラスを分離してもらった。
指揮官クラスの多くは既に「処分」された後なので、たいして居ないようだった。
そして、どこから来たのかもわかった。
皆、辺境近くを領する貴族の兵であることが分かったが、ヘンナによるとそれら貴族は大公派と呼ばれる勢力であるらしい。
先の戦役で俺を旗頭にした一派が反王派の最大勢力で、当時は王派に付いたのが大公派だったが、大公派はあくまで力関係で王派に組しただけで、手でものを食べるという改革には嫌悪感をもつ貴族たちであったという。
そして、本来ならば大公軍と共に縁辺を攻め滅ぼすという段取りだったらしいが、あまりにも事の成り行きが早すぎて動くに動けなかったらしい。
そんな時に俺がクフモへ向かう事を知ったのだという。
「ウルホ、こいつらと港の軍勢で挟み撃ちにする気だったんじゃない?そう考えるのが自然な気がするよ」
ケッコイはそう俺に言ってきたが、俺はそれが信じられなかった。
「兄はそこまで愚かではない。イアンバヌとケッコナを王宮に連れて行き、二人の素性も話している。もし、ここで挟み撃ちにして来たとして、森の民が出てこないと考える事は無いだろう」
そう言ったが、ケッコイは信用していないようだった。
そうこうしている間も先遣隊の情報が入って来ていた。
どうやら彼らは俺がいつ通ったかを二つの船着き場で聞き込みしながら向かっている様だ。
「連中はウルホの手勢を把握しているよ。本当に私たちが出張らなくて良いの?」
心配そうに聞いてくるので、いざという時には頼むと言っておいた。
もうすぐ先遣隊が見えて来るというので、ヘンナを連れて船着き場へと向かった。
そこにはルヤンペと山の戦士が完全武装で警戒している。
徐々に船が近づいてくるのが見えた。
「あれは、近衛の旗です」
ヘンナが船に掲げられた旗を確認してそう言ってくる。兄は最精鋭の近衛を派遣して来たらしいが、その意図はイマイチ分からない。
もう、相手の顔が分かろうかという頃、相手が名乗りを上げた。
「我は近衛第二騎士団、キミ・パーヤネンである!縁辺公にお目通り願いたい」
近衛第二騎士団?輪番制で宮殿を守備しているだけでなく、王宮外、果ては外敵との戦いに真っ先に投入される騎士団だ。
第一騎士団がもっぱら王宮と王都を守ることを第一にしているのに対し、王権と王の権威を守るのが第二騎士団と言われている。
そのため、容姿端麗な者は第一騎士団へ配属され、王都で人目につく様な任務を多く受け持ち、武勇に秀でたモノは第二騎士団へと配属され、その実力によって「敵」と対峙すると言われている。
だがまあ、何にでも例外というのは存在していて、王の身辺警護には第二騎士団の者が多い。ヘンナも第二騎士団だった。
色んな意味でイアンバヌやケッコナを相手に出来るだけの実力からすれば、頷けようというモノだが。
「公、パーヤネンは副団長です」
ヘンナがそう教えてくれた。
「我はヘンナ・コイヴィスト。公はここに居られる!」
ヘンナが相手に応じてそう宣言する。
「あい分かった。上陸の許可を願う」
という相手に対し、ヘンナが許可を出し、船が波止場へとやって来た。
いつ訓練したのだろう。山の戦士が一糸乱れぬ動きで波止場へ横一列に並び、ルヤンペともう一人が俺の前へと並ぶ。ヘンナもいつでも俺を庇えるように構えている。
その動きに一瞬身構えつつ、先ほど声を上げていたパーヤネンが桟橋へと降り立った。それに続く騎士たちも先ほどの山の戦士にも劣らない機敏な動きで付き従っている。
そして、ルヤンペたちの前に来るとパーヤネンを残し騎士は山の戦士の対面へと整列しする。
「戦役以来となります。殿下」
彼はそう言って跪いた。
「もう、殿下ではないぞ」
俺がそう言うと、パーヤネンは顔を上げて笑った。
「陛下の仰ったとおりですな。昔のウルホ殿下とはまるで別人のようです。縁辺公」
そして、いつの間にやらケッコイも俺の側に居た。
「ほう、やはり、森の民も従えておいでしたね。奥方ではないようですが?」
試すようにそう言ってくる。
「姉のケッコイだ。ケッコナン族の次代に当たる」
そう言うと、緩んだ顔を引き締めた。
「これは失礼いたしました」
その後、パーヤネンの語ったところによると、今回の騒動は兄がわざと大公派貴族に俺がクフモへ向かう事をそれとなく伝えたのだという。
「森の民が付いているので問題はないと陛下も仰りましたが、念のためとして我らが派遣された次第ですが、本当に必要が無かったようですな」
そう言ってため息をついている。
「ところで、パーヤネン副団長、単に挨拶に来ただけではありませんね?」
ヘンナがそう言うと頷いた。
「如何にも。貴族軍の捕虜を引渡していただきたい」
もともとの目的はそこにあったらしい。わざと踊らせた反乱分子の処分に使う証拠が欲しいというのが兄の言い分らしい。
「構わないが条件がある」
俺がそう言うと少し驚いている様だ。
「条件とは?」
「引き渡すのは士官以上、兵は領へ還せ」
何を言われるかと身構えたパーヤネンは俺の言葉を聞いて肩透かしを食らったようだ。何故か隣でケッコイも俺を見ている。
「その程度の事でしたら、我が権限でお受けいたします」
パーヤネンがそう言った後の実務はヘンナやケッコイが行ってくれた。
そして、主だった士官を早々に船に乗せてパーヤネンが帰って行く。拘束している迂回部隊はそのまま港町まで連れて行き、クフモで拘束している包囲軍の兵たちは船便で送ることとなった。
貴族軍侵攻事件の処理にめどがついた時に、何故ホッコが来なかったのかケッコイに聞いてみた。
「それは、冷静に行動するため。ホッコなら問答無用で皆殺しにしたかもしれないし、情勢次第では近衛すら危なかった。ウルホのことになると見境ないから」
確かに、カヤーニたちのときにそれは思った。
「ウルホも気を付けなよ。もし、ホッコがウルホに手を出したら、私もウルホの所に行く事になるから、さすがに一線は超えないと思うんだけど」
ものすごく色気のある笑顔でそんな事を言う。後ろからの視線が痛い。きっと、ヘンナが怖い顔して睨んでるんだろう。




