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54・クフモに向かう事にした

 ピッピの収穫を終え、本格的な夏が過ぎた頃、ようやくクフモへ向かうことが出来ることとなった。


 ナンションナーでは新たなピッピの種蒔きやピヤパの草取り、アピオの土寄せもひと段落付き、何とか動けるようになったので、人を募ってみたのだが、あまり集まらなかった。


「領主の視察なんだから、あまりここの住人が行くわけにはいかない」


 そう、ケッコナに言われたのだが、そんなものだろうか?俺としてはただの観光くらいにしか思っていなかったが。


「嬢ちゃん、仕方ねぇぞ。これまで違う領主が治めていた土地だろ?そんなところに行きたがるモノ好きはそんなに居ねぇ」


 そのモノ好きの一人はルヤンペだがな。


 人は集まらなかったが、カヤーニがうまくやっているか気になるので、ヘンナを連れて行くことにした。


「分かりました。お供いたします」


 もう、ずいぶん経つのにヘンナは堅苦しい。それに、義務の様に三日に一度は俺の寝室へとやって来る。仕事で疲れているだろうに、少しは休めばいいのにと思うが、聞き入れてくれない。


 今回はイアンバヌも付いて来ないというし、仕方がない。


「ウルホ、これを持って行った方が良い」


 屋敷を出ようとしたら、イアンバヌに弓と矢筒を渡された。ルヤンペ特製のコンパウンドボウと矢だ。硬質の矢じりを備えた矢なので、どんな鎧でも貫通する。


「戦矢ばかりか?」


 そう聞いたら真剣な顔をして頷かれてしまったが、意味がよく分からない。クフモ周辺には熊が多いのだろうか?


 不思議には思ったが、頷いてそれらを受け取り、港へと向かう。


「ヘンナ、何故鎧を着ているんだ?」


 そこにはヘンナがすでに待っていたのだが、なぜか鎧を着ている。


「カヤーニは配下ではありますが、現地は我らに従っている者ばかりとは限りません」


 騎士の凛々しい姿勢でそう言われたら違うとは言えなかった。


 そして、ルヤンペと20人ばかりの山の民の戦士も連れて行くことになった。


 カルヤラの都へ行くのとは違い、半島を回り込んで最奥へ至るため、それなりに時間がかかる船旅だったが、海が穏やかだったので何ともなく到着できた。

 当然だが、今回はあのナントカという高速船ではない。


「それほどにぎわっている様には見えないな」


 前方に港町が見ている。多分あれがムホスなんだろうが、数えるほどの帆船しか見えない。


「公、ムホスは辺境北都からの積出港なので、アマムの積出時期以外はあまり多くの船が停泊している事はありません」


 どうやら、この港町の目的は限られているという。


 そして、今はちょうどアマムの収穫前なので、目の前に見える倉庫街は殆ど空なんだろうと思う。これからここに収穫されたアマムが集まり、秋の終わりから初夏にかけて、冬の荒れる時期を覗いては、船がひっきりなしなんだという。


「ヘンナ、お前は僕の妻だ、公ではなく、ウルホと呼ぶように何度も言っている」


「今は公務です。私事ではウルホ殿下とお呼びしておりますが?」


 という返事が返ってきた。う~ん・・・


 仕事は出来るし、腕も立つからそれ以上は言わないが、どうしてこんなに堅いのだろう。


 そんな悩み事を抱えながら、船を降り、街へと降り立ったのだが、案内されたのは川船だった。


「ご視察、誠にありがとうございます。これより我らがご案内いたします」


 ヘンナの様にキリっと整った騎士たちがそう言って出迎えて船へと案内してくれた。


 一応、屋形船の様な感じで屋根や窓が付いていた。川なので帆で帆走する訳ではなく、竿で底を押して進むようだ。水夫が後ろに二人、前にも一人いて、三人で船を進めるらしい。


 川船に乗り換えてしばらくは同じような湿地帯が続いていた。


「確かに、これでは陸を行くより船が良いだろうな」


 それを見ながら俺がそう言う。川幅もそれなりにあって流れも穏やかなので河川交通には最適かもしれない。


 昼前にムホスを出て、船の上で簡単な食事を済ませ、ひたすら上流を目指す。


「クフモまではどのくらいだ?」


 案内役の騎士に聞いてみたら、3日は掛かるのだという。まさか、船中泊か?


 などと思っていたのだが、しばらくすると湿地を抜け、周りに森が現れだした。


 ずっと森の中を進むという訳ではなく、時折開けた草原や巨大な中洲島があったりするのだが、そこではどうやらアマムが栽培されているらしく、所々に集落や波止場が見える。


「牛を導入するほどの面積は無いが、馬に曳かせる円盤やロータリーはあったら便利だろう。ルヤンペ、船から波止場へ重量物を下ろす機械は作れないか?」


 俺は畑の状況や馬らしき動物が散見されるのを見てそう質問した。


「木で支柱を作って滑車を付ければ行けると思うぞ。道の確認やどこにどのくらい必要かを調べてからでないといけないから、作業に入るのは来年になるだろうな」


 という返事が返ってきた。確かに、重量物だとそうだろうな。


 そんなことをしていると早くも夕暮れ時が迫っているのだが、先ほどから目の前には小さな滝が見えているが、あの滝をどうやって登るのだろうか?


「縁辺公、今日はここまでとなります。この先の船着き場で降りて頂いて、丘の宿場でご休憩ください。明日の朝、上の船着き場に船をご用意いたします」


 案内の騎士がそう言って下船を促してきた。


 目の前にはそれなりの規模を持った船着き場がある。


 だが、こんな手間をかけていたのでは、河川交通としてあまり有利とも思えないのだが。


 その点を聞いてみたら、やはりそうらしい。以前、この周辺に坂を作ってインクラインにしようという計画も持ち上がったらしいが、重い穀物を積んだまま上げ下ろしをすることが出来そうにない事から中止となったらしい。

 もちろん、その代替案として運河を掘る案も出たそうだが、高低差による水流を考えればかなり長い迂回水路を必要とすることから断念されたらしい。


「なぜ、ここに水門を設けて運河を作らないんだ?」


 俺は説明をしてくれた騎士に問うたのだが、騎士は何を言われたのか分かっていなかった。

 そこで、閘門式運河の概要を説明したらびっくりしていた。


「そのような方法を思いつくとは、さすが縁辺公でございます」


 そう言って驚いていた。こまってヘンナを見たら、ヘンナも驚いていた。


「嬢ちゃん、そいつは良いや。だが、その水門を作るにゃあ、俺が居ないと無理だと思うぜ?」


 そう言って、水圧や水門の機構について細かな説明をしてくれたが、半分くらいしか分からなかった。


 そして、船着き場から丘へ登ると、そこには湖が広がっていた。


「なるほどな。これでは船を引き上げる坂を付けるのは狭すぎるな」


 構造的にインクラインを設置する余地が少なく、付帯設備を設けることは無理そうだった。だが、閘門式運河ならば、その限りではない。その地形を見て、ルヤンペもニヤリとしていた。


「縁辺公、明日、ここから発って、川を上ると同じような場所がもう一つございまして・・」


 騎士がそう説明してくれた。なるほど、閘門式運河を二か所に開設しなきゃならんのか・・・



 


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