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53・コンバインが出来ないので使える物を造ることにした

 コンバインが停滞している原因はその脱穀ドラムにある。


 俺の知っている脱穀というのは、そのルーツが千歯扱きや扱ぎ箸に由来するもので、その誕生の逸話は、あぜ道を自転車で走っていたら、スポークに絡まった稲穂から籾は飛び散ったというモノ。


 そこから回転する機械に稲穂を挿し込めば籾が脱穀できるのではないかと試行錯誤して、大正時代に生まれたのが、足踏み式脱穀機だった。

 そこに、唐箕の原理を応用して作られたのがハーベスター。


 日本でも戦後、農業の機械化のために欧米で普及していたコンバインを導入できないかという研究は成されていたのだけれど、欧米型のコンバインはタイヤ式だったので日本の水田にマッチしなかった。


 そして、脱穀性能にも満足できなかった。


 そうして生まれたのが、当時、脱穀を行うハーベスターと刈り取りを行うバインダーを組み合わせた、自脱型コンバインという機械だった。



 では、一体何がそんなに満足できなかったか?


 欧米のコンバインはそのルーツとなる脱穀方法が、棒で叩いて実を落とす方法からきている事にあった。


 欧米で主食とする麦というのは、食べるときに粉にしたり、消化をよくするために潰してしまう。そして、麦の殻は非常に硬いため、少々叩いたところで割れる事は無い。


 こうした事から、一粒一粒丁寧に穂から落とすような方法ではなく、敷物の上で棒を使って叩き落す事が主流だった。

 能率としても、扱ぎ箸を使うのはもちろん、千歯扱きよりも棒で叩く方が上だった。


 そうした文化の違いもあって、欧米のコンバインというのは脱穀ドラムに刈り取ったものをすべて放り込み、網に叩きつける様にして脱穀を行っている。


 これを行うと、殻が薄くて外れやすい米の場合、脱穀と同時に殻も外れて米自体を傷つけるという事が起こってしまう。

 さらに、麦に比べて穂から籾が落ちにくいために、実が付いたままの穂が残りやすくもなってしまう。日本のハーベスターや自脱型コンバインは、未脱穀を減らすために、穂だけをドラムに当て、スポークよろしく輪っか状の扱ぎ歯によって絡め取って脱穀している。


 この違いから、脱穀性能に違いが出ていた訳だ。


 さて、今現在、ナンションナーの作物を見ると、自脱型コンバインは必ずしも必要はない。汎用型で良い。

 しかし、駆動の負担を少なく、容易に製作しようと思えば、汎用型コンバインの制作のハードルは高い。


 ついでに言えば、ピッピはピヤパよりは落実性が低いので、棒で叩いたり板に叩きつけるのは、あまり効率が高くない。足踏み式脱穀機があれば便利。


 そこで、コンバインを作る前に、ハーベスターを作ることにした。


 と言っても、あまり凝った作りではない。唐箕の上に小型の脱穀ドラムを乗せてみただけだ。唐箕には揺動棚を設ける空間もないから仕方がない。


 ナンションナーには鍛冶技術もあるからギヤで回転増幅も出来るし、山の民は怪力だから、人力ハーベスターも出来ない事は無いと思う。けども、ファンを2個か3個設置するような構造とするのは、さすがに限界があると思った。なので、単に唐箕の上に脱穀ドラムを乗せている。


 構造はものすごく簡単。唐箕の投入口上に直径30cm程度の円筒を置き、その円筒にU字の針金を取り付けただけ。


「これを使えばピッピの脱穀も楽になるだろう」


 主要部以外は木製なので、これまでの唐箕に脱穀部を追加してみた。


 機械を見る皆はただ不思議に思っているだけだった。ので、山の民に動かしてもらって俺がまず実演することにした。


「こうやって囲いに開いた口からピッピを挿し込むと、実が取れて風で選り分けてくれる」


 得意になって俺がそう言ってやったのだが、実が出るはずの排出口からボロボロと茎までが落ちてきた。


「ウルホ、それ、使えない」


 作ってる間も隣で説明を聞いていたケッコナが脱力して俺にそう言ってくる。


 どうやら、受け網の設置は必須だったらしい。


「原因は分かった。作り直す」


 俺はそう言って製作に関わった大工や山の民と共に、機械をもってその場を後にした。



 必要な事は分かったので、鍛冶場から網を調達してきてドラムの下に設置した。


「これで問題なくなった」


 皆が叩いて実を落としているところに改良型を持ち込んだ。


 すでにピヤパ用に作った唐箕は選別に活躍している。


 今回も俺が実演としてピッピを脱穀口に差し込んだ。


 今度は綺麗に実だけが排出口から出てくる。


 気を良くしてどんどん脱穀していると、回していた山の民が重たくなったと訴えてきた。


「領主、さっきからかなり重たくなったぞ」


 重たいというのは中で詰まった可能性があるという事。


 ドラムのカバーを外してみると、ちぎれとんだ茎が網に溜まってしまっていた。


「茎が折れて網に溜まってしまったのか」


 俺が悩んでいると、ケッコナが優しく俺の肩に手を置いた。


「ウルホ、遊んでないで仕事しよう?」


 優しく微笑んでいるが、目が笑っていなかった。しかし、俺は解決策を知っている。


「大丈夫だ。扱ぎ歯はらせん状に並べてある。茎が溜まっているのも端の方だけだ。ここに穴を開けて受け袋を設ければ問題ない・・・」ハズだ。



 俺は大工に指示して唐箕の横に穴を開けて袋を置いた。


「これで問題ない」


 俺は脱穀を再開した。多少抵抗は受けているようだが、折れた茎は袋に落ちて行くモノが大半なので、問題なく脱穀を続けることが出来た。


「ドラムを円錐にして網も斜めにすれば効率も上がるかもしれん」


 今日の仕事を終えて大工や山の民と打ち合わせをしている俺を、ケッコナが呆れたような顔で見ていたが、気が付かないふりをした。



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