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51・帰ってきたらホッコがやって来た

 船脚が早いせいで、先触れの船がナンションナーの港に入る頃には俺たちも到着してしまった。まったく先触れの役割を果たしていないが、ここではそんな形式はどうでも良い。


「おう、嬢ちゃん、帰ったか」


 船が見えたことで主要メンバーが集まり、ルヤンペが真っ先に声を上げた。が、俺が連れている中に騎士が居る事に気が付いて首をひねっている。


「その騎士は誰なんだ?」


 まあ、そうなるな。先触れがまったく先触れになっていない訳だから。という事で、説明した。


「ほう、向こうで結婚式というのをやったのか。イアンバヌもカルヤラの文化に触れて来たんだな」


 そう言って笑っている。え?


 そう思って聞いてみたら、山の民には結婚式の様な習慣がないらしい。当人同士、或いは家同士の取り決めで双方が同意すればそれで良く、当人たちが神に誓いを立てるだけらしい。


 今更だが、ナンションナーにはカルヤラ式の礼拝所はあっても、山の民の礼拝所が無いな、そう言えば。


「俺たちが祈るのは山にある石台だけだ。東の連中は建物つくって石台代わりにしてるんだがな。ハルティの神さまはどこにでも行くから、アレで良いんだろう」


 と、まあ、おおらかと言うかなんというか。その信仰は日本のそれに近かった。


 そうやって出迎えを受けた後、俺の館へと向かい、カヤーニを呼んでもらった。



「カヤーニ、辺境北部をこのほど縁辺に編入することとなった。ついては、お前にそこを治めて欲しい」


 兄からもらった書状をカヤーニにも見せてそう言うと、彼は驚いてしばらく固まってしまった。



「・・・・・・公、それでよろしいのですか?私が裏切るという可能性もあります」


 カヤーニは言葉を選びながらそう言う。


「裏切ってどうする?お前の帰るクフモは今後、縁辺領となる」


 俺はカヤーニが何を言ってるのかわからなかった。俺の問いにどう答えたモノかもごもご言っているが、何を言っているのか分からない。そして、


「いえ、公の武と治を考えなかった私の間違いでした。裏切りはクフモの滅亡そのもの、今のは聞かなかった事にしていただきたく存じます」


 何だかよく分からないが、いきなりそう言って平身低頭してきた。


「それならよい。ところで、北部の主要港はどこにあったか?」


 辺境北部の領有を言い渡されたが、地理がよく分からない。辺境北部の中枢となるクフモは内陸の湖に面した街だったはずだ。そう、そこが大きな問題となる。


「はい、ムホスです。そこからクフモまでは船での通行が可能です」


 なるほど、内陸の湖まで船で行けるのであれば、大した問題はなさそうだ。


「公、ムホスの港からクフモまで船による荷運びは可能ですが、ムホスは周りが湿地のため、今以上の発展は難しいと思われます。我がクフモは森と湖に囲まれた土地でして、森の民との境界も近く、大規模な開墾は摩擦の元になると思われます」


 というのだった。が、モノは考えようだ。森があるのであれば、そこは牛を育てるにも適しているかもしれない。


「森の民については、こちらで考える。場合によっては牛を入れての開墾が可能になるかもしれん」


 そう言うと、カヤーニも明るい顔をした。


 もう、初夏を迎えているので今年中に新しい事を北部で行う事もままならないだろう。しかし、領地となるからには自分の目で見てみたいとも思った。


 さて、まずは辺境北部を領有した事をケッコナンへと伝えてもらったのだが、なぜかホッコがやって来た。


「おい、お前はウルホのなんだ?」


 来て早々、なぜかヘンナに因縁をつけている。


「ホッコ!」


 そして、コントの様にイアンバヌに叩かれた。


「コレがウルホの嫁だと?」


 事情を聴いてなお、ヘンナへの警戒を続けるホッコ。一体何がやりたいんだ?


 ヘンナは意外と行政手腕もあったようで、村の行政を手伝ってもらうことになった。思っていたような脳筋ではなかったのは意外だ。あ、しかし、どうにも俺のいう事は聞いてくれない。主に夜には。


「ウルホ、アレは本当に女なのか?」


 ホッコが俺にそんなことをきいて来るので頷いておいた。


「そうか、お前が言うならそうなんだろう・・・・・・」


 非常に悔しそうにしている。何故?


「ところで、ホッコ、どういった用で来たんだ?」


 ホッコの事だから俺の嫁を見に来たとかそういう事だとは思うが・・・・・・


「境界の地を手に入れたらしいな。あそこも、ここの様に切り拓くのか?」


 なんと、まともな用向きだったらしいことに驚いた。


「おいおい。驚く事ではないだろう。あの地をどうするかは俺たちにも関係してくるからな」


 確かにそうだ。とはいっても、今のところどこまでどうなるかは分からない。俺も書物で知識を知っているだけでしかないからだ。


「いきなり言われても分からないか。あの周辺はヒョウゲの郷から川一つ挟んで向こうというくらいの近さだ。海岸沿いは切り立った崖か湿地、もし、道を切り開くというなら、森になるが、さすがにそれは認められない」


 なぜか、そう真面目に言いながらどんどん近づいてくる。


「方法がないではないが」


 俺の顎に右手をかけてそう言う。


「その心配はない。ムホスの港からクフモへ船を使おうと思う。陸上は牛による交通を頼みたいが、引き受けてくれるか?」


 俺がそう言うと幾分がっかりしたような顔をする。顔が近いぞ。俺にそんな趣味は無いんだが、いつまでそうしてる気なんだ?後ろでイアンバヌが悪い笑顔で俺たちを見ている。


「ケッコイ」


 イアンバヌがそう言った瞬間。ホッコが俺から飛び退いて辺りを見回す。もちろん、ケッコイは来ていない。


「小株、お前・・・」


 恨めしそうにイアンバヌを見やるがそれ以上何もできないようだ。


「それで、どうするんだ?ウルホの頼みを聞くのか?」


 ものすごく悪い笑顔だ。


「ああ、馬車が通る道を切り拓かれるのに比べれば、我らが交易を担う方が良いだろう。境界の南にここの様に牛飼いを置いてくれるならだが」


 若干顔を引きつらせてそう言う。


「ウルホと居る時は本当に警戒が緩むね、大丈夫、ケッコイも知ってて見逃してるだけだから」


 イアンバヌがさらに畳みかけている様だ。


「そ・・そんな事は無いぞ。お・・男の友情というのはだな」


 非常にしどろもどろになるホッコ。


「クフモの開拓にも協力してもらいたい。ナンションナー同様、耕作と交易の双方の目的で構わないなら僕としては大歓迎だ」


 そう言うと、ホッコがいきなり俺の肩を抱き寄せる。


「ほら見ろ、俺たちはこういう関係だ」


 そう言って笑いだした横から、俺に向かって呆れた視線を向けるイアンバヌ。ん?一体、何がどうしてそんな視線を?




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