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50・イケメンに襲われた夜

 神殿というと荘厳でものすごく大きな建物を想像するのではないだろうか。


 しかし、カルヤラの宮殿内にある神殿は非常にこじんまりしている。小さな神社の社といった趣きだ。


「ケミの神をお祀りする洞窟は無いんだね」


 神殿を覗いたケッコナがそう言う。


「ハルティの神様をお祀りする石台も無いよ」


 イアンバヌもそう言う。


「神殿とはいっても、宮殿にあるから格式としてそう呼んでるだけで、ナンションナーの礼拝台と変わらない」


 俺はそう説明した。


 カルヤラの信仰は大枠では森の民や山の民と共に、カルヤラの位置するラッピ半島の神話に根差している。


 ハルティ大山脈やラッピ高原は冬は雪の埋もれる地域で、カルヤラでも雪が積もる。感覚的にはカルヤラで山陰地方あたりだろうか。


 ラッピ高原は北海道に近いかもしれない。ハルティ大山脈のガイナンやガイニはきっと沿海州だろう。


 ナンションナーも気候としては北海道や東北だろう。


 そんな地域なので、短い夏をいかに有効に使うか、そして、長く雪深い冬をいかに過ごすかといった事が神話のベースなんだと思う。


 ケミの神さまもカルヤラの神さまも花を咲かせる花咲かじいさんモドキの話だし、ハルティの神さまなんかは冬将軍に負けないために火の神さまだ。あ、鍛冶の神さまかもしれない。


 かも知れないというのも、太陽教では神様は一人、その神さまがすべてを作り、そして、世界のすべてを支配している考えの宗教を信じる側に「僕」は居たからだ。


 残念ながら、カルヤラではその宗教の通りには事が運ばない。


 太陽教はウゴルから伝わった宗教で、そもそもが四季もあいまいな温暖な地域で信仰されているものだからだ。


 その通りにやったのでは正直、寒くてやってられない。真冬の雪が積もる時期に夜中に礼拝台へ集まって祈りを捧げろとか正直、凍死しろというに等しい。


 常識的にそうなのだが、毛皮の防寒着を着用できる王族や大貴族には寒さよりも太陽教の新鮮味が優ったのだろう。

 ナイフ・フォークの独占と共に、太陽教も王族。貴族のモノだった。


 が、太陽教に従っていたのでは、カルヤラではまともに生活も出来ないし、そもそも、雪が残る時期から種まきをして、雪が降り始めてからも収穫をしないといけないとか、教義と環境がまるで合致していなかった。

 北部一帯などでは、変に太陽教にかぶれた貴族が農民に太陽教通りの農耕を強制して、凶作の挙句に餓死を頻発させるという事態にまで至っていた。


 まあ、昨年の戦争の原因の一つがソレな訳で、それを改革したのが兄だった。と言っても、本来のカルヤラの在り方に戻したともいえるわけだが・・・


 

 そもそも、俺たちが神殿を覗いた件の翌日には未だ何も行われていなかった。


 次の日から降臨祭のために洞窟代わりの祠や石台を用意して、複数の神官が神を下ろす儀式を行うことになる。

 降臨祭のときには神官しか神殿には入れないので、かがり火で照らされた建物を外から眺めるだけとなった。


「わざわざ何日もかけて神さまを呼ぶなんて、カルヤラは面倒な事をするね」


 イアンバヌが呆れたように言うが、仕方がない。


「それは、カルヤラが神さまを遠ざけてしまったからだ。外から太陽教を招き入れて、ラッピの神々を森へと追い出した。その結果が凶作と飢え、そして戦争。そんなことをやった我々の神殿には神さまも座りたくはないんだろう。たまに招かれる程度の気持ちしかないんだ」


 と、答えておいた。


 実際、カルヤラにおいては礼拝台や神殿に神さまが常にいるとは思われていない。太陽教を嫌ってラッピの森へ帰ったと信じられている。

 そのため、何か神さまにお願いするには、数日掛けて呼んで来るしかないとされる。


「じゃあ、ウルホはナンションナーを発展させたから、神さまに気に入られたって事になるのかな?」


 ケッコナがそう言う。


 なるほど。そう言う見方も出来るのかもしれない。


「どうだろうな。ナンションナーがもともとそう言う場所だっただけだと思うが」


 そう答えると、何も言わずに微笑んでいた。



 その次の日、ようやく式場の準備が整ったという連絡を受けた。


 イアンバヌが着るのは一応持ってきている山の民の民族衣装。白地に唐草模様を描いたような着物だった。


 ケッコナが着るのはいつもの緑とは違って赤や紅色をふんだんに使ったワンピースだった。


 ちなみに、ヘンナが着ているのは、カルヤラで貴族の女性が着るドレスというのかな?青や紫が使われている。


 

 森の民が普段着るのは目立たないうえに、その辺で簡単に手に入る染料を使って染められるという事で、緑色だった。

 たいして、赤や紅というのは花を摘んで集めないと作れない染料なので、例祭でしか着ない。

 一応、宮殿へ行くのでパーティーに備えて持ってきたようだ。


 山の民は基本的に無地の麻や革製の服を着ている。ただ、戦士であるイアンバヌは鎧の下に着る木綿の草木染のモノを着ていた。

 例祭などで着る唐草模様の着物というのは、それなりの身分のモノしか持っていないらしい。そして、柄の緻密さもその地位によって変わるという。

 

 イアンバヌは言わずと知れたガイナンの長の娘なので、その柄は非常に緻密だ。



 カルヤラの被服で青や紫が許されるのは、貴族でも上位の者に限られる。なんせ貴重なのだ。



 ちなみに、俺が着ることになったのは、どっかの国の迷彩服モドキで、白地に青、紫、水色がちりばめられている。しかも、普段着と違ってダボダボで、まるで平安貴族の服装みたいだ。動きにくくて仕方がない。


 さて、結婚式と銘打たれているが、参列者は非常に少ない。


 俺の式だからというのも多分にあるが、そもそも、神官と家族の中で一人か二人の見届け人が神への宣誓を見守るという、非常にシンプルな神事だった。


「ウルホ、済まないが披露宴も無しだ。理由はお前が一番よく知っているだろう」


 見届け人として出席した兄からそう言われた。


 当然だが、それは理解している。


 大多数にとって、ヘンナは縁辺への監督官として派遣されるという認識だし、縁辺の事情を知る者にとっては人質という認識だった。いや、以前の「僕」を知っているならば生贄かも知れない。ヘンナ自身も生贄の覚悟だったそうだから。

 そんな認識だから、披露宴などはカルヤラ王家として開ける訳もない。監察官の派遣は晴れやかな祭りではないし、人質や生贄を出す側が受け取り手を盛大に歓待したのでは、降伏に等しいのだから。



 その夜の事だった。ヘンナが俺の部屋へとやって来た。


「旦那様、今後、よろしくお願いいたします」


 そう平身低頭するので、そんな必要はないと伝え、イアンバヌやケッコナとの接し方についても話した。


「しかし、私は侯爵家の姫にすぎません。森の民や山の民の長の縁者とは格が違いすぎます。しかし、カルヤラ臣民としての使命を果たす所存でございます」


 そう言ってベッドへ押し倒されてしまった。


 何事かと駆け付けてきたイアンバヌとケッコナだったが、助けを求めたのだが、ヘンナの味方しかしてくれなかった。


「ウルホが襲われていたから、一緒に襲わないと損だと思った」


 翌日、帰りの船でイアンバヌに聞いたらそう言われた。


 なあ、何か間違ってると思わないか?


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