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43・ああ、貴族とはこういう奴らだったな

 側近を降伏させ、森の民の監視があることを念押しに脅してから、俺たちも帰路についた。


「戦わずに済んでよかった」


 俺がそう言うと、イアンバヌは不満そうだった。


「全滅させればよかったのに。連れ帰っても手間が増えるだけだよ」


 確かにそうかもしれないが、不必要に殺す必要も無いと思う。


「兄が来るというのだから、連れ帰って貰えばいいだろう」


 そう言うと、何やら呆れている様だった。



 だが、それ以上何も言われることなく、ナンションナーへと帰り着いた。


 側近の話によると、騎馬隊がナンションナーを奇襲し、俺を捕らえた頃に兄が来ることになっているらしい。

 騎馬隊が到着するにはまだ時間があるので、その間にガイナンカからやってきている船には退避してもらう事にした。


 ガイナンカの船乗りたちはせっかくの港を荒らす奴は海の藻屑にしてやると怒っていたが、とりあえずは穏便に事を運ぶことを伝えて、納得してもらっている。もし、話がこじれたら、ガイナンカから船団率いてカルヤラへ攻め入りかねないが、そうならないように祈りたい。


「嬢ちゃんはガイナンカの船乗りどもにも人気だからな。ナンションナーへ攻め込むバカが居たら、返り討ちにされるだろうな」


 ルヤンペがその話を聞いてそんな風に笑っていた。


 確かに俺は女っぽいが、なぜそこまで人気があるのかよく分からない。あまり考えたくなかったので考えないことにしておこう。


 ナンションナーでは大公軍の侵攻など全く意に介さずにアピオの植え付け準備が進んでいる。ピッピやピヤパの畑の除草作業もそろそろ始めないといけない。


 そして、乾燥フェンで味を占めたのか、ダシに使う野菜の生産にも力が入っているのはうれしい事の様な悲しい事の様な・・・・・・



 そんなことをしていると、騎馬隊が到着した。そして、彼らは当然のように驚いている。


「ここが、あの縁辺か?」


 それもそうだ、彼らの知っている縁辺は寂れた片田舎でしかない。しかし、今のナンションナーは廃墟が解体され、新しい建物が立ち並び、ガイナンカとの交易で栄えているので活気がある。

 さらには、ただの草原でしかなかった平原が開墾され、広大な畑まで広がっている。すこし遠くを見れば、すでに水路沿いには水車小屋が立ち、その周囲にもいく棟かの建物が見える。それらはすべて鍛冶場の工房であり、他にも多くの建物が建設中だ。


 騎馬隊は信じられないという顔であたりを見ている。


 そして、ナンションナーの村の周りには、イアンバヌが手配した山の戦士が歩哨に立っており、騎馬隊を威圧していた。


「よく来た。カヤーニ」


 彼は兄の側近で、アキ・カヤーニという。たしか、騎士団長ではなかっただろうか。


「縁辺公・・・」


 彼は何とも言えない顔で俺を見た。


「公がなぜあそこまで自信を持っているのか、ここを見てわかりました。それに、これだけ山の戦士が居たのでは、奇襲も成功しなかったでしょう」


 彼らは手持ちの食料も乏しく、輜重隊を失ったことで、ここまで森の民から食糧を貰いながらやって来た。


「わかれば良い。ところで、フェンは食べたか?」


 俺がそう言うと、ポカンとしていたが、何のことか思い至ったらしい。


「はい。頂きました。太い糸の様な変わったものだと思いましたが、食べるとおいしいですね。ただ、棒二本で食べるというのは難しいですな」



 そら、いきなり箸を使えと言われても無理があるだろうな。その割には、森の民もナンションナーの住民も、何の違和感もなく食っていたが、アレか。元々フォークやスプーンを使わないから気にしてなかったのかもしれないな。


「チェという道具だそうだが、慣れるとフォークやスプーンより使い勝手は良いぞ?」


 俺がそう言うと、アレが道具だとは思っていなかったらしく、驚いていた。

 ただ、そうだな。そうめんやソバという感覚だった俺からすると違和感が無いが、カルヤラだとパスタと考えた方が良いのかも逸れない。ん?パスタってカルヤラには無かった気がするが・・・・・・


「そうだ、フォークで食べやすい方法を思いついたから、出来たら食わせてやろう」


 捕虜として牢屋行きだと思っていたカヤーニは驚きを隠せないようだ。


「あの、公。私どもは牢屋行きではないので?」


 そう言ってくるから、俺が驚いてしまった。


「いや、兄が来たらお前たちにも帰ってもらうつもりだ、剣を我々に向けない限り、山の戦士も森の民もお前たちには危害を加えない。少々狭いがお前たちの部屋は用意している。そこで休むと良い」


 あっけにとられた騎馬隊の面々はしばらく固まっていたが、カヤーニが復帰して指示を出すと、ゾロゾロ山の戦士の案内で彼らに用意した長屋へと向かった。


 輜重隊はというと、すでに農作業に参加しているものが居る。帰ってもどうなるか分からないので、ここで住みたいと言い出す者まで居る始末だった。



 そして、何とかスープパスタっぽいものがモノになって、カヤーニに振舞った次の日、兄が現れた。



 海にはカルヤラ船が多数浮かんでいた。そして、小舟が船着き場へとやって来たので、カヤーニら騎馬隊幹部が出迎えに行った。


「カヤーニ閣下、首尾は如何でしょうか」


 小舟の乗組員がそう言うので、カヤーニは、奇襲成功と伝えた。


 すると、小舟から手信号が船団へと送られ、多数の小舟が続々とやって来る。


 カヤーニには、俺を捕らえているのですぐに兄を呼ぶようにと言わせている。


 それを信じた兄が率先して上陸してきた。それを港の見張り台から見ていたのだが、隣でケッコナが呆れていた。


「ねえ、山の民がたくさんいる村をたった200人で襲撃して、何の破壊もなく攻め落としたとか、普通は信じないと思うんだけど?」


 森の民の感覚ならそうなんだろう。しかし、カルヤラではそうでもない。特に、兄にとって山の民はただの小人程度の認識しかない筈だ。


「そうでもない。カルヤラ北部では、森の民は強いが、山の民はそんな事はないひ弱な小人で、いつも穴の中で暮らしているという伝承が広く信じられているらしい。ウゴルと山の民が激しく戦っている話も、ウゴルがカルヤラより数段劣る弱小部族だからという認識だ」


 そういうと、肩をすくめている。そりゃあそうだろう。本来、フォークやスプーンだって対岸のウゴルから輸入したに過ぎないのに、カルヤラ貴族は昔から自分たちが持っていた文化の様に誇っている。そりゃあ、ウゴルは肉を手で持って食う事の多い集団ではあるが、それは少し前のカルヤラだって変わらない。それを変えたのは、「貴族は手でものを食うべからず」という法律のおかげだ。

 その法律から、カルヤラ貴族の考えは飛躍して、「フォークやスプーンを常に使わない奴らは劣等民」という考えが固着した。

 そうすると、周り全てを見下すようになるまでにそう時間はかからない。結果、自ら交戦する森の民以外を全く警戒せずに見下すようになったという簡単なお話だ。


「そうすると、あの大公という人物って・・・・・・」


 ケッコナは察しが良い。


「見て居ればわかるよ」



 そう言うと、俺は騎士と山の戦士を従えて兄の元へと向かった。イアンバヌとケッコナは連れて行かないことにしたが、ホッコが付いて来た。


「ほう、下衆が綺麗な着物を着ているではないか。手で食うお前がそんなきれいな着物を着ていてどうする?」


 俺を見た第一声がこれだ。よく、王派に付いたよな、この考え方で。


「兄上、何か勘違いしていないか?私もあなたも同じ大公。立場は同じではなかったか?それなのに、その言い方はどうした事だ」


 俺がそう言うと、さらに蔑んだ目で見てきた。


「同じ立場だ?はぁ??お前はただの流刑者。俺は辺境を預かる大公だ。何処が同じだというのか」


 やはり話にならないらしい。


「ならば、これが目に入らないか?」


 俺は王印のある書類を兄に見せた。アレだ。不可侵の誓詞だ。


「フン。王か。アレもわが弟ではないか。縁辺は我が管理していた場所。そこへ無断でお前を放り込んだに過ぎない。わが辺境領なしには王都など立ち行かないのだ。バカなお前と違って、俺は裏から国を牛耳るから、王の座はサンポに座らせているだけだ」


 なるほど、トンデモナイ奴だったんだな。王都での評判は良かったんだが、アレは見せかけだったと。


「なるほど。王命にすら従えないなら、兄と言えど、切って捨てても良いんだが?」


 そう挑発すると、付き従っていた騎士が剣に手をかけた状態で倒れた。


「誰に剣を向けようとしたんだ?おっと。死人に質問しても仕方ないな」


 白々しくホッコが言う。矢が貫通している騎士の遺体を見て、兄は唖然とした顔をしている。


「兄上、森の民相手にまだやるというのであれば、受けて立つ」


 俺がそう言うと、顔を真っ赤にしてこちらを睨んできた。


「この女顔が!その森の民をたぶらかしたな!クソ!!」


 いや、ホッコが勝手に勘違いしただけだ。俺は何もしてないぞ。


「ハァ?馬鹿かお前。男に色目使われてなびく奴がどこに居る。そんな妄想吐く暇があったら、ここで的になるか尻尾播いて帰るか選べよ」


 バカは俺のすぐ隣に居る。女と勘違いして勝手になびいた馬鹿が。シレっと何言ってんだろうか、このバカは。


「お、覚えていろ!今度来るときはサンポの勅令付きでお前を叩き潰してやる」


 まるで大阪のおっちゃんの捨て台詞を吐いて逃走して行きたがった。


 ちなみに、カヤーニは帰れなくなったと俺に仕官してきた。間に合ってるんだが、拒否しても行き場が無いので、村で野良作業をすることを前提に受け入れた。輜重隊の多くと騎馬隊の半数も帰ることなくカヤーニに従った結果、ナンションナーの人口がまた増えてしまった。


 

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