39・コンパウンドボウを作って貰ったが、さすがに凶悪すぎると思う
生産に消費が追い付かないかと思った乾麺作りだが、味を覚えた人たちが材料の限り製作に参加してくれたこともあって備蓄用の乾麺が確保できた。
ナンションナーではまだ多少流氷が残ってはいるが、そろそろ海へ出ることも出来る様になった。そして、吹雪の様な雪が降る事も無くなり、ガイナンとの往来も再開した。
「嬢ちゃん、作って来たぜ」
そうこうしているとルヤンペがやって来た。これからとうとう製鉄関連の工房建設が始まる。高炉や板金にするための工房がいくつか立ち並ぶ予定だ。
彼は山が白くなってもしばらく残って下準備をしていたが、いよいよ危ないという頃に帰って行ったのだった。
そして、今彼が手にしているのは、秋に頼んでおいた新型の弓だ。森の民の怪力を見せつけられたイアンバヌが少々落ち込んでいたので、その解決策としてコンパウンドボウを作れないか相談していた。
あれは森の民との交渉を終えてナンションナーに帰って来た時の事だった。
「ルヤンペ、頼みがあるんだが」
俺がルヤンペを見つけてそう切り出すと、いつものように引き受けてくれるという。しかし・・・
「う~ん、弓を作れと言っても、俺は鍛冶師だ。弓ってのは木で作るんだが、嬢ちゃんは知らないのか?」
と、至極常識的な事を問われた。
そう、弓というのは普通は木で作る。日本だとそこに竹を貼り合わせたりするし、トルコ弓と言って、中東の一部では木を芯にしてそこに動物の腱や骨を貼り合わせて張力を増しているものがある。
こうした弓を合成弓と呼ぶんだが、これはものすごく技術が必要になる。森の民の弓も当然、この合成弓だ。
そしてもう一つ、弓には長弓と短弓がある。当然、長弓の方が長く重い矢を用いて威力がある。短い矢だと軽くて威力も低くなる。
ただ、弓の張力さえ高めたら短弓でも当然ながら威力は出るのだが、扱いづらくなるのは容易に想像できるだろう。
山の民は本来、怪力の持ち主なので張力の強い短弓が扱える。そのため、普通の戦士ならば何の問題もないのだが、イアンバヌは山の民と森の民のハーフとして生まれている。
そこに大きな問題があった。
山の民の血を引く事で身長は低くなってしまっている。そして、森の民は山の民のような不自然な筋肉の付き方をしない。イアンバヌもその性質を引き継いでいる。
そう、双方の悪いとこどりをしてしまっている訳だ。そうは言っても、身長が低くてムキムキという山の民にありがちなスタイルだと、俺は引くよ。均等の取れたスポーツ選手みたいなスタイルだから良いのであって・・・
そして、その身長の低さが長弓を扱えないデメリットに繋がっている。
解決法が無くはないが、この世界に、少なくとも大ハルティ半島周辺には和弓のような長弓が存在しないため、イアンバヌの身長では長弓を扱うことが出来ないし、いくら鍛えても筋肉の付き方が森の民だから、山の民の短弓を扱うのは難しい。
さらに言えば、山の民には合成弓を作る技術が無いので、単一の木の材質に頼った弓しかなく、モンゴル弓や和弓のような形状にして張力を上げることが出来ない。クソぶっとい木を無理やりしならせる山の民の弓がイアンバヌに引ける訳はなく、どうしても、弱い弓しか持てない訳だ。アレは俺でも引けたしな。
「本来、弓は木で作ることは知っている。森の民は幾種類かの木を貼り合わせているそうだが、山の民にはその技術が無いし、僕も知らない。だから、木ではなく、あの軽い盾に使われている鉄を持ち手にして、こんな弓が作れないか?」
そう言って、俺はコンパウンドボウを描いて見せた。
コンパウンドボウは1966年にアメリカで発明された弓で、弓の両端に滑車が取り付けられていて、それがカム状になっている。
矢を番える弦のある滑車と、弓を上下でつなぐワイヤーが掛かった滑車があって、弦を引くと、滑車がワイヤーを巻いて弓を引き絞る様に動く。
大きな弦滑車と小さなワイヤー滑車がセットになっているので、小さな力でワイヤー滑車が動いてくれる。
さらに、カム形状になっているので、てこの原理も働いて、引く力をさらに軽くしてくれる。
何で知ってるかって?ネットで、異世界で使える現代チートとして紹介されていたからさ。
それで実際に調べてみたら、本当にすごかった。映画やゲームでも活躍してるし、世界的にも普及してる弓らしいね。
そこで紹介されてたコンパウンドボウは75ポンドらしい。㎏でいうと約34㎏。なんだと思うだろうけど、俺が学生時代に使っていたのが22㎏、一般的に20~25㎏ていどの弓が弓道で使われていた。
そして、まず初めに触るのが14㎏、一般的な女性用が16~18㎏だったと思う。かなり昔の話だが。
それを考えると、かなり強い弓だと分かると思う。ただ、この75ポンド弓は、実際には半分程度の力で引けるとかで、34㎏なのに20㎏かそれ以下の力で良い。
しかも、てこの原理で引き絞った状態が一番軽いので、安定して狙えると言うんだから、どれだけ良いか。
図を書いて仕組みを説明したらルヤンペがうなっていた。
「あの鉄を使うのか。しかし、アレは反発力が無いぞ?」
そう言う。そりゃあそうだろう。バネ鋼じゃないんだから。
「あくまで持ち手をあの鉄で、滑車を付けるしなる部分は反発力のある鉄や木を使って作れないだろうか」
そう言うと、図を見ながらどこがどうでと何やらつぶやいていた。
「出来る保証はないが、今までにない面白そうな道具だ。試してみる」
そう言って帰ったのだった。
今目の前にあるのは、確かに記憶にあるコンパウンドボウに見えなくもない。どちらかというと普通のアーチェリー用の弓に滑車を付けた感じだが。
「持ち手は盾材よりさらに軽くて硬い奴にした。しなりを鉄で出すのはさすがに無理があってな、木を使って補強に鉄で挟んでる。軽く作るのに苦労したぞ」
そう言って説明してくれた。持ち手が鈍く光ってるが、これ、鉄の色じゃないだろう。アルミでもない。
「この、持ち手の鉄は何を使ってるんだ?」
聞いてみると、なぜかふんぞり返っている。
「そいつはな、北の海岸沿いでとれる奴なんだが、ガイニの焼き石炉でさえなかなか純度が上がらなかった特殊な鉄さ。普通の鉄より溶ける温度も高くて、なかなか集めることが難しい。が、硬さは他のどんな鉄よりも出る上に、ものすごく軽い。だが、ほんの少し火加減を間違うとただの脆いくず鉄になっちまう」
う~ん、それ、鉄じゃなくてチタンとかマグネシウムなんじゃないのかな?
「そうだろうな、何言ってるか分らんだろう。こいつは普通の鉄とは違う。軽鉄と名付けた。扱いが難しいから、ガイニの専用炉以外じゃ作れないぞ」
なるほど、神盾も目じゃない逸品が出来そうじゃないか。
受け取るとズシリと重さを感じたが、大きさの割には軽い。3㎏あたりだろうか?
「普通の弓より重いな」
感じたままを言う。
「重量はあるが、引いてみろ」
そう言われたので引いてみた。
引き始めは重さを感じたが、引いていくと徐々に軽くなり、引ききる頃には非常に軽くなっていた。
「軽そうに引いてるな。そいつに滑車を付けずに引くと、俺でも引くのに苦労するぞ」
そう言っていた。
イアンバヌを呼んで、試し撃ちをすることになった。
少し練習すると、次々的を射抜いていた。
「これ凄い!ありがとう!!」
そう喜んでくれた。
「そいつはよかった。この弓は壊れやすいから気を付けろ。それと、軽鉄使ってるのと、滑車の量産は難しいから嬢ちゃんとイアンバヌの分しかない。一品ものだ。量産は出来ねぇ」
ルヤンペは申し訳なさそうにそう言う。
「量産はしなくていい。この威力の弓がこんな簡単に扱えるなんてさすがに脅威だ」
実際、的に使っているのは木や紙ではない。神盾だ。矢も戦矢を使っている。これが狩猟用だと飛距離は格段に伸びるという。
後で狩猟用の矢を撃ってみたが、ホッコが自慢していた距離を飛ばすことが出来てしまった。
「そう言ってくれるならありがたい」
ルヤンペはなんだか安心していた。
この話だけは2か月ほど前からできてたんですよ。ホッコの弓の時点でね。
あれの元ネタはコンパウンドボウの動画です。実際に矢が鹿を貫通する動画を見て、ああなりました。
ほぼ同時にこの話も出来ていたのだけど、材料の面でナンションナーでは作れなさそうなので、今までお蔵入りしておりました。
お蔵入りしていた結果、「異世界行ったら遊び倒したい」を書くという暴挙へと至ったわけですがね。




