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37・ピッピ栽培を委託された代わりに牛がさらにやって来るらしい

 時間は少し遡る。


 犂による耕起が始まって二日が過ぎた日の事、ここ数日、牛便と共にケッコナンへと帰っていたケッコナが畑を耕している牛を見て驚きの声を上げた。


 ケッコナが出発した時にはまだ犂は完成していなかったからな。


「ウルホ、あれは何?牛が引っ張るだけで土を耕してる」


 俺を見つけてやって来た第一声がそれだった。


「ケッコナ、お帰り。あれは犂と言って、畑を耕す道具だ。鍬と違ってものすごく速く畑を耕すことが出来る」


 感嘆の声を上げながらそれを見ていたケッコナだったが、思い出したように牛便の報告をしてきた。


「そうだった。牛便で石炭を持ち帰ったら好評だったよ。定期的な購入を考えたいって。あと、ここに新しい工房が出来るなら、矢じりの供給も増やしたいって。ウルホには悪いけど、どうやら大公領の動きが怪しいから来年の夏には戦があるかも知れないって言われたよ」


 そう言えば、森の民とカルヤラは対立してるんだったか。そんなご時世だけど、ナンションナーはいつも不介入だったようだ。それもそうだろう、寂れた村で騎士団も軍団も配置されていないのだから、戦いに参加しようがない。それに、一応は独立した領とみなされていたので王家以外の関与も受けてはいない。なので、カルヤラからの商船団が年に数度、官報を持ってくる程度の繋がりしかなく、戦争が終わったころに戦争の事実を知るような状態しか存在しない。そのため、森の民への関与は殆ど無く、山の民と日常的な交易がおこなわれているという状態だった。


「大公は歳の離れた兄だが、まさか、兄とケッコナの一族が戦うのか?」


 俺が居ることでここが戦場になるというなら考え物だ。一応、大公とは直接の関係は無いのだが、下手をしたらもう一度ケッコナンへ行く事になるのかと考えてしまう。


「それは無いよ。大公領と接しているのは南のオゴッツォとテンマイだから、彼らが戦うことになる。ケッコナンは彼ら用の矢を作るんだよ」


 地理について聞いてみると、大公の辺境領と海側のオゴッツォ族、内陸のテンマイ族が接しているらしい。ケッコナン族の活動域はその二部族の後ろに、かの街道の行き先だったテンゴという街を拠点とするテンゴゲナ族が居るらしい。

 カルヤラではラッピ高原と呼んでいる森の民の領域の支配図が何となくわかった。

 ラッピ高原北東部に居るのがケッコナン族。山の民と接し、縁辺領とも接している。その南にはテンゴゲナ族が居り、さらにカルヤラの辺境領都ラッピの北にオゴッツォ族、辺境領西方にテンマイ族といった配置の様だ。


 ただ、森の民はその名の通り森を生活圏としているため、海沿いの一キロ程度の幅で辺境領から縁辺まで続く断崖と草原の広がる部分にはほとんど姿を見せないので、辺境領からケッコナン族の活動域やナンションナーへ直接来れない事はないらしい。街道でも話が出た海岸道を使えばだが、馬が何とか通れる程度の道しか整備されていないので、あまり実用的ではない。これを本格的に整備して、一部森を切り拓いて縁辺へという計画を兄が作った時には大騒動だったと、王宮で読んだ資料にはあった。


「もしかしたら、また、街道整備をやると言い出してるのかもしれないな。ナンションナーの発展で、大きく迂回が必要で、嵐の危険が伴う船便よりも、直通街道の方が便利と考えたのかもしれない」


 それにはケッコナも同意のようだった。


「それかも知れないね。使者がウルホを訪ねて来たことも、街道の話がしたかったのかもしれないよ?」


 それはあり得る。兄王との不干渉、不可侵の誓約がある俺に街道整備の許諾を取りに来た。そして、会えない俺から剣や槍を得たことで、それを同意の証と解釈してそのまま帰ったなんて可能性が大いに考えられる。電話もテレビもない時代だから、使者が巧い事誤魔化せば、許諾を取れたと言われて否定する材料はない。



「そうだとすると困ったな」


 困った俺をニコニコ見るケッコナ。


「大丈夫だよ。イアンバヌとお付きの戦士が居るから王国の意向に沿えなかったって事にすれば良いじゃない。王国の騎士や軍団が来ても、あの30人なら500人くらいあっという間に片づけちゃうから。それに、ホッコも来るんじゃないかな?ホッコの弓隊が来れば、1000人の軍団いてもあっという間に串刺しだよ。ウルホは何も心配しなくて大丈夫」


 その太鼓判が怖いよ。何だよその過剰気味の戦闘力は。


「ところで、あの牛、話してる間にあんなに耕してるけど?」


 そして振出しに戻った。


「犂というのは耕すのが早いんだ、雪が降る前にはすべての畑を耕せるんじゃないかな。来年の春は新しい畑を開墾できると思う」


 そう言うと、ものすごい勢いでケッコナがこっちを見る。


「それなら、ここでピッピを作ってくれないかな。私、あのピッピのフェンが毎日食べたい。ウルホが持ち帰ったピッピの5倍くらい。あのスキで耕すなら出来るんじゃない?」


 ああ、ソバっぽい麺がまた食べたいんだ。確かに、粥より麺が良いよね。いくらか余分に粉を挽いたから、ケッコナンへ持ち帰れば向こうで作ることも出来るだろうし、そうなると・・・

 それに、ピッピ栽培を本格的に行えばケッコナンとの交易品も出来る。悪い話ではない。


「春には犂も増やせるだろうから、出来なくはない。ただ、そのためには追加で牛を貸してほしい」


 そう言うと、ケッコナはその日のうちにピッピと繋ぎに使うアピオをもってケッコナンへととんぼ返りした。



 それから7日後、ホッコとケッコイを伴って帰ってきた。


「あれ?もう耕し終わったの?」


 ケッコナが帰って来るなり俺にそう言った。


「2基めの犂が出来たから、10日で耕し終えた」


 そう言うと、目を輝かせてホッコとケッコイを見ている。


「ケッコナから聞いたんだけど、ピッピの栽培を請け負ってくれるらしいね。あのピッピを食べた連中はみんな、ここでの栽培に賛成してるよ。でも、持ち帰った量の5倍なんて本当に構わないのか?」


 ケッコイが念を押すように聞いてくるので頷いた。


「ピヤパやアピオと種まきや収穫時期がずれているから問題はない。ただし、畑を新たに開墾しないと場所を確保できないから、牛を更に貸してほしいのと、少し人手も欲しい」


 そう言うと、ホッコが寄ってきて肩に手を回す。何でだよ。


「任せな。俺とウルホの仲じゃないか」


 そんなもんは知らんし、ケッコイが蔑んだ目で見てるぞ。とは言え、この二人が可能だというのだから可能なんだろう。なにせ、ホッコとケッコイはケッコナンの次代リーダーらしいからな。


「そう言えば、ケッコナに手を出してないらしいが、分からないのなら俺が直接ウルホの体に教えてやるぞ?」


 ホッコが耳元でそんなことを囁く。要らんわ、キモいんだよ。


 嫌がる俺を見てニヤつく顔を見ると、わざとやっているのかも知れない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 地図 地図を載せてほしい  位置関係を言葉で現されても 見当もつきません
[一言] 冒頭のケッコナンへ帰っていたのはケッコイじゃなく妹のケッコナじゃなかろうか・・・
[一言] うしびんが うしべんとか うしふんに 見えて戸惑う…
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