36・さすがに山の民がチートすぎはしないだろうか
双方反転に時間がかかるだろうと考えていたのだが、ミケエムシはあっという間に改造してしまった。
「ここは堆積地だから土質が良い、粘土質の土地だともっと工夫が必要なんだろうが、ここならほら、これで良いだろう」
犂は僅か四日で改造を終えた。未知の構造だから時間がかかると思ったが、そうでもなかった。
「よし、では牛につなげてやってみよう」
牛と森の民を呼んで、畑で犂をセットした。森の民は犂を使ったことが無いから、まずは森の民への説明から始めることになったが、その間に犂もセットが終わり、いざ試運転となった。
まず初めはどうやっても問題ない。問題は折り返しだ。
畑の端まで行って、牛方向転換させて、さらに犂の反転方向を変える。
が、なんだか犂が倒れ込みすぎていて森の民の怪力で何とか支えている状態に見える。
「しまった。車輪を双方用にして無かった」
ミケエムシでもミスはあるんだなと思った。
ただ、問題の解決はあっという間だ。予備で作っていた車輪を持ってくるとその場で左右同径車輪へと交換してしまった。
元の車輪は片反転を前提に、一方が反転してできた溝の中を走り、片方が反転前の土の部分を走る事から、常に水平に保つことを前提に、左右でサイズの違う車輪が備え付けられていた。
ただ、考えてみれば日本の犂には車輪は存在しない。車輪があるのは西洋のプラウだ。
日本の犂の場合、犂の爪が付く部分から後方に板を延ばして犂自体を安定させる構造のモノが多い。この板、まあ、犂床と言ったか。これの長さがあって、板のない無床犂と言うヤツは安定させるのが難しく、使いこなすのに熟練が必要だったという。そこにそり状に伸ばした板を付けたのが、長床犂。安定性は良かったが、あまり深くは耕せなかったらしい。そこで、そりを短くした短床犂というものが使われた地域もあった。
犂には地域性があって、時代の流れで無床犂から長床犂へ至り、短床犂になったなどという訳ではない。地域ごとに違う発達を遂げたし、水田の中には冬も田に水を張り続ける深田というものも存在していた。
深田というのは主に稲作のみを行う田んぼで、常に水を入れている関係で腰のあたりまで沈む沼状態の田んぼだった。
こんな田んぼでは牛馬耕などそもそも不可能で、深田が主流の地域では犂自体が普及していなかったりもする。
その代わり、干潟で使うようなそりをはじめとした専用の道具が深田では使われていたらしい。
さて、では欧州はというと、プラウの使用は7世紀ごろには記録に残されているが、その頃の構造がそのまま千年近く形状に大きな変更なく使われ続けていたようだ。17世紀に中国から入った犂を基に現代に至る発展がようやく始まったと言われている。
そこからの発展は早く、あっという間に乗用プラウが作られたらしい。
乗用プラウとは、車輪付きの台車に人が乗って、そこから牛馬やプラウを操作するという方法で、後ろをついて歩くよりも高速化されたという。まあ、トラクターの前身と言えなくもないのかな?
今回は乗用ではない。後ろをついて歩くタイプだが、犂自体は車輪による安定が確保されているのでそこまで操作は難しくないように見受けられた。
「なかなかうまくやってるじゃないか」
ミケエムシもそれを見て上機嫌だった。
そして、いつの間に作っていたのか、二日後には犂がもう一組増えていた。
こうして2基の犂を使って10日もすればすべてのピヤパ畑を耕起し終えてしまった。村の農夫たちもその早さにびっくりしていた。
牛の持久力も高いし、力もある。更には山の民の作る道具が他とはまるで別物。
これなら春に総出で馬鍬掛けすればなどと考えていたが、その前にディスクハローが一組出来たという。
「こんなもんでどうだ?」
ミケエムシにそう言われたが、どうだと言われてもよく分からない。動画で見たことがあるだけの代物だから。
四角い枠に3組の円盤を付けた軸が2本、さらに後ろに4組の円盤を付けた軸が2本、その間に車輪があって、ハンドルで昇降可能になっている。枠の後方には鎖が垂れている。これは取り外しが出来て、移動時には代わりに車輪が付く。
「枠を軽く作るのは出来たが、お皿が問題だった。軽く硬くは出来るんだが、重量が無いと深く耕せないだろう?そこを調整するのに苦労したぜ」
その割にはたった2週間程度で出来上がって来たんだが。
犂を2基作りながら、こんな未知の道具まで作り上げる山の民の鍛冶集団ってナニモンだろうか?
フイに思った、この集団ならば、言えば蒸気機関なんかもあっという間に作るかもしれない。しかし、俺自身がさして構造を知らないので色々と怖い。ほら、初期の蒸気機関に爆発は付き物だろう?彼らが思いつくまで言わないでおこうと思う。
それはさておき、ディスクハローだ。
牛に装着して森の民へ操作方法を教えて、試運転開始。
牛の速度なのでそんなに速くはない。犂で作られた山脈を切り崩しながら進んでいく。
1列目で大きく切り崩して2列目がさらに砕いて後方の鎖が残った土塊を細かくしていく。思い描いた作業が行われているので満足だ。
「なかなかうまく行っている。あとは、雪が解けた後で作業した方が良いかもしれない」
作業を見て、ディスクハローとしては成功している事が確認できた。これから雪が降るから作業を続けても同じことを春にもう一度やることになる。ハロー掛けは春にやれば十分なので、畑一つ分の作業で改善点を見つけて修正するだけに留めた。
「馬鍬がこんな簡単に出来るなら、ポニーを使ったコンコや野菜の小分けした畑用の小型機械なんかも作って貰いてぇな」
という農夫の意見が出た。たしかに、鍬だけでやるより楽になるだろうし、ポニーであれば、自分達でも扱える。そもそも、牛による犂とハロー耕では野菜類やアピオの畑では持て余してしまうのだ。
「う~ん、お皿を小さくしたら出来なくはないがなぁ~」
ミケエムシが悩んでいるのでわざわざディスクに拘らなくていいと伝えた。
そして、良いものを思いついた。
「浅く耕すだけで良く、土を細かくするのが目的ならば、こんなモノが出来るかもしれない」
俺が思い付いたのはロータリー。動力が無いから手押し式芝刈り機よろしく車輪から動力を取り出すことになる。
歯車の製造が無理かとも思ったが、山の民はそんなヤワではなかった。歯車も難なく作り上げた。
「なるほど、大きさの違う歯車で回転差を作って爪を回すのか、なかなか考えたな」
そう言って喜んで作ってくれた。そろそろ雪が降りそうな気温になったが、何とか試作ロータリーが完成した。
「これは凄いぞ」
ミケエムシもそう喜んでいた。考案者の俺もハナが高い。
「では始めます」
ポニーに試作ロータリーを曳かせた農夫が合図とともにポニーを歩かせた。
「おわぁ~」
瞬間、ロータリーがポニーの歩みより早く飛び出してしまった。農夫もそれに引っ張られて転倒しかけた。
「危なかった。あやうくポニーの脚を折るところだった」
見ていた皆が慌てた。農夫にとってはポニーが第一らしい。
何が起こったのか多くの人々は理解が及ばなかったようだが、俺はある事実を失念していたことに気が付いた。
「もしかして・・・」
そして、小型管理機によく装備されている「抵抗棒」をセットして実験してみると、ロータリーが飛び出すことなく耕せるようになった。
小型管理機で良く起きる事例を失念していた。
自重が軽い小型管理機では、あまり深く耕そうとすればロータリーを抑えることが出来ずに本体がロータリーの回転によって走り出してしまう。それを抑えるには、装備された抵抗棒を長く伸ばしてごく浅く耕すようにセットするか、ロータリーを進行方向と逆に回転させる必要がある。
「これを使う場合にはこの棒で抵抗を作って、ごく浅く耕すようにするのがコツになるようだ。まずは犂や鍬で耕した柔らかい土を細かく砕くときに使うには向いているが、コレだけでやろうとするのは危ない様だ」
ポニーによる耕作は可能になったが、牛と比べて小規模作業が前提になる。コンコやアピオをはじめとした野菜畑での小回りの利く作業を担う事にして、ロータリーと小型の犂を用意することになった。
来年から重労働の鍬耕が減ることに移住組が喜んでいた。その喜びをモノにするにはポニーが10頭くらいと必要なだけのロータリーや犂を揃える必要があるが、原資の石炭は豊富だから問題はない。




