35・新しい農具を作ってみることにした
フェンが出来たのでイアンバヌは大喜びだった。ケッコナも喜んでいた。
そう言えば、ケッコナは一体何のためにナンションナーへやって来たんだろうか?
「建前上は代表者だけど、ホッコとしたら、ウルホが手を出すのを望んでるかも」
と、イアンバヌが言ってきた。
「いやいや、さすがにそれは無いし。ケッコナと僕の体格を見ればわかると思うけど、投げ飛ばされて終わりだよ?」
そう言うと、なぜかため息をついているイアンバヌさん。
「そもそも、私にも興味が無いの?」
いえ、そんなわけではありませんが、かといって、前世の記憶があるから14.5歳でそれは条例違反じゃないかとも言えない。
「そういう訳ではないが、その、何の式典や儀式もなく夫婦だと言えばそれで構わないのだろうか?」
そう、昔と言えば建前上は結婚式を行うまでは手出ししてはいけないのではなかったか?
「ウルホは王族だから『我が法』かと思ってたんだけど、違うの?」
「違う。それが許されるのは王一人だけだ」
何だろう、どうやら随分と認識がずれていたようだった。どちらにしろ、今から結婚式の準備だと言っても雪が降ってしまうので春まで先送りだ。
「そう。なら、ウルホが襲われないように春まで見張っておくよ」
ん?
イアンバヌさんが何言ってるのかよく分からないんだが。
まあ、本人も気にしていないので俺はミケエムシが滞在する間に牛に曳かせる農具について試してみることにした。
まずは犂だ。これまでは鍬だけだったが、さすがに鍬では耕せる面積が知れている。少なくとも、犂を使えば10倍は効率が良くなるはずだ。
「確かに、この牛ならば普通の牛3頭分くらいの力はあるだろうな」
牛を見たミケエムシの感想だった。
「ならば、二連犂も可能だろうか」
そう言うと、少し考えている様だ。
「二連にする大きさによるな。東で使っている大型の犂は2頭か3頭で曳くのが普通だ。東と同等の犂を考えているなら、二連にすれば、森の牛ですら2頭は必要になる。ルヤンペの鉄が使えるからモノが作れるのは間違いないが、それで良いのか?」
そう言われると俺が困る。二連にしたからと言って飛躍的に楽になる訳ではない。
そもそも、犂、或いはプラウという道具は作物を栽培して養分を使い痩せた表層の土と養分豊富な深層の土を入れ替える道具であって、大きな土塊がそのままゴロンと転がっているだけになる。そんな土の上にそのまま種を播いたり苗を植えたりできるわけではなく、土塊を崩して細かな土にして初めて畑として機能するようになるわけだ。
例えば、すでに畑として耕作されている土地を犂で反転させる必要が必ずあるかというと、魚肥を使う今の農法であれば、毎回必要としている訳ではない。
ただ、今後も畑を拡げる必要があるのと、これまで鍬だけだったことで、一度深層の土と入れ替える事は必要だと思うが・・・
そして、犂のもう一つの利点は、表層の雑草の種なども土中に埋没させるので、雑草の発生も少なからず抑制できる。ただ、毎回やれば以前埋没させた種を表層に出すのだから、意味は無いんだが。
「それならば、大型の一連犂で良いと思う。そのかわり、ピヤパの畑を軽く耕せるこんなものが作れないだろうか?」
「お皿をたくさん並べるのか?」
イラストを見たミケエムシの理解が追い付いていない。そんなはずは無いと思うんだがな・・・
俺が見せたのはディスクハロー。切り欠きディスクを多数並べた代物だ。大きいものは大きいが、米国なんかではATV、つまり、バギーで引っ張る小型のモノだって存在している。
本格的なディスクハローだとその重量は1トンを超える。トラクターが存在しないこの世界ではそんなものを作っても扱いに困るだろう。
まあ、ミケエムシだ、作ってくれと言えば作ってくれるだろうが、引っ張るのに牛が三頭丸々必要なシロモノというのでは、さすがに意味が無い。
そこで、小型のモノを作ってもらおうと考えている。
「そうだ、左右三連の大皿を外向きに付けたのが前列、内向き四連の皿を付けたのが後列、その間に昇降式の車輪を置いて、移動や深さ調整を行う。重量が許すならば、さらに後ろに鎖かサラエのような爪を走らせて土をさらに細かく砕けるようにすれば、これまでの馬鍬の何倍も効率が上がるし、鍬耕を代替できる」
馬鍬、或いはスパイクハロー(方形ハロー)であれば、ただ爪で引っ掻くだけの作用しかなく、栽培後の土壌では使えない。犂か鍬で耕した後にしか使い道が無いのだが、ディスクハローならば、よほど硬い土壌でない限り、浅く反転させることが出来る。これ一つで畑を耕し終えることも可能かもしれない優れモノだ。
「なるほど、逆ハの字にして外へ反して、後ろで今度はハの字で内側へ土を返しながら砕くのか。なかなか考えられた道具だな。草原の連中も侮れんな」
いや、こんなものはカルヤラにすらないと思うよ?牛馬耕の時代は一連ハの字のディスクハローに椅子を付けて座って牛馬を手綱で操作してたんだから。前後タンデム化したのは機械化以後じゃないのかな?
そう言ってまずは手馴れたようにわずか数日で犂が完成した。
「ん?犂というのは左右どちらへでも反転できるレバーが付いてるものじゃないのか?」
俺の知る犂というのはレバー一つで板が左右に倒れて任意に反転方向を変えることが出来る代物だ。一方向にしか返せないこんな旧態依然の構造ではない。
が、ミケエムシには衝撃だったらしい。
「犂を左右どちらへでも返せる構造にしているだと!」
なぜか詰め寄られた。そして、詳しく教えろと迫られた。なので、詳しくどんなものかを教えた。
「草原の連中は計り知れないモノを作り出しているんだな」
と、またもや驚いていたが、これも前世のモノであって、カルヤラには無いと思う。あくまで、ミケエムシが作った犂が全金属製だから双方反転だと思ったに過ぎない。木製の柄に刃先だけ金属とかだったら、「そんなもんだ」と納得していただろう。
「よし、こいつを改造しよう」
ミケエムシに火が付いたらしい。雪が降る前に試せると良いな。
俺は空を見上げた。まだ辺りは紅葉時期だからきっと大丈夫だと自分に言い聞かせた。




