32・兄から使者が来たらしい
ケッコナンで帰り支度をしているとナンションナーから伝令がやって来た。
伝令はイアンバヌと共にやって来た戦士の一人で、俺には誰かよく分からなかった。と言っても、内容は俺宛だ。
「カルヤラより縁辺公を訪ねて使者が参っております。来訪内容については直接会って話すべきとのことで、村長も聞かされておらぬ様子」
と言われた。
「使者か、こちらは牛も居るので帰りは5日後になる。それまで待っていてもらおう。そうだ、また盾というのも芸が無いから、剣か槍でも送って機嫌を取っておいてくれないか?」
使者、やはりルヤンペの言う通り、兄が何か疑いをかけてきたのかもしれない。しかし、間が悪い事にここからではすぐに帰ることが出来ない。
出来るだけ急いで帰るしかない。
出来るだけ急いで帰ったのだが、牛の足に合わせたのでやはり5日かかってしまった。すでに昼を回っている。
「公、使者殿は剣と槍をもって今朝帰られましたぞ。もうしばらくと引き留めたのですが、船便の都合
で今朝が限度だったようです」
なんだろうか。普通、王の勅命ならば船を雇うのだから船便の都合などないはずだが?それとも、単に様子を見に誰か宮殿の者を寄こしたというのだろうか?
「使者として来たのは誰だったんだ?」
「それが、勅使であるとしか名乗られませんで、誰であるかまでは私どもでは分かりかねます」
まあ、そうだろうな。一応、貴族や閣僚、将軍の名前くらいは年に一度、官報のような形でこの縁辺にも知らせが来るが、それ以外となると、商人に聞いた話以上の事はこの地では分からない。
「商人にも聞いたのですが、誰かまでは分からないそうです」
なんだろうか、ますますわからない。
「その使者の容姿はどんなだったのだ?」
この時代、服装でそれなりに身分も分かるだろう。
「二十過ぎの青年でしたが、服装は官僚のモノでした。貴族の子弟かもしれませんが、その様なものを窺い知るものは身に付けておりませんでした」
なんだろう。官僚服を着た二十過ぎの青年?どこかの貴族の子弟かもしれない。徴税関係だろうか?いや、しかし、縁辺領は国からの徴税はない。税の代わりとして、ここでの取引に対してカルヤラにおいて荷揚げ税、つまり関税かな?が商人から徴収されている。そもそも、縁辺にはナンションナーという港町とナンガデッキョンナーという炭づくりの窯場しかない。税を取るほどの経済も人口もなく、本来、領主を置くような場所ですらなくなっている。
まてよ、もしかして、一番上の兄が来たという可能性は無いだろうか?
が、それは無いと思う。大公として北方領を治める人物が、王の勅使としてこんな縁辺に来るとは考えにくい。
「それで、何か聞かれたのか?」
使者が来たならば、きっとあの盾について聞きに来たのだろう。そのくらいしか思いつかない。
「はい、盾の値段について聞かれました。炭と交換で用立てたと言ったら驚いていましたね。公からのお言いつけの剣と槍についても、石炭と炭で、我々が使える片手剣を10本、通常の矛先の槍を20本ほどルヤンペ殿に用立ててもらい、使者殿にお渡ししましたところ、さらに驚かれました」
片手剣は分かる、槍は狩猟用のモノかもしれないが、アレならカルヤラで十分、槍兵用の武器になるだろう。山の民が異常なんだ。合金鋼を開発しているもんだから、中世相応の性能じゃない。頭二つくらい抜きんでている。
しかも彼ら自身はそれを当たり前としか思っていないから、カルヤラの普通の武器とそう大して変わらない値段で取引している。ウゴルに渡る可能性を考慮して、部隊単位での取引はしていないが。
しまった、いっそ、俺が作ってもらった鍬を使者に渡しておけば、武器の代わりにカルヤラへの交易品になったかもしれない。今度、商船が来たら農具を見せてみよう。兄への贈り物ではなく、交易品として大々的に取引できればナンションナーも潤うだろう。せっかく鍛冶場が出来るんだから、活用しない手はない。
「公、どうされました?」
しまった、村長と話しているのを忘れるところだった。
「いや、次に商船が来たら、農具を見せてみようかと思ったんだ。武器は取引が制限されるが、カルヤラでは鋳潰せない、山の民の鉄でできた農具なら話は違うと思ってね」
「確かに。鍬でしたら、これから山の民の指導を受けてこちらで作れるように修行も始まります。鍛冶場の一つを専用で使用できれば、十分可能ですね」
村長も俺の構想に賛同してくれるようだ。
結局、使者が誰であったかは分からず仕舞いだが、剣と槍に満足して帰ったのであれば、特に問題は無いだろう。
さあ、もうすぐミケエムシたちがやってくる。アピオの収穫とフェン作りだ。




