26・森の民は変な奴ではあるが、意外とマトモだった
何とも酷い出会いだったが、ホッコというイケメンはそれ以後大人しかった。ただ・・・
「ここまで美形なら男もありかもしれないな」
などと、何気ない話をしながら俺に近づいて小声で言うのが怖かった。ただ、そう言って俺の反応を楽しんではいるが実行は出来ない。見えない鎖がその首から伸びている事を幻視しているかのような光景がそこかしこで見られたのだから。
「ところで、二人は食料は持ってきているの?」
ケッコイに聞かれたんで木の皮に包んだンビセンを見せた。
「本来はアマムを粉にして固く焼くのだが、こちらではアマムが採れない。その代わりにピヤパを粉にして焼くのだが、こうやって保存が出来るモノになる」
ンビセンは本来アマムで作る。アマムは小麦っぽい作物で、製粉してパンやクレープ状のパンム、そして、保存食のンビセンが作られている。ただ、あまり寒冷地での栽培には向いておらず、ナンションナーではピヤパが育てられている。ピヤパは雑穀の一種で見た目はヒエに近い。これを製粉して使うのだが、アマムほどには伸びないので小さなパンムにするか、硬く焼くンビセンにするしかない。ただ、利点として、どういう訳か焼くと気泡が出来るのでアマムのンビセンよりは食べやすい。アマムのンビセンが堅パンだとしたら、ピヤパのンビセンは煎餅と言ったところだ。名前に合ってるのはピヤパで作った方じゃないかとも思うが、ここは日本ではないから言っても仕方がない。
「エビセン?何やら堅そうだな」
うん、俺も思ったよそれ。エビは入ってないのでエビセンではなく煎餅だけどね。
「そうでもない。アマムなら水かスープで柔らかくした方が良いが、これならそのまま食べても問題ない」
そう言って、手に持ったンビセンを割ってケッコイに渡した。彼女はまじまじとンビセンを見る。
「まるでピッピみたいな色をしているな」
ピッピってなんだ?森の民の食い物だろうか?しかし、ちょっと黒っぽい、ピヤパ製ンビセンは堅パンというより北欧のクリスプ・ブレッドに見た目が近いだろう。そう言いながら裏表を見て、においを嗅いで、かじっている。
「多少味もついているのか。一日二日ならこれだけでも良いかもしれん」
そう言って納得している。実際には干し肉と魚の干物も持っているので七日程度の食料としては十分だ。帰りの食料は森の民からもらう事にしているが、日持ちしないことを考慮して、ンビセンだけは多目である。
ケッコイの感想に俺も満足している。本来、ンビセンに味なんかない。ちょっとした塩気があるだけなんだが、ピヤパで作るとアマムと違って風味というか甘みというか、それだけで十分な味が出せる。その上でこの地域で栽培される豆類を粉にして混ぜているから十分においしい。多分、栄養価もそこそこあるんではなかろうか?21世紀の地球ならば健康食品として流行るかもしれないな。
ちなみに、ホッコとケッコイが持っていた食糧は干し肉だった。あと煎り豆みたいなものを持っていた。それがピッピかと聞いてみたが、違うらしい。
「今日はこの辺りで野営だな」
ホッコがそう言ってすこし開けた場所で下草を刈っている。ケッコイとイアンバヌは近くで薪を拾っている。俺?特に何もすることが無いので小型スコップで浅く穴を掘って即席のかまどを作っている。
干し肉をそのまま食うようなことはしない。鍋に水を入れて干し肉と煎り豆を入れれば薄味ではあるがスープになるそうだ。干物も火で炙って皆で食べることにする。
「うん、これはいける」
干物を食いながらホッコが嬉しそうに騒いでいる。その姿に俺は満足だった。
魚の干物って簡単に作れるようで、案外流通はしていない。そもそも塩が貴重品の森の民には特になじみが無いのかもしれない。しかも、海に魚となればなおさらか。
四人で分けると干物はあっという間になくなった。干物とンビセンの取り合わせも良い。本来白米なんだが、この世界で未だに米を見ていないからかもしれないけど。
「ウルホがホッコに襲われるといけない」
イアンバヌがそう言って俺の横に来た。今回の旅には一応テントを持ってきている。本来、弓の材料に使うという木を使って獣の皮を縫い合わせた代物だ。これが結構嵩むのだが、それでも何も無いよりは良い。しかも、肉食獣の皮は獣除けにもなるとかで不寝番の軽減にもなっている。
「そんなに抱き着く必要はあるのか?」
結局、俺はイアンバヌの抱き枕と化している。特に問題ないといえばそうかもしれんけど、ちょっと恥ずかしい。
「ウルホはちょうど良い抱き枕だ」
イアンバヌはそう言って本当に寝入ってしまったようだ。場所が場所だけに何をどうすることも出来ないしなぁ~
「起きろ。野宿でイチャつくなよな」
ホッコが主にイアンバヌを睨みながらそんな事を言う。どうやら朝らしい。
「明日はホッコに貸そうか?」
イアンバヌがそう言うが、ホッコは悔しそうに首を横に振る。
「そんなことして見ろ、俺が殺される」
誰にとは言わない。ってか、こう言うのが分かっているとはいえ、俺、あなたの夫ですよ?もっと大事にしてほしい。
朝食は昨夜の残り物とンビセンだった。朝なんてこんなものだろう。
そして、俺にとっては道に見えない獣道らしいところを淡々と進む。一日何も起きずに進むことが出来た。
そして、ようやく俺にも道だと分かるものに出くわした。
「これがケッコナンへ続く道だ」
ケッコイがそう言うが、それでようやく踏み固められた登山道だった。ここなら牛が通るにも不便はないかもしれないが、間違っても荷車なんかは通れない。
「どうして荷車を使わないんだ?確かに、道を広げる必要があるのは分かる。しかし、荷車の方が便利ではないのか?」
俺はそう問うてみた。
「荷車?アレと牛とではそう荷の量が変わらない。牛ならこの程度の道でも往来できる。荷車だと木を切り倒して沢に板を渡して大きな橋まで掛けないと往来が難しい。牛を見れば君にも分かると思う。あの草原で使っている荷車など、牛に比べたら大したことが無いからね」
ケッコイさんにそう言われてしまった。牛ってどれだけ大きいの?




