25・森の民に会ったんだが、そいつは変な奴だった
目の前に矢が刺さったのを見てびっくりしているとイアンバヌが後ろを振り向き、矢を見ていきなり叫んだ。
「ホッコ!出てきなさい!」
ホッコ?ホッケの仲間か何かだろうか?
俺も辺りを見回す。矢の飛んできた方向を見る。少し風が吹いている。森の中なので枝が揺れ、葉や木漏れ日が揺らぐ。その中で揺らぎが無い部分を見つけ出した。
こんな見つけ方は普通はしないと思う。が、俺はこういうやり方を知っている。何故かって?前世でサバゲーやってたからだ。
スナイパーがギリースーツという枝や草に擬態する布で作られたモジャモジャを被って茂みに潜むことがよくあった。巧妙な偽装をしている場合、目の前にいてさえ気が付かないほどの出来栄えであるのだが、唯一、茂みや木立の中に居て見破る方法。それが、時折吹く風に目を凝らして、周りと違う動きを、或いは動きが無い場所を探し出すやり方だ。
簡単そうに言っているが、これ自体が難しい。スナイパーは本当に巧妙に擬態しており、なかなか探し出せない。すごい時には、正面の敵側に対しては巧妙な偽装だが、味方側からはどこにいるのか丸見えという場合がある。見つけ出せるのは、正直、そうした限られた場合だけだと言って良い。あるいは、何らかの理由で移動している場合。
ただ、それとて見つけ出すには一苦労がある。まず、固定観念を捨てて、ありのままを見なくてはいけない。
動きが無い場所で動いている物、風でそよいでいるときに動きが無いもの。こうしたものは、一見して見抜けるかというと、実は難しい。俺自身、迷彩服で動かずにいたから助かったという事もある。
相手は一人倒して油断していた。一応周りを見ただろうが、動かない迷彩服を見落としていた。
周囲の植生と馴染めば、客観的には見分けがつく者でも、時と場合によっては同化して見えてしまう。それを見つけ出すには、その時の固定観念を捨てて、周囲を見ないといけない。
どう言ったらいいか、一歩引いて、周りを俯瞰するように見て、風がそよいだ瞬間に、そこが浮き出てくる。そんな感覚を持てれば、見つけ出すことは出来る。と言っても、そう簡単に見つけることが出来れば苦労はないのだけど。
揺らぎのなかった部分が鮮明に輪郭として見えた。間違いなく人型だ。
「よく私を見つけ出したな」
そんな声と共にはっきりと相手が分かった。
「ホッコ!出迎えに来たんじゃないの?あんたが矢を放った相手が、今回の交渉相手なんだけど?」
イアンバヌはずいぶん相手に怒っていた。が、言われた側はあまり気にした様子が無い。
「小株か、あいかわらずウルサイな」
ため息をつきながらそんな事を言っている。
目の前までくると結構背が高い。2メートル超えてないか?そして、イケメン。
「どうして小株がこんな可憐なお嬢さんを連れまわしてるんだ?領主を連れて来るんじゃなかったのか」
そう言って俺をまじまじと見る。
「縁辺領主、ウルホ・コイヴィストだ」
俺がそう名乗ると、なぜかあごに手を当ててくる。
「ほう、カルヤラではこんな可憐なお嬢さんが領主をやるのかい?」
顔が近い、息が当たる。流石に近すぎるだろ。
俺にそっちの趣味はない。なんだ、このイケメン、まさか、ソッチか?
俺は助けを求める様にイアンバヌを見たのだが、ものすごく悪い笑顔を浮かべている。
「ホッコ、本人が領主だと言ってるじゃないか。領主が可憐な少女な訳ない」
それ、明らかに煽ってるよね?助けるんじゃないの?あなた、俺の妻なんだよね?いくらイケメンとは言え、自分の夫が傷物にされるの見て喜ぶってどうなの?いや、まだなにもされてないんだけどさ。
「そうだろう?こんな可憐なお嬢さんが領主な訳が無い。小株が俺のために連れてきてくれたのか?」
イケメンがイアンバヌにトンチンカンな事を言ってる。気付けよ、その笑顔は明らかに何か企んでる顔だと分かるだろう?
「なんで私がホッコに草原の民を紹介する必要がある?お前みたいな奴に女の子を会わせる訳が無いじゃないか」
悪い笑顔でそういうイアンバヌさん。いや、だから、もっとこう、助けてもらえませんかね?
「現に連れて来たではないか」
イケメンはイアンバヌの悪い笑顔の意図がまるっきり分かっていないのではないだろうか。俺が男だとはみじんも思っていないようだ。おい、どうする気だよ!
「僕は男だ。そして、領主だ」
そう言うと、イケメンはさらににやけた。イケメンなのに気持ち悪い。俺、ソッチに興味ないんで。
「そうか、男か。本当かどうか試してみようか?」
ハァ?何言ってんだ。試すってなんだよ!嫌な予感がしたのでとっさに手で相手の顔を払いのけようとしたのだが、叶わなかった。
い や だ ~
「ホッコ、お前、とうとう男に手を出すのか?ケッコナンで男に手を出すのは追放じゃなかったっけ?」
思い出したくない感触から逃れてイアンバヌを見るとものすごくキラキラした笑顔でイケメンを見ている。いや、見下している。
「何を言ってるんだ?この俺が男に手を出す訳が無いだろう?ケッコナンで一番のこの俺が」
俺から少し離れてドヤ顔をするイケメン。半ば思考停止の俺の下半身に何か触れている。
「そう?ホッコの自慢話も当てにならないね。相手が男か女かすら見分けられないなんて」
あれ?下半身が涼しい。つか、ちょっと冷たくない?
目の前でイケメンが変な顔をしている。そして、自分の下半身を見る。あ・・・
「わかれば良いんだよ。分かれば」
イアンバヌがそう言ってほどいた紐を占めてくれた。いや。そうじゃない。色々オカシイ!
「夫の唇を男に奪われるなんて」
そう言ってキスをしてくるイアンバヌ。だ か ら 、色々間違ってる!
どうやら、イケメンは未だに立ち直れないらしい。俺もこのまま帰りたい。
「ウルホ、コレが私の母の姉が息子のホッコ。森の民だよ」
今になって平然とそんな紹介をされた。
「ホッコ!なに飛び出して行ってるの」
また新たな声がした。今度は女性らしい。
今度はイアンバヌ曰く、道を歩いて現れた。ものすごく美人だった。俺は綺麗より可愛い方が好みだから美人さんよりイアンバヌかな。
「あら、イアンバヌ。で、そっちの子は?」
「ケッコイ。この子は私の夫。縁辺領主だよ」
イアンバヌが俺を後ろから抱きしめながらそう言う。森の民はどうやらそれで理解したらしい。
「イアンバヌの?山の民は好みじゃないとは聞いたけど、まさか草原の民に手を出すとはねぇ」
そう言ってニヤニヤ笑っている。
「ところで、ホッコ。まさか、この子を女と間違えたりして無いでしょうね」
悪い笑顔でそんなことを聞く。
「この俺が間違えるわけ無いだろう!」
すまし顔でそう返事をしているが、あの顔は完全に見破っている。
「そう。なら良いけど。顔で女だと思って口説きにかかるようなバカかと思ってたから心配だったのよ」
「バカな事を言うな」
ドヤ顔のイケメンに美人の目が笑っていない笑顔が向けられる。小さく「ヒッ」と聴こえた気がした。
「さあ、領主殿。ご案内いたします」
ケッコイというらしい森の民が俺にうやうやしく礼をする。目線で促されたイケメンもそれに倣う。
「よ、よろちく」
どうにも状況に付いて行けない俺は噛んでしまった。
「大丈夫だよ、ウルホ。ケッコイはホッコの飼い主だから」
飼い主ってそれは・・・・・・
それを聞いたイケメンは何も言わなかった。いや、横で微笑む人物のせいで何も言えなかったのだろう。




