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22・問題起きたけど、こっちも問題だ

 牛が出たという知らせをガイナンへ走らせたルヤンペもそのまま飛び出して行ってしまった。


 牛って何?俺の知る牛とは違うのだろうか?牛が出たからと言って問題になるとは思えない。それとも、牛という名称だけが同じで凶暴な動物か何かだろうか。


 結局、何のことかわからないまま次の日を迎えた。目についた山の民に牛についてきいてみた。


「牛ですか?山に住む普段は大人しい動物ですよ。ただ、力が強いので近づくのは危険ですね。それに、確か森の民が飼いならしているという話も聞いたことがあります」


 山の民の女性が丁寧に教えてくれた。


 確かに、牛はそこそこ力が強い動物だった気はする。人間では太刀打ちできないがそもそもが温厚な動物なので下手に刺激しなければ大丈夫だという。この辺りはどうやら同じらしい。が、気がかりなのは、森の民が飼っているという話だ。そうすると、取水口は森の民の領域ってことになるんではないのか?


 何だかどんどん話がおかしなことになっている。森の民は狩猟採集で生活してるんじゃなかったのか?なんで牛なんか飼ってるんだ?牧畜をするには相応の飼料が必要になるから広い牧場と餌となる草や野菜、穀物を育てる畑が必要なはずだ。少なくとも、冬場の餌については人間が確保して与える必要があると思う。なにせ、ここは雪が積もる場所だから、冬の食料が無い。



 どうにもよく分からない状況だが、少なくとも、森の中は放牧地として森の民が利用している場所で、そこを切り拓いたとなると、これから争いが起こるという事なんだろう。今更だが、ルヤンペはガイニでも森の民と揉めていたとか言っていたな。ついに懸念していた事が現実になったわけか・・・



「おう、嬢ちゃん。とりあえず何とかなったぜ」


 どうしたものかと考えていたらルヤンペがそう言って現れた。


「そうか、では」


「ああ、とりあえず話はしてきたが、そこまで来ていた連中と話が付いただけだ。本格的な事はここの領主である嬢ちゃんが出ていく必要がある」


 まあ、そんなことになるんじゃないかとは思った。ルヤンペはなんだかんだ言ってもガイニの長であって、ナンションナーやナンガデッキョンナーについて権限は持ってはいない。縁辺領主である俺が出ていくしか話を付ける術はない。


「わかった。では、案内してもらおう」


 どうせ行くしかないなら早い方が良い。今日か明日にでも出向こうではないか。


「まあ、ちょっと待て。ガイナンから必要な奴を呼んでいるところだ。そいつが来てからにしてもらおう」


 ここの領主は俺なのだから、ルヤンペが俺を案内すれば済むのではなかろうか?

 そう思っている事が顔に出たのだろう。


「ここの領主は嬢ちゃんだが、連中はカルヤラに良い感情は持っていない。嬢ちゃんだけ連れて行ったところで話がまとまるとは思えねぇ。そこでだ。ガイナンから人を呼んでいる。そいつが到着してからでも遅くはない」


 なるほど、ガイナンの渉外担当者でも呼んだのだろう。この近辺の取り決めや慣例を知らない俺と問題を起こすだけのルヤンペが向かったところで話し合いはまとまらないって事だな。確かにその通りだと思う。



 それから三日ほどしてガイナンから人が来た。近くまでくるとその多くが髪をポニーテールにしているのが分かった。


「ルヤンペ、話し合いに行くんだろう?戦士を連れて行っては話し合いではなく、果し合いにならないか?」


「話し合いに行くだけだ」


 そう言うが、目の前に居るのは話し合いに行く一行ではなく、戦を仕掛けに行くような集団だ。鎧を着こんで盾と戦斧を持っている。中には弓を持っているのも居るようだが。

 武器が何であれ、それは今は関係ない。話し合いだよな?



 ぞろぞろやって来た一団から少し背が高い、そして山の民らしからぬスラリとした女性が現れた。ポニテだから戦士なんだろう。戦斧ではなく弓を持っている。どう見ても山の民らしくない。俺と同じ草原の民ではないかと思える体型をしている。そして、身長は俺より高い。それでいて、どこかあどけなさが残った顔は、俺とそう年齢の差が無いのだろう。


「イアンバヌ、よく来た」


 ルヤンペが声をかけると彼女がこっちを振り向いた。周りの集団から頭一つ高い身長で、立派な戦士に見えたのだが、こっちへ駆け寄ってくる姿は可愛らしいと言って差し支えない。

 ポニテを揺らしながら俺たちの元へとやって来た。


「ルヤンペおじさん、また何かヤラカしたんだって?で、私の相手はどこに居るの?」


 目の前にやって来た少女はルヤンペに困り顔でそういう。


「目の前に居るじゃないか」


 ルヤンペがそういう。そして、少女が俺を見て驚く。


「女じゃないか。いくら私でも怒るよ」


 少女はルヤンペにそう言うが、俺には何のことかわからない。ただ一つ。


「僕は男だが?」


 俺はいつものように訂正する。


「ほう、可愛い顔をしてそんな嘘をつくのかい?草原の民のお嬢さん」


 少女はそう言って俺に顔を近づけてくる。怒ってるんだけどそれでも可愛いよな。つか、こんな時に何考えてんだ俺は。


「わっはっはっはっ、お前もそう思うだろ。だが、こいつは男だ。ホレ」


 ルヤンペは豪快に笑ったかと思うと少女の手を取って俺の・・・


 少女は驚いて手を引っ込める。


「な・・、え?こんな可愛い顔をしていて男?」


 少女も混乱している。


「嬢ちゃんを見て男とは普通は思わないがな、これでも男だ。しかも、兄も認める立派な領主だぞ」


 なぜかルヤンペが胸を張ってどや顔でそんな事を言う。


「え?この子が父の言ってた領主なの?私次第だとは言われたが」


 少女は俺をまじまじと見る。そして微笑んだ。が、目は笑っていない。


「そうか、父やおじさんが言うんならそうなんだろう。それで、領主よ、名前は何という?」


「ウルホだ」


「私はイアンバヌ、ウルホの妻になる女だ。よろしく」


 はい?ツマ?え~っと、ん??


「妻が分からないかな?伴侶、いや正室?で分かるかな」


 少女も少し困り顔だ。


「妻の意味は分かるのだが、僕はそんな話は聞いていないが?」


 そう言ってルヤンペを見る。あれ?堂々と何やら視線を送ってくるがなんの事かわからない。


「ルヤンペおじさんはそんなもんだよ。父もミケエムシも君の事は高く評価していた。カルヤラでも貴族は親の決めた相手へ嫁ぐんだろう?ガイナンでもそれは変わらない。それに、私の母は森の民だ。ちょうど、今から向かう一族が母の出身一族だ」


 なるほど、血縁と縁戚という訳か。前世ならともかく、この世界じゃ断る訳にもいかん話なんだろうな。


「それに、縁辺公という地位にいる君は、王様の許可なく何でもできるそうじゃないか。山の民を妻に迎える事だって問題ないはずだ」


 確かにそうだ。兄の言う通りならば別に兄の許可なくそういう事も来てしまうだろう。それに、こんな可愛い少女との結婚なら断る理由が無い。




 


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