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19・神盾と呼ばれしもの

 私はカルヤラの商人。縁辺へと生活物資を売りに行くのが仕事になっている。上手くいけば山の民が作る武器や道具が手に入る。


 ハルティ大山脈に森が生い茂っていた百年ほど前には山の民も栄えていたというが、木を伐りつくして細々としか生産が出来なくなった今では、山の民との交易もあまり旨味がなくなった。それでもナンションナーへ向かうのは、一獲千金の夢があるからでもある。

 

 山の民が日常使っている剣や戦斧は我々には重すぎて使えたモノではない。しかし、盾はそうではない。特に、ナンションナーの山奥で作られた盾は別名を神盾ともいわれるほどの一品で、一枚あれば屋敷が建つともいわれている。ウゴルでは戦役によって、戦利品として出回っていたりもするが、多くは騎士が所有し、自ら使用しているためカルヤラへ出回ることは殆ど無い。出回ったとしても、東で作られたものであり、重くて扱い難いか、さもなければ、戦斧の衝撃を受けると割れてしまうという。


 これが神盾だと非常に軽く、しかも、戦斧の衝撃にも耐えるという。もちろん、盾を持った人物がその衝撃に耐えられればの話だが。


 カルヤラで使われている盾や鎧では、山の民の攻撃があっさり通ってしまう。森の民の矢なども同様だ。しかし、神盾ならば、それらを防いでくれる。


 山の民も分かっているから盾は作っても、鎧を神鋼で作ることは無い。



 ナンションナーに着いて驚いた。春に縁辺公をお連れした際にはただの寒村に過ぎなかったそこは、今や山の民の街であるかのような状態だった。


 街には山の民が徘徊し、垂涎の品が取引されている。戦斧に盾が無造作に運ばれていく。アレが一組でも手に入れは私は後の人生安泰だ。しかし、そうは問屋が卸さない。

 山の民は自身の武器をカルヤラ人には売ろうとはしない。依頼すれば造ってはくれるが値段は非常に高いものになる。

 そして何より、持ち帰ったとしても、カルヤラの鍛冶師では補修もままならない。盾が唯一、我々が有効利用可能な品と言えるだろう。その盾が目の前をなん十枚と通り過ぎる光景には腰を抜かしそうになった。



 いつものように村長へとあいさつに出向いた。あいも変わらずボロイ家である。縁辺公と共に移住してきた者たちの家はそれなりに立派なものがあるようだが。


「これはこれは、村長。今季もお伺いさせていただきました」


 いつものように挨拶を終えて今の現状について来てみた。


「山の民ですか?公が自ら郷に出向いてより、こちらへと移り住むようになっております。なんでも、ここの焼き石を石の炭にして使えば良い鉄が出来るとかで、向こうの谷で焼いておるのですよ。ちょうど今日は焼き終えた後なので煙は上っていないようですね」


 村長はそのように説明してくれた。焼き石を焼くとはまた、山の民は何を考えるかわからない。きっと、彼らの技術があっての事だろう。

 この村は山の民との交易でなり立っているからこうも平然としているが、私から見れば彼らに乗っ取られているようにしか見えない。そのことを伝えて辞去した。


 そうすると、次の日には縁辺公から御声が掛かった。


 案内された先は寂れた館に多少手を加えただけのものだった。少し離れたところにある山の民の屋敷との違いに、やはりここが山の民のものになりつつあることを実感した。


 やはり、成人したての若い領主ではどうしようもなかったのだろう。

 しかし、それも仕方がない。戦に敗れて流された身であり、供の者すらほとんど連れてきていないのだ。これだけの生活が出来ているだけでも幸せなのかもしれない。


 公自ら、王から賜った土地だから自由にやってると強がっているが、そうでもしないとやっていけないのだろうと憐れみを覚えたのだが。


「や、山の民の盾を10枚ですか!」


 山の民、しかも、東の盾ではなく、この奥地にある山の民が作る盾、いわゆる神盾をポンと10枚も王へ贈るというのだ。


 え?私にも10枚?


 まあ、そうだろう、そんな強がりを言わなければやっていられないだろう。何がある訳でもない縁辺で神盾と呼ばれる高級品を20枚も用立てるなど、さすがに出来はしない。王様へどう報告すればよいのだろうか。


 そんなことを思っていると、5日後には本当に20枚もの盾が私の元へやって来た。


 やたらと軽く、しかも薄い。公が用意できるのはこんな儀礼用しかないだろうと哀れになったが、儀礼用であっても、山の民の盾には違いない。そこそこの値段で取引は出来るし、王への献上品としても悪くは無いだろう。



 カルヤラへと帰って、私はこの盾を10枚、王宮へと献上した。縁辺公が壮健だという報告書も渡している。


 残った10枚について、勿体無いが1枚どの程度の強度があるのか試してみることにした。

 商会の槍使いに盾を突かせてみたが、貫通どころではない。槍が折れただけで何の変化もなかった。流石山の民。

 試しに戦斧でも試してみた。


「槍で突き破れない盾だ、割ったら賞金を出そう」


 そうけしかけてみたのだが、兵は手をしびれさせて戦斧を取り落としてしまった。儀礼用でこの堅牢さ。流石山の民だと感心させられた。


 それからしばらくして、風のうわさで聞いたのだが、この盾を王軍で試験したところ、バリスタを使って何とか凹ますことに成功したらしい。カルヤラで作られた矢じりではこんな薄い盾すら破れないという話だ。


 売ろうかどうか悩んでいた時、王宮より使者が来た。


「王命である。残りの神盾をすべて渡すように。以後、この盾を手に入れた場合、即座に王宮へ納入する事。決して他へ売ってはならぬ」


 盾の事を誰にも喋るなと念押しされた。しかも、これがうわさに聞く神盾だと?では、ナンションナーで見たアレすべてがこれと同等の品という事か。


 そんなものを数日で用意する縁辺公の武力はカルヤラを遥かに凌いではいないだろうか?


 忘れよう。忘れた方が身のためだ。


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