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18・再建は一日にしてならず

 ルヤンペがナンションナーでの製鉄話を持ち掛けてから早ひと月、未だ影も形も出来上がってはいない。


 コークスがあるから近くに炉を作ってしまえばよいではないかと思ったのだが、コークスは燃えにくいため人力によるふいごやたたらのような原始的な方法では温度が維持できないという。そのため、水車による継続した送風が必要となるため、まずは水車を設置するための基礎作りと水路づくりが必要なんだとか。


 そのため、川の上流から水路を引いて来て、高低差の大きな山裾に水車を設置するための広場を整地し、水車小屋と炉を作るという。

 そこで、水車で使用した水をそのまま村の用水として村まで引いてもらう事にした。


「おう、ついでだ、やってやる」


 そう快く引き受けてくれて大助かりだった。

 まず行われている水路建設には村からも人を出している。というのも、水路はかなり山を削って作る必要があり、木も伐採するというので、炭の材料や建材入手も兼ねて、村からの応援を出した。ちょうど今はコンコの種まき前でほとんど畑仕事もない。草取りは中耕機のおかげで楽に早く出来る様になった。


 ナンションナーには二本の川があり、一つはガイナン方面から流れており、もう一つはラッピ高原から流れてきているので、遡上すれば森の民の集落があるという話だった。

 エルフというのは自然の中で暮らしているのではないのかと思ったが、ちゃんと家は建てるらしい。そして、ファンタジーモノの定番通りに弓が得意で狩猟が得意なんだそうだ。当然、菜食主義などではない。狩猟採集を生活基盤とした種族なんだそうだ。


「あまり山に入ると森の民と争いにならないか?」


 高低差を稼ぐためにかなり山奥から水路を引くというルヤンペに問うたが


「なに、俺たちが入ったら連中は逃げ出すさ。木が無けりゃ連中は寄っても来ねぇよ」


 と、さすがにヤヴァイ事を口走っている。本当に大丈夫なんだろうか?



 山では未だ伐採が続いているが、村ではコンコの種まきを始めないといけない時期が来た。主要作物ではないし、改造ヒトリビキもあるのでかなり楽になった。魚肥を播いて僅かな人数でヒトリビキを引けば混和が出来てしまう。わざわざ鍬で耕すことに比べて数倍の速さで作業が進んでいる。

 播種機についても試作機が出来上がったので試している。これが完成したらさらに人手が要らなくなることだろう。


 ルヤンペがコークスを焼くようになって、東の山の民が頻繁にやってくるようになった。東にも情報だけは伝わっているので、ナンションナーでコークスを仕入れ、地元で鍛冶に利用するという流れが出来上がりつつある。東にも炭鉱はあるそうだが、技術の問題か炭質の問題か、コークスは作れていないらしい。そのため、ナンションナーへ毎月のように何隻もの船がやって来てはコークスを積んで帰っている。


 そのおかげか、コークスの対価で食糧を購入出来て生活も楽になってきた。これでは当初の予定と違うが、まあ、それはそれで良いのかもしれない。


 さらにだ、ルヤンペが言う様に、やはりガイナンの鉄製品の需要は大きい。最近、コークスに次いで取引されているのが、ガイナン製の武器だった。剣はそれほど多くない。盾と戦斧がその主要商品だった。


 戦斧と言っても木を切る斧の武器版と言える、よく知るハルバートやトマホークの形状ではなく、完全に人を切ることに特化した東欧やロシアで多く用いられたバルデッシュというやつに近い。しかも怪力の戦士が使うとあって、デカイ。青龍刀を槍先に取り付けたようなトンデモナイ代物がいくつも運ばれていた。


 あれは全てウゴルとの戦いに備えたモノらしい。しかも、ガイニの合金鋼を用いた逸品とかで値も張ると言っていた。

 なるほど、ここで少量と言えども、合金鋼を生産すれば彼らに飛ぶように売れるだろうと何となく予想できた。

 しかも、ルヤンペ曰く「東の連中にも扱いやすい、新しい鋼をナンションナーで生産する」とのことだからさらに期待が持てる。


 とはいっても、水路の完成は雪が降るまでに何とか出来るだろうとのことで、水車の設置や炉の築造は来年の春以降になるとのことだった。まだ先は長い。



 そんなことをしていたらカルヤラからも船がやって来た。

 上陸した船長や商人はナンションナーの様変わり具合に驚いていた。

 対応した村長の話によると、ナンションナーが山の民にのみ込まれたのかと心配しているらしい。なので、一度、俺が会う事にした。


 領主館と言うには貧相な屋敷で彼らを迎えたら、案の定落胆している様だった。なんせ、この建物は廃墟を補強、改築しただけで、移住者や山の民の新居の方が見栄えが良いのだから。


「縁辺公におかれましては・・・」


 たかが流刑者相手に貴族への挨拶をする商人。


「それで、話しというのは何か」


 一応、村長から言われたように、向こうからやって来た事を強調してそう言った。


「はい、久々にナンションナーを訪れましたところ、山の民が多く徘徊しており、街が山の民にのみ込まれたのではないかと、心配になった次第にございます」


 カルヤラ人はそもそも、後からナンションナーに入り込んだ訳で、新領土である縁辺が元の持ち主に戻る事を嫌う人が多い。


「心配せずともよい、この地を任された私が許しを与えている。縁辺を自由にして良しと王から賜った土地だ。むざむざ明け渡したりはしない。それよりも、何をもってきたのか?少量の物品では大して持ち帰る元手にもならんだろう。山の民の手による盾を10枚ほど用意する。王に贈ってはくれぬか」


 盾10枚ならコークスを少々ガイナンに渡せば手に入るので大したものではないが、俺が元気にやっていることを兄に知らせるにはちょうど良いかもしれない。


「や、山の民の盾を10枚ですか!」


「少ないか?お前にも10枚やろう、全部で20枚だ」


 そう言うと何やら慌てていた。ガイニ製合金鋼の盾20枚なら彼らの商売の邪魔になるほど重くもないと思うが、迷惑だったんだろうか?


 彼らには数日待つように言って、新たなコークスと引き換えに東の山の民が持ち帰ろうとしていた盾から20枚ほど用立ててもらった。この盾、本当に軽いな。かなり薄くて儀礼用かと思ったが、実戦用だというから、カルヤラの商人や兄も怒りはしないだろう。


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