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160・それは全くの想定外だった

 変態どもがレパルを攻撃している頃、アホはその状況に逐一耳を傾けながら、地味な潜入部隊の派遣しかしていなかった。


 ヴィーブリ周辺には島が多く点在し、浅瀬も多い。


 決められた航路を通れば全く問題ないが、それ以外は難所と言って良い場所だらけだった。


 そんな地勢のため、アホにあるまじき慎重さで島の状況を調べたり航路の調査をしていた。


 そして、レパル侵攻から一月が経とうという頃になってようやく動き出した。


 海兵隊だと騒いでいたので一体どんな装備を揃えて何をやるのかと思っていたが、案外地味だった。


 だが、さすが、転生者らしい知恵も働かせている。


 騎士団と言えば派手で兎に角目立つ金属鎧を着こんでいるものだが、アホの騎士団は全員、今回は地味な皮鎧という出で立ちだった。


「公、アホカイネン水陸機動団、これより状況開始です」


 うん、騎士団ではないらしいな。


 わざわざ指揮官級数名を従えて領都へとあいさつに来たアホの姿は俺が騎兵団用に考えた鎧よりさらに現代型の防弾チョッキだった。


 こんな短期間で用意できたのも、俺が森の民に頼んだからだ。


 そして、これからラガー湖畔で生活する事になるウマゲやテンゴの連中が喜々として取り組んでいた。


 騎士団なので弓ではなく槍が主体という事で騎兵団の鎧よりもゴテゴテしている。


 さらに兜ではなくヘルメットなソレも革製らしい。


「そんなに変ですか?動きやすいですよ?」


 俺が相当変な顔をしていたのだろう。アホがそう言って来た。


「動き易いのは分かるが、弓との相性は悪そうだ」


 そういうと、何やら納得している。


「そうですね。ボーガンなら扱えますが、まともな連弩が作れませんでした。出来れば火縄銃くらいは山の民なら作れると思ったんですが、硫黄が無いんですよね。この辺り」


 そう、鉄砲を作ろうにも材料が揃えられない。もっと化学知識があれば石炭から火薬が作れるのかもしれないが、俺にもアホもその様な知識は無かった。


 まあ、俺はアホが騒いでいるので「エアガンでも作って遊んでろ」と何度か言いかけたが、さすがにソレは言わなかった。コイツに転生者だとバラしてメリットが思いつかないしな。


 そんなアホの部隊がヴィーブリへと攻撃を行ったが、すでに戦力らしい戦力も残っていなかったようで、あっけなく占領に成功した。


 そして、すぐさま島々へと灯台や標識の設置が行われることになった。


 山の民の大型船が通れる航路はごく限られ、カルヤラの小型船でも航路を選ばないといけない。


 そんな海域に灯台と標識を設置するのだから効果は絶大だ。


 レパル方面で遊撃を行っていたシッポの騎兵団もヴィーブリ陥落の報を聞いてそそくさと境界領へと引き上げた。


 唯一、レパルを直接攻撃していた森の民は西進してラガー湖畔の制圧を行っている。

 そこは森の民の移住組が居住地を見つけて居を構える都合もあって、彼らが独自に行っている事だ。


 森の民と原住民の対立も懸念されたが、ラガー湖周辺に居住しているのはウゴルが支配する以前の王国時代からの住民なので、あまり好戦的でもなく、湖周辺の森と開けた湖畔を活動拠点としているせいだろうか、森の民と馬が合うらしい。 


 今のところ、義母に頼んだ水運によって、山の民の水夫がアホの領地へやって来た水夫と共に輸送を計画している。

 その水運によって、畑の少ないラガー湖畔へと食糧供給を行う予定だ。


 ゆくゆくはピッピやベルナも持ち込んでの自給も始まるだろうし、原住民が漁を行っていたのでその産業化も見込まれる。


 森の民についてはその様な順調な滑り出しだ。


 だが、境界領都では問題が発生していた。


 それはアホが帰って来た時の事だった。


 俺が想像していた凱旋は大騒ぎのパレードをやって、さらに幼女に大げさに抱き着くという事態にはならず、本隊に先んじてアホが静かに館へと返って来た。


「ヘルヴィ・・・・・・」


 何だかアホらしくない難しい顔をしている。そして、その後ろに連れが居るようだ。


「ここがお主の館か」


 アホの気も知らずにといった感じで発言するソイツ。


「して、お主の嫁というのはそこな三人か?」


 と、出迎えた幼女に加えて、俺とヘンナを見てそう言った。


「いや、真ん中の人物は男で、縁辺を治める我が国の英才、ウルホ公だ。左に居るのはその妃のヘンナ様。右に居るのが我妻ヘルヴィ」


 と、どこかオドオドしながら答えている。


「旦那様、そちらの女性は?」


 幼女がそう聞いた。


 が、アホはどう答えて良いか迷っている様子。


「ワラワはユッタ・アーニネン、ペトロスコイ王家の者じゃ」


 どこの王家だって?


 俺が首をかしげていると、ヘンナが教えてくれた。


「100年ほど前までラガー湖畔からガネオ湖周辺までを版図としていた国です。ウゴルの侵攻により滅亡しましたが、ヴィーブリは当時の王の係累が領主として治めていたと記憶しております」


 なるほど、そこの童顔はその旧王国の末裔か。


「ペトロスコイ王家・・・、ラガーにあった王国の末裔の方ですか。現在はヴィーブリの領主ではありませんでしたか?」


 幼女も知っていたらしく、その童顔に聞いている。


「うむ、そうじゃ。そして、ヴィーブリはアホカイネンの配下となった故、ワラワが人質も兼ねてラガードへやって来たぞ」


 などと供述を始めた。


「ヘルヴィ、向こうが恭順を示す証として娘を嫁がせるという話になったんだ。決して、ヘルヴィに飽きたとかそんな事ではなく・・・」


 アホがそんな言い訳がましい事を言っている。


「旦那様。新たな領土を平定し、その地の有力者から人質を取るのは古来行われてきたことです。何を悩んでおられるのですか?」


 幼女がそう疑問を口にする。


「え?だって、ほら、ハーレムとかそんなのって、公と違って似合わないし、それにホラ・・・・・・」


 ほらと言って次が出て来ないアホ。


「一応、その方は古の王家の者ですが、今はヴィーブリの領主。私が格落ちになるといったご心配をなさる必要はございません」


「そうじゃぞ、お主の嫁が文官の娘だからと言って、ワラワに劣る訳ではないぞ?ワラワはただの敗者の娘ぞ」


 童顔が足りない胸を張ってアホにそう言う。身長は俺と変わらないくらい。見方によっては長身の小学生だが、いくつなんだろうな?


「ところで、あなたお幾つかしら?」


 幼女が核心を突いて来た。


「ん?ワラワは17じゃ」


 何だよ、幼女ほどではないが、この国では合法の範疇か。


「ヘルヴィ、その・・・・・・」


 アホがまだ何か言いたそうだ。


「旦那様、何をそんなにお悩みで?」


 きっとアホは前世の価値観との葛藤中なんだ。幼女のその問いはトドメというか追撃というか・・・・・・


「境界伯は正室、側室の序列で悩んでいるのか?僕の所にそういうのは無い。序列を付けなければならないという法は無いからな」


 ふと思い至ってそう助け舟を出してやると喜びやがった。


「そうですか!それなら良かったです!!ヘルヴィ!ユッタと仲良くしてほしい」


 幼女が不思議がりながら受け入れている。


「はい、それはもちろんですが?」 



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