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157・それは知らない夕食だった

 境界領の領都と言うから立派な砦があるのかと思ったら全くその様なものは見当たらなかった。が、


「あれは何だ?」


 見た事がある気はするのだが、見たくはない建造物がそこにはあった。


「旦那様が設計した砦です。石を積み上げるほどの人手はなく、木も入手が難しいので、土を盛り上げて壁としたそうです。まだ完全には完成していませんが、領都の民も収容できるように考えられています」


 それは空堀に土塁という、戦国時代の館と言った風情の建造物だ。


 要所には櫓があり、一応、門はちゃんと木で作られているらしい。


「変わった作りですね」


 ヘンナもそう感想を述べる。


「私もこのようなモノは初めて見聞しましたが、旦那様によると、これが本来の城の姿だとか感傷に浸っておりました」


 ああ、幼女からしても引く様な説明だったんだな。絶対本人からコレについて聞きたくはない。


 そんな館の門をくぐるとなぜか中の建物は普通だった。どして?


 もっと日本建築してるのかと思ったのだが、気候に合わないからだろうか、普通にカルヤラらしい建物をしている。日本ポイのは外だけだった。


 着いたのがすでに日が傾き出した頃合いだったので、ほどなくして夕食である。


 境界領ではイモと雑穀くらいしか獲れず、後はヤギの肉と乳があるくらいだ。ナンションナーの初期よりはマシと言う程度の食事になってしまうが、それは仕方がない。


 なにせ、沿岸部は湾になるような場所が少なく、海岸線が崖であったり、海の直後が丘であったりと、居住するには向かないところが多いらしい。


 そのため、漁業はほとんど行われておらず、魚を食べる習慣もない。川も大きなものが無いので川魚も食べることは無いらしい。


 もっぱら、ヤギの肉と乳というウゴルと変わらない食事にイモと雑穀が加わった程度。一応、イモとヤギの乳でシチューは出来る様になったらしいが。


 そんな境界領で一番困るのが飲み物だ。


「他にないのか?」


 ヤギの乳を発酵させた乳酒がドンと置かれたのだが、さすがにクセが強い上に、度数が低いとはいえ酒である。


「公はお酒がダメでしたか?すいません。それでは、こちらを」


 そう言って出されたのは、やはりヤギ乳であるらしいが、ヨーグルトと乳を混ぜたモノだという。


「縁辺産の蜜を加えてありますので酸味は抑えられているはずです」


 幼女のいうとおり、たしかに甘みがあって飲めるものだったが、ふと気になった。


「この乳は一度温めたりしているのか?」


 そういうと、幼女は驚いている。


「よくお気づきになられました。実は、旦那様の発案で煮立つ手前の温度まで一度温めているんです。乳酒の方も頃合いを見て同じことをやれば、それ以上酸味が増すことなく飲めるようになるというので、我が家ではそのようにしております」


 どうやら、アホは低温殺菌法を知っていたらしい。


 欧州で有名なオッサンがワイン醸造に際して発酵を止めるために用いたのが始まりと言うが、日本ではそれより300年は早くから日本酒造りの際に行われていたらしい。


 そうそう、日本酒と言えば澄んだ酒、清酒を作るのに灰を入れた云々とよく言われるが、実は江戸時代よりはるか以前から清酒自体は存在している。モロミを布越しすれば澄んだ酒は出来たのだ。奈良だったか平安だったかの頃には朝廷への献上品だったとか。


 だが、日本酒でもワインでも、本来の状態だと酵母を生かしたままの生酒状態になっているので、どんどん発酵が進む状態になるらしい。

 その為、室町時代ごろに、販売前に酒を温めて酵母を不活性化して、それ以上発酵が進まないようにする技をどこかの誰かが編み出したのだという。欧州で19世紀まで出来なかったことを300年くらい早くやった。

 もしかして転生者でも居たのだろうか?

 

 歴史上、非常に画期的な出来事だが、ほとんど注目されていないのはなぜだろうな。


 そんな事を思いながらシチューと吹かしイモとラッシーっぽい飲み物による食事を終えた。


 しかし、世の中不思議なモノだ。


 この乳酒、栄養価が高いからこの地域やウゴルでは赤ちゃんから老人までが飲むのだという。


 まあ、保存が利くからワインが水代わりだった欧州とか、栄養価が高いから仕事中に水代わりにビールを飲むドイツの職人とか、東欧やロシアでは炭酸飲料代わりになっているクワスであるとか。


 地球ではアルコール飲料が普通に飲まれていたりしたんだが、それはここでも同じらしい。


 ヘンナも何だかんだと言いながら飲んでいる。


「シヤマムの飲み物やお酒とはまた違った独特の風味がありますね」


 と、たいして気にしていない。


 つか、幼女も牛乳代わりに乳酒飲んでるよ。


「ヘンナ様もお気に召しましたか?私もはじめは抵抗がありましたが、慣れると飲めるようになります。この乳酒を使ったシチューもあるのでよろしければどうでしょうか?公も、煮込んでいるので酒精は飛んでおります。酒精が無ければ飲めるのでしたら、きっと召し上がれますよ」


 などとニコニコ言ってくる。酔ってんじゃね?


 それ以上酷くなることは無く、つつがなく食事が終わった。


 なにせ外見は幼女だが、年上である。この程度で酔いつぶれることは無いらしい。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 五稜郭の逆バージョンっぽい砦だ……。
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