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142/161

142・それは前へ進むことも難しい状態だった

 アホは未だにパワードスーツ開発のモルモットになっている。


 背中に物差しを挿し込んだように直立で歩かされていたり、そうかと思えばなぜか老人のように背が曲がっていたり。


 そもそも、歩行がほとんどできていなかったり、勝手に脚が上がってしまっていたり。


 見るごとに変化があるのは良いが、それは改善なのか、はたまた失敗なのかよく分からないモノを装着している姿をよく見かける。


「それは順調に進んでいるのか?」


 ある日、喜々として何かを作っているヘキリパにそう聞いてみると


「おう、久しぶりに顔を見せたな。アレか?何言ってるか分らんことがよくあるからな。ナイロン?カーボン?ベルクロ?何のことか分かるか?」


 そう聞いて来たが、分からないと返しておいた。


「だからな、作り手としても何をどうやれば良いのかサッパリでな。ゴジャハゲが腱をバネ替わりに仕込んだりしたんだが、ウゴルの連中は特殊な樹液か脂で腱を覆っているからな、作ったは良いが、耐久性に難がある。下手したらこの気温と室温の差で数日でイカレちまいやがるんだ」


 革職人であるヘキリパとゴジャハゲをもってしても未だ再現できないというウゴルの被覆材。


 ウゴルの弓には漆のようなビニールのような光沢のある被覆がされており、しかも柔軟性や耐候性まである。

 元々のウゴルは乾燥地帯で過ごしていたらしいが、東方へと侵攻を行い、今では東方世界を侵す存在となっている。

 

 当然ながら、西方草原の乾燥地帯と東方平原の湿潤な気候では大きな違いがあるので、本来であればウゴルが獣の腱や皮を使って造り上げた弓は耐候性や耐久性で劣るはずなのだが、東進を続ける中で何かを見つけたらしい。


 いつの頃からか耐候性の高い被覆を行うようになっている。


 それが植物の樹液や繊維なのか、はたまた獣の油や皮なのか、よく分かっていない。


 もしかすると石油分が自然に特殊な反応を起こして出来上がった樹脂という可能性もあるのだが、そうであればウゴル支配地域の奥地であろう事から、俺たちではどうする事も出来ない。


「ウゴルの被覆材を入手する術はないのか?」


 そう、どこかで争いではなく交易が行われているかもしれない。


「可能性は探ったが、弓や鎧から剥がして溶かせる訳じゃなさそうだ。興味を持って東の国を当たった事もあるが、弓や道具ならともかく、材料として手に入れる事は出来てねぇ」


 という事は、軍事機密みたいなものかもしれないな。


 ギリシア火薬の様に製法が公にされていない品であれば、流通も利用も限られた範囲でしか行われていないだろうし、その取扱い方法を知るのはさらに難しいだろう。


 あのアホが転生者なくらいだ。もしかしたらウゴルにも転生者が居るのかもしれん。その人物が化学技術を持っているならば、化学繊維や樹脂であったとしても不思議ではない。


「もしかしたら、アイツが言ってるナイロンだとかカーボンだとかベルクロって奴かもしれんが、アイツもこの辺には無いと言いやがるしな」


 そりゃあ無いだろう。流通に関する知識があったとしても、ナイロンやカーボンは作り出せんし、ナイロンをはじめとする化学繊維や樹脂を用いて作られたベルクロなんて、アレが作り方を知っている訳もない。


 もちろん、それを言ってしまえば俺自身も農機具の構造は分かるが、その材料についてまでは深く知らないのだから同じだが。


「そうか、鎧がダメでも腰回りと太ももを支えて腰の負担が軽くなれば農作業や荷物の持ち運びは楽になる。そう言った日用品が出来れば、鎧が出来なくとも良いのだが」


 ヘキリパにはそう伝えておく。


 前世のサポート器具が出来れば御の字だろうし、そうしたモノの存在だけで仕事の能率が違ってくるものだ。


「そう言うのが出来ればな。その腰周りについてがちょいと問題なんだ。単に足を動かすだけなら何とかなるぜ?重い物を持ったり、飛んだり跳ねたりできる訳じゃないんだがな」


 そう言って笑われた。


 何でも、平成の発明オジサンのようなモノであるならばすでに作れるらしい。


 ただし、オモチャ程度ならともかく、実用的な品として完成させる段階にはないとの事だ。


 そりゃあ、プラスチックがある訳じゃないから、軽量で柔軟で耐久性や耐候性まで備える安価な素材ってのは、ここでは夢でしかないよな。


「ウゴルの素材があればって話ともチト違うぜ。脚と腰をどう繋いでやれば、腰や足の負担を軽減するか。その上で腰や足の動きを妨げない。ここがアイツの言うほど簡単じゃねぇ。ってか、アイツの言ってることをどこまで信じていいんだ?」


 まあ、話しはアレの言う説明通りに作ってみても、当のモルモットがまともに動かせない。


 あまつさえ、荷物を持てば潰れてしまい。軽快に走ろうとすれば脚を縺れさせて転倒する。


 説明した通りに作り、指摘したように直せばそんな状態だったそうで、今ではそこまで強く言わなくなっている様だ。


「ヘキリパやゴジャハゲが装着しても意味が無いからな、装着した感想は聞いても、作る上での意見は聞き流すくらいで良いのではないか」


 そう皮肉る事にしたら、ヘキリパもそのような感想らしい。


 アレ自身、画像でパワードスーツを見た目だけでは機能性までは分からない事を自覚したらしく、最近では必死に色々考えているらしい。


 色々困難だろうが、彼らに頑張ってもらうしかない。

 

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