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140・とある国王の困惑

「これはどうして宰相権限で裁可しなかった?」


 手元にある書類を見ながらエロモにそう尋ねた。


「その書類は境界伯からの上奏ですので私が裁可できる類のものではございません」


 アホカイネンという貴族が居たが、あの戦いでは第三王子派に属し、捕縛後に牢で狂っていた。


 唯一、息子がウルホの様に全く貴族の慣習を意に介さなかったので少し調べてみれば、どうやら内政手腕があるらしかった。


 ウルホに付けても良かったが、反王派を増やされては困るという者たちの意を汲んで小領を与えて様子を見ることにした。


 するとどうだ。内政には秀でた才を持っているが、どうにも政治も武芸もトンでもなく才が欠落していた。


 当然だが、第三王子派であったことからキエシが声を掛けることもなく、本人も全くそう言う事情に関心が無いようだった。


 キエシの乱ではアイツが混乱する食料供給を見事に安定させた。アレが居なければあそこまでこちらがキエシを嗾ける事は出来なかっただろう。その点で、俺の目に狂いはなかった。


 自身は僅かな小領しか持ってはおらず、そこから上がる穀物など知れた量でしかないのだが、あっという間に自領の穀物どころか、周辺域すべてを差配するほどになり上がっていた。


 事実、アホカイネンに任せた方が円滑に回った。


 キエシの乱によって我が国の膿は随分小さくなったことから、もっと領地を増やすか宮廷貴族に取り立てる算段をしたのだが、如何せん、ココには古いシガラミが多い。


 支持派閥内の事であればまだしも、ウルホ派と目されている事もあってなかなか人事も決まらず、結局は神盾兵団を任せて外縁部を上手く纏めさせることにしたのだが、結果がこれだ。


「アホカイネンが自分の頭でこんなものを導き出せると思うか?」


 そう問いたくなるのも仕方がない。


 政治の才が無いからあれだけの経済力を持ちながら全く派閥形成も出来なければ、どこかに取入るという事すらやっていなかった。


 武芸の才に至っては壊滅的だ。


 自領の兵団に長槍を持たせているが、いや、長槍しか持たせておらず、それを横陣に並べる事しかしない。


 弓兵を持っていないのにも驚く。


 さらに、槍兵の護身武器を長剣にしているが、その剣術も色々オカシイ。


 そもそも、武芸の才が無い者が指導している事がすべて裏目に出て我が国最弱の兵と言って良いだろう。アレでは使えない。

 なぜあんな長槍で突こうとするのか。まるで理解が及ばん。


「それはありませんな。その様な野望があるならば、キエシ候に付き従ったでしょう」


 宰相もそう答える。


「だろうな。だが、困ったことにコレを誰が考えたのかが分からん。分かるか?」


 あまりに杜撰としか言いようがない。


 確かに、アホカイネンには商才がある。が、そうであっても僅か数か月やそこらで敵国の街道を調べ上げて兵站計画を作れるとは思えん。


 食料供給に最も詳しいはずなのだから、現時点で我が国には南進など出来る余力がない事を理解しているはずだ。


 いや、兵站という概念が無いのであればそれも可能かもしれん。


 武芸の才も無いが、アホカイネンの兵団は兵一人当たりの食料が少なすぎる。


 ヒョーロガン?セローガン?そんなよくわからん団子を多少持たせただけとか正気の沙汰ではない。


 国内での行軍であれば行く先で挑発や購入も出来よう。


 しかし、向かうのは食料が少なく、馬で行き来するほど疎らにしか村が無い。そんな地帯で歩兵が容易に食料を手にできる道理などない。


「婚姻関係という線が考えられますが、それ以外の可能性が多すぎてこれというものが思いつきません」


 宰相をしてもそうだ。俺も良く分からん。


「だろうな。縁辺へウルホを流してこの方、武功を挙げたのがウルホとアホカス、何とか近衛のパーヤネンを加えたとしても、その程度か」


「陛下、神盾兵団もでございましょう?」


 少々棘のある言い方をするな。


 だが、その通りだ。


 つまり、ウルホ派か近衛、俺の造った神盾兵団しか武功を挙げていない。 


 多くの貴族、兵団には不満が溜まっている事だろう。


 かといって、ウルホやアホカスの様に采を振るえる者が居る訳で無し。


 武芸の才が無いアホカイネンに囁いて自分が利を得ようという者は多い事だろう。


「どこかの派閥に入っていないというのはこういう時に足が着きにくい」


 悩ましいものだ。


 その時、ふと一つの事に思い至る。


「まさか、身内ではあるまい?」


 さすがの宰相も冗談だと受け取ったらしいが、急に顔色を変える。


「・・・・・・まさか。しかし、アレは内々の検討にすぎません。知っているモノも僅か」


 だが、焚きつける上で利益があるとすれば他にはない。


「巧く利益を隠して話を持っていった可能性はあるな」


 もしかしてと思い、境界伯を呼び出して問いただしてみることにした。


 すると、どうやら密かに進めるべき侵攻計画をコイツが勘違いで俺に上奏してきた可能性が浮上した。


 何ともアホカイネンらしい躓きだが、それも才能かもしれん。コイツに大それたことは無理だ。


「なるほど、内容は分かった。だが、神盾兵団と境界伯の兵団ではその電撃戦?とやらは難しいだろう。どうだ?縁辺に行けば何かあるかもしれん。侵攻は急ぐモノでも無し、春までじっくりあちらで必要な物を揃えて来てはどうだ?」


 まず必要なのはコレと首謀者を引き離して連絡を取らせない事。


 縁辺へ放り出せば嫌でも目立つ。危険を冒してまで連絡を取る者は居ないだろう。


「縁辺でございますか。あの脱穀機を売り出している」


 なるほど、興味はあるらしいな。やはり、ウルホと似た者同士か。アイツも変わり者だが、コレ程度ならば害にはなるまい。


「そうだ。神盾も縁辺で作られている。どうだ?境界伯も縁辺で更にその才を磨いて今後の南方経営に生かしてみては」 


 そう言うと目を輝かせている。


「それはぜひ。縁辺ならば今必要としている物が造れるやもしれません」


 コイツの言うスモウ?パワードスーツ?


 よくわからんソレが出来るのかどうかは知らんが、操るべき人形を失った首謀者連中がその間に別の動きを始めるかもしれん。

 動かなければそれで良い。


 だが、利用させてもらわない手は無いだろう。その為の入れ知恵をしておいたから楽しみだ。



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