136・そんな無謀な事が出来ると思うのか?
無自覚にも暴露しまくりのコレを連れて、今度は戦士たちが居る練兵場へと向かった。
練兵場には山の民の戦士とナンションナーの兵士が扱う武器が置いてある。
当然ながら、そこには普及型のコンパウンドボウや和弓もあるのでそれらを見せることにした。
「これは凄い!映画で見たことある弓と、和弓?」
あのな、その言動、今まで誰も気にしなかったのか?あまりにも常軌を逸してるぞ。逝ったヤツと思われてたんじゃなかろうな。
可能性が無くも無いか。兄もこんなだからナンションナーへ寄こしたのかも知れんが、お友達にはなりたくない。早く何とかしないとヤヴァイって!
そう思いながらも、物珍しそうに弓を触ったり引いたりしている姿を静かに見守った。
「射場があるから気に入ったなら射てみれば良い」
あまりに熱心なのでそう言ってみたが、首を横に振る。
「いえいえ、私、剣と槍は何とかなりますが弓は無理です」
などと言い出した。
じゃあ、なんで弓に興味持ってんだろうな。
「弓は無理ですが、ボーガンなら何とかなるんじゃないかと思ったんですよ。ほら、この弓の構造で作れば高威力なモノが作れますよ」
コンパウンドボウを指して得意げに言うが、ボーガンというのは日本メーカーの登録商標ではなかったか?一般的にはそう呼ばれていたが、本来の名前は違うぞ。
中国や日本では弩という同じ機構のものが律令制軍隊の制式装備であったし、欧州ではクロスボウと呼ばれている。
「ボーガンとは何だ?」
わざとそう聞いてやった。
「え?ボーガンはボーガンですよ。こう、銃みたいな形をした弓ですよ」
おい、マヂでこいつは何を言っているんだ?これで良く20年近く生きてこれたよな。まあ、俺も記憶を取り戻したのはあの戦いの時だったし、コイツも赤ちゃんの頃から前世の記憶があったとは限らんが。
「銃?次々と分からない名前が飛び出すな、境界伯」
呆れたように俺がそう声を掛けるとどうして良いか分かっていないらしい。
「そのボーガンというのはクロスボウに近い武器の様だな。固定式の台木に小弓を取り付けたモノだろう?確かに近接では威力が高いが、山の民や森の民は必要としない。我々にしてもここではイノシシや熊も相手にする事がある訳だが、一撃の威力が高かろうと連射が効かないのでは使い勝手が悪すぎる」
敢えて言わないが、ウゴルの曲芸乗りにはどっかの騎馬隊への斉射のような戦法も無理だろう。障害跳びの様にスルっと避けられるのがオチだ。
「クロスボウ・・・・・・、そう!ですです。連射性ならてこの原理でレバーを付けやればいけますよ」
現代中国にある観光用連弩は威力度外視のオモチャなんだがな。
「カレロならば、相手はウゴルだろう?連中相手には使えないと思う。無防備に連射をするような暇があるなら神盾で防ぎながら槍を突き立てた方が効果があるだろう。その様な戦いで戦果を挙げたと聞いている」
そう返してやると腕組みして黙り込んでしまった。
しばらくブツブツ言っていた。
たしかに、クロスボウは誰でも扱える。弓と違って高度な技量も、休まず感覚を維持し続ける様な困難さもない。
弓などどんなに上手く射る事が出来ようとも、長期間休めばやり直しだからな。
だからこそ、その扱いやすさから弩は律令制の軍隊で使われていたんだが、精密兵器なので管理の手間がかなり掛かっていたという。盾や槍に比べればそのメンテナンスは天と地。
「境界伯、もしかしてクロスボウをカレロに持ち帰り、神盾兵団に与えるつもりだったのか?」
そう、わざわざボーガンとか言い出すとすれば、弓よりも扱いやすいという点を持って、カレロ防衛の武器にしようとしたと考えるのが妥当だろう。
「なぜわかったのでしょう?いえ、あれだけの戦功を挙げている公であれば、当然ですね」
と、現実に戻って来れたらしい。
「そうなのですが、いえ、そうではないのです。公は生存圏という考え方はご存知でしょうか?」
生存圏。
軍事的な意味合いで言えば、絶対的な領域を確立するために必要な外周部や緩衝地帯を巡らせることだったか。
或いは、政治的には自己の立場を確立しうる絶対領域の確保とかいう意味合いを持つ考え方だっただろうか。
などと考えを巡らせていると、どうもその様な事らしい。
「生存圏というのはですね。カルヤラが現在の様にウゴルの脅威にさらされないために必要な領土的広がり、そして、交易拠点の確保の事です。まず、カレロより南方、ネバー川河畔域までを我が領とし、カルヤラ海対岸に広がる都市も出来れば手中に収め、ウゴルを完全に内陸に閉じ込めてしまうのです」
ど、なんだか熱を帯びた演説を始めている。
「おい、そこの兵、境界伯はお帰りらしい」
うんざりした俺が演説の途中だが、周りにいたナンションナーの兵士に声を掛けた。
「お待ちください!これは陛下の承諾を受けた話なんです!」
それこそ面倒くさいし、縁辺には関係のない話じゃないか。
陛下の承諾という言葉に兵士も動きを止めたので、俺も兵士に行って良いと合図を送った。
「縁辺には関係なさそうな話だが?」
不満顔でそう問うと、意外な話が返って来た。
「山の民とも協力して行う話ですので、公のお力が必要です。公は半島にある港街へも往来してるとか」
ああ、そんな事もあったな。
「そうです。彼らの交易先でもある沿岸独立都市をウゴルから解放し、交易同盟を結ぶんです」
コイツ、転生先を間違えただろ。転生するなら星間国家の准将にすべきだったんじゃないか?そうすれば少しの間は気持ちの良い夢が見れただろうに。




